摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

大満寺山(608m)・・・島根県 隠岐の島町

飛行機のチケットを買う時は大抵酔っ払っている。JALのセールで

全国一律6600円。前から行きたかった隠岐には伊丹から便がある。

就航しているのはJALだけ。つい適当な日程でクリックしてしまう。

さて航空券は買ったが宿を調べてみると高い。というかそもそも適当

な宿が少ない。とりあえず初日の宿は押さえて、後はキャンプすれば

何とかしのげるという計画。なんだか数年前に行ったハワイと同じだ。

伊丹から一日一便しかなく隠岐空港に到着すると13時を過ぎている。

宿のチェックインは16時からだし、快晴の午後を無駄にしたくない。

隠岐の島の最高峰、大満寺山が西郷から割りと近いので登ってみよう。

空港バスが到着する西郷港から、西側へ戻り八尾川に架かる橋を渡る。

北側に見える山が大満寺山だろう。600mと言う割に低くくないか。

今日の宿は観光ホテルが運営するゲストハウス。本館に荷物を預ける。

登山口へタクシーで行こうと思う。でもホテルの方が全社に電話して

下さるが一台もつかまらない。コロナ明けで観光業は繁忙期のようだ。

仕方ないので大満寺山に向け歩き始める。行ける所まで行ってみよう。

30分程も歩くと港に戻るタクシーを見るが、手を挙げても断られる。

予約が入っているのか。やっと3台目が乗せてくれたが少し迷惑そう。

ここで良いかと有木(あらき)集落の奥で降ろされた。1070円也。

事前に調べた登山口までは、まだ舗装された林道が続くみたいだけど。

降車地点から少し進めば、運転手が嫌がった理由は何となく分かった。

落葉が積もる林道の轍は軽トラのもの。乗用車では入りたくなかろう。

林道は意外に長く続く。前のピークが山頂だと思うが中々近づかない。

千円も払ったのにタクシー降車地点の標高は、僅か21mに過ぎない。

大きなダムの上流を橋で渡ると、右斜面の擁壁に階段が作られている。

地理院地図には破線がある。此処が取り付きと思うが道は続いてない。

林道が奥へ伸びる前の道かも。ようやく林道終点と思われる所に着く。

車両が回転できる余地に加え、案内板や道標もあるので登山口だろう。

案内板の基礎に座り込み昼食にする。西郷の街で見つけたパン屋さん。

最近に開店されたらしい。最初に目に入ったクイニーアマンを選んだ。

クリームチーズが入っていて馴染みのあるのとは違うが美味しかった。

案内板のコースタイムは頂上までピストンすると3時間となっている。

現在14時30分。暗くなるのは19時過ぎで、明るい内に戻れそう。

さて行こうかと腰を上げたら道がない。舗装された先はゴーロの河原。

計画する時に見たのは町の公式観光サイトだけ。山中にある乳房杉は

屈指の観光名所とされている。てっきり整備された遊歩道と思ってた。

湿ったゴーロは滑る。さして長い距離ではないが観光気分だと厳しい。

河原を越えると広くて緩やかな道が現れた。以降ずっと同じような道。

良い道だけど落ち葉が降り積もって斜面と区別の付きにくい所が多い。

明るい内なら問題ないが、暗くなるとライトがあっても絶対迷いそう。

山名の由来である大満寺に到着。本堂は崩れ落ちて廃虚と化している。

鐘楼も残っており撞木は朽ちかけているが、まだ鳴らすことが出来た。

参拝者用トイレや倉庫があったりと、そう遠くない昔の隆盛が伺える。

それほどの古寺とも思えず、後で調べると明治35年に再興された寺。

15年前まで小中学校の教育キャンプ場だったそうで、随伴の教員は

庫裏に宿泊していたとか。廃寺を過ぎると手入れの良い植林帯となる。

植林帯を歩いて行くと窓杉と記された道標がある。一段下に杉の巨木。

ここだけ丸木階段やベンチが設けられ観光地仕様。案内板があり樹高

23m。幹囲11m。中央を窓に例えてか。ハム的には連理の杉かと。

主稜線の峠状に到着。反対に400m下れば観光名所の乳房杉がある。

時間と体力があれば往復したいが、西郷まで歩いて帰る事を考えれば

無理。島の東岸から車道が延びていて、観光客はレンタカーで訪れる。

乳房杉分岐からは徐々に傾斜が上がり、やがて固定ロープまで現れた。

左右二本も設置されているのは太いクレモナロープ。さすが漁業の町。

昨日の雨で登山道はとても滑りやすく有り難くロープを使わせて頂く。

傾斜が緩くなると丸い岩が露出するようになった。苔むして滑り易い。

これは山頂まで続いた。この部分も観光客向けの散策路とは言えない。

北側の峠へ車道が通じており大満寺山頂には徒歩30分で到達できる。

観光パンフレット等には山頂から乳房杉や屏風岩を周回するコースが

推奨されているが、山歩き用の足拵えは絶対必要である。我々も甘く

見ていた所がある。摩耶山の道より全般的に厳しいし人気も全くない。

15時40分、ようやく山頂に到着した。林道終点から1時間10分。

大きなコンクリートの方位盤が鎮座していた。その向こうには立派な

一等三角点があった。低いと言えども隠岐の島最高峰だけの事はある。

眺望は広いとは言えない。南側から西側にかけてのみで90度もない。

先鋒でなく足元は見えず景色は狭い。そもそも自然な状態では眺望は

皆無だろう。遠足で訪れた子供達に町を見せる為に刈られているよう。

入り組んだ西郷港の眺め。正に天然の良港。その向こうに空港らしき

草原も見えている。残念ながらもう発着便はないので飛行機は見れず。

とにかく好天恵まれた事を祝おう。残りアンパン一個を二人で分ける。

西側に見えるのは島前の中ノ島であろう。予定では明後日渡るつもり。

最近は山での食事に興味が薄れた。家族に促されなければパン屋にも

寄らず、水だけで持って来ていただろう。非常食という概念も必要だ。

方位盤は島根県立西郷水産高校の創立八十周年を記念して作られた物。

中央に校章。島内の地名に並んで世界の都市が書かれていて気宇壮大。

16時になったのでそろそろ下ろう。明るいうちに車道に出れそうだ。

山頂から乳房杉の分岐まではコースタイムが15分なのに、20分も

掛ってしまい焦る。だがその後は調子よく下る。大満寺の参道を守る

二本のクスノキ。この大きさを見ても由緒ある寺だと思うが今は廃墟。

林道に出たのは16時50分。上りの7割のタイムなので標準的だが、

気分的には楽に下れた。路傍にはアザミの花が多い。オキノアザミ

という名で一般の種よりトゲが多いとか。この旅行中は何処でも見た。

有木の集落が見えて来た。時間潰し的なハイクだったが存外に楽しい。

金曜までずっと晴れの予報。飛行機のキャンセル料は50%であるが

雨天が続くなら止む無しだと思っていた。ホッとする隠岐の島の初日。

西郷に戻るまで美しい農村風景が続く。路傍にゴミ一つ見る事もない。

アザミの次に目立っていたのが此の花。画像検索するとウツボグサと

云うらしい。日本各地に自生しているとのことだが初めて見たと思う。

途中の食堂で夕食も摂って西郷に戻って来たのは19時と意外に早い。

八尾川に面したゲストハウス。OTAのクーポンで一室6300円也。

乾燥洗濯機あり。こんな宿が各島にあればテントなんか持って来ない。