貝ヶ平という名は山歩きを始めた頃から知っている。なぜなら当時は
中西政一郎氏編「近畿の山」に乗っている山を片っ端から歩いていた。
だが交通至便で標高もまず々の此の山は、最後まで一度も来なかった。
何度か計画したが本の記事からも大きな魅力を感じなかったのだろう。
それから45年の月日を経て、歩いてみようかと思ったのは山自体で
なく下山後に行きたい食堂を発見したからにすぎない。曇天の月曜日。
尼崎と鶴橋で乗り換えて到着した榛原駅は薄ら寒かった。駅舎からは
大型マンション内に通路が伸びており、いかにもベッドタウンという
様子である。斜面に作られた住宅街を右往左往してやっと道標を発見。
山頂に展望は期待できないようなので、雨さえ降らなければ良いやと
思って歩いている。ようやくと棚田の農村風景を見るようになったが、
すぐ貯水施設が現れる。後は植林帯の中、舗装車道を歩いて行くのみ。
鳥見山中腹の公園に到着した。駅から1時間弱掛っているが住宅地で
迷わねばもっと短かかったはずだ。かつてキャンプ場だったらしいが
現在は管理棟が閉鎖され、トイレがあるだけの只の園地となっている。
尤も草刈りなど十分な手が入っており、園内は美しく整えられている。
一段上には小池があるというので、回り道して山頂に向おう。最初に
現れたのがイロハモミジの大木。紅葉の季節に来ればさぞかしと思う。
思ったより大きな池の周りに遊歩道がある。前述した「近畿の山」に
よれば、神武天皇が即位後初めて新嘗祭つまり大嘗祭を行われた所と
云うが、後で調べると隣の桜井市にも鳥見山があって同じ伝承がある。
何の知識もないので此れ以上言及は避けておこう。池を離れてからは
落葉樹の林を九十九に登って行くと、桜の木が疎らに植樹された斜面
にでた。既に紅葉が始まっており秋を感じさせる。眺めも中々に良い。
道標に従って南側に進むと展望所があった。270度の大展望である。
伐採による人工的な眺望だが、東海道自然歩道の一部として整備され
たよう。南には大高の高嶺。東には隣に額井岳(812m)が大きい。
西側へと目を転ずれば多武峰、金剛山、葛城山と旧知の山々に加えて
可愛らしい大和三山も同定できる。良い場所だと思いゆっくり休憩を
摂っていたが、惜しむらくは此処は山頂ではない。そろ々先へ進もう。
展望所下から東海自然歩道が東へ下って行く。その道標が目立つので
紛らわしいが貝ヶ平山を示す道標も少し離れた所にある。今までより
随分細くなった道を北西に進んで行く。この先は植林帯が続くだろう。
退屈な植林帯歩きを20分ばかりこなすと、鳥見山の頂上に到着した。
いくばくか休憩する人もいるのだろう。それ用の丸太が転がっている。
我々は足を止める気にもならず先に進む。緩やかに鞍部へ下って行く。
貝ヶ平山との鞍部は過ぎたがしばらくは緩やかな道が続く。大部分は
植林帯で明瞭な道だが、部分的に笹が繁っている所もある。それ以外
記すこともないほど退屈な道である。暑くないのが唯一の救いだろう。
やがてトラロープが設置されるほどの急傾斜となる。地形図によれば
貝ヶ平山の頂上直下である。登りきった所には香酔山への分岐がある。
緩やかな尾根道をほんの僅か辿れば、樹林に囲まれた山頂に到着した。
四囲を囲まれた石柱があり、妙法奉大天狗小天狗鎮座と彫られている。
その後に旧字体で記された二等三角点があった。かつてはそれなりの
眺望が有ったろう。山名は東南面の山腹から貝の化石が出た事による。
下りは往路を戻る。これからが本番だ。目指す食堂のランチタイムは
14時まで。混雑を避けて13時頃に着くよう展望所で時間調整する。
公園からは30分ほどで到着する。だがそこには衝撃の貼紙があった。
よく雨女雨男と言うが、ハムは臨時休業男なのか。天理のとんかつ屋、
壺阪山のにゅうめん店に続いて、この鶏焼肉店で三連敗目。それとも
奈良県あるあるなの。失意の内に駅へ戻りコンビニでカップ麺を啜る。
今日のBGM・・・そして僕は途方に暮れる