摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

摩耶山 寒谷北尾根から木ノ袋尾根を巡る

菜種梅雨(なたねづゆ)という言葉があるらしい。我々は春の長雨と

言っていたな。日曜日は雨量は少ないものの、一日中雨が降っていた。

週間天気予報も月曜だけが、晴れの予報だったので山に行く事にする。

JR摩耶駅から見る摩耶山長峰山。晴れの予報を信じ今日も雨具は

持っていない。暗い雲に覆われている。昨日の雨が日光に暖められて、

水蒸気が雲となってるだけと思いたい。歩き出すと汗が噴き出て来る。

水道筋商店街からは国魂通を北上する。暑くなりそうなので丸山公園

下の自販機でエナジー系清涼飲料水を1本補給する。永峰堰堤脇から

山に入ると新緑もすっかり色濃く、モチツツジの花が咲き乱れていた。

東谷出合で小休止する。家族が足指が攣ったというので芍薬甘草湯を

飲むように言うと、粉末薬はオブラートを使わないと飲めないという。

昨日の雨で岩が濡れている。苔や落葉も加わって良く滑って少し怖い。

摩耶堰堤下でも2回目の休憩。小学校低学年の頃にオブラートは卒業

したハムには信じられない。家の薬箱にオブラートが入っているのを

ずっと不思議に思ってた。家族に飲み方を教えると簡単に飲めている。

予定コースは全て歩いた事のある道ばかり。昨晩に危険個所を考えて、

一番怖いと思ったのが、この摩耶堰堤を乗越す部分。家族にその事を

言っても鼻歌を歌ってバカにする。猪が路肩を掘り返し狭くなってる。

公設道標のある一般道だが此処で躓いて転落すると、河原の岩盤まで

落ちてしまう。また山側の斜面には浮岩が多く落石の危険が常にある。

まあ普通に歩けば何という事もないが。先を行く家族が何か言ってる。

追いついてみると、乗越した先にあった山桜が無くなっていると言う。

探してみると根ごと岩から剥がれ落ちていた。毎年白い花を咲かせて、

季節の進み具合を教えてくれた。我々には標準木のような存在だった。

岩盤に乗った薄い表土が、木の成長に耐えられなくなったのだろうか。

この斜瀑の乗り越し部分も、いつも濡れていて危なっかしい。冬季は

全体に氷が貼る事もある。その場合は左岸のガリーを越える方が良い。

摩耶第三堰堤では工事中の迂回路が、そのまま一般道となっているが、

旧道を辿った方が堰堤上の河原に下るには近道。以前に比べると相当

踏跡が固くなっているので、寒滝を見に河原に降りる人が増えたよう。

旧道から下る踏跡は2本あるが、堰堤に近い方がまだ安全かなと思う。

昨日の雨で水量がそこそこあって立派に見える寒滝。上部から落石の

危険があるので長居はしない方が良いと思うが、しばし見とれていた。

今日は寒谷の左岸尾根を辿るつもり。滝から20m程上流で藪に入る。

すぐにガレの押出しに出会う。木ノ袋谷出合からダム建設時の作業路

もあったが、このルンゼ上部の岩が非常に脆いので使わない方が良い。

此処も常に落石の危険がある所。右岸(向かって左側)寄りに登って

行くべき所を、家族は左岸側の樹林に逃げてしまった。何度も歩いて

いるのに覚えていなかったみたい。ルンゼを渡るのは無用な事である。

右岸に渡って来た家族は斜上するバンドを上がって行く。木の根や幹

がハシゴ代りになる。ルートに沿って堰堤工事時代の電話線が張って

あるが、残置ロープ代わりにしているだけで元の配置とは違うだろう。

尾根に乗ると六甲道辺りが見える。右側の白い花はアオダモだろうか。

寒谷北尾根はミツバツツジの開花が比較的遅いので、ほんの少し期待

していたのだが、周囲を見回しても新緑となったツツジの株しかない。

尾根にはダム建設工事時代の作業路が残っている。勿論それ以前にも

道はあったかも知れないが、中腹の岩場の険しさを思うと、日常的に

歩かれていたとは思えない。道の両側の藪はほとんどがミツバツツジ

岩盤が露出し斜度が上ると中腹のプラトー(尾根の平坦部分)も近い。

この辺りはシロバナウンゼンツツジがチラホラ咲いている。開花から

少し日にちが経っているのか、やや瑞々しさに欠けた花ばかりである。

いやツボミがあるからそうでもない。昨日の雨に打たれて萎れている

のだろう。ツツジの類は冷雨に弱い。対岸に見えるのは急峻な南尾根。

目を凝らせば樹林の中に、岩ジャレの巨岩の積み重なりが見えるはず。

中腹のプラトーに到着。右下には飯場小屋跡と思われる平削地もある。

その頃は山上に駐車して此処まで往来されていたのだろう。この尾根

では中腹より上部の方が道が良く残っている。ただ難しい岩場がある。

次に現れる岩場は藪に覆われ実態が見えない。下部が切れているので

左から回り込みガリー状を上る。核心部は数mにすぎないが落ちると

確実に重大事故になる。今日は岩が濡れていて我々には難しいだろう。

運動神経もバランスも衰えるばかり。そこで南側にあるルンゼを使い

迂回しよう。西谷側へトラバースする旧作業路を辿る。以前はもっと

明瞭な道跡だったが分り難くなった。巨岩を回り込む家族が何か言う。

道が無いというのだ。一旦下方へ回り込んで振り返ってみる。確かに

地面は踏み固められ道を感じるが、この状態では無いと思うのも当然。

此の先も下り過ぎると崖なので、高度を保ち薄い踏跡を追って行った。

岩屑の詰まったルンゼに到着。此処は寒谷の治山ダム上から遡行して

来ることも出来る。稜線まで此の調子で急峻だがスリップ即大事故と

なるような岩場はない。ただし落石には十分な注意が必要と思われる。

浮き岩が多いので最初の内は一人づつ動く事にする。家族が安定した

場所まで行ったら停止しハムが動く。場所によっては二人が近接して

動いたりもする。三人以上となると逃げ場が限られ難しくなりそうだ。

家族が木の股に挟まれた岩を頼ると、ゴッソリ剥がれ落ちそうになる。

慌てて戻して上がって行った。最初に歩いた時は尾根道より簡単だと

思ったが、今日はやけに時間が掛かっているし、体力的にきつく思う。

ダム建設時の電話線が出てくれば稜線も近い。最後まで詰め切らずに

家族は右岸の支尾根へ上り、ハムは藪を分け左岸の尾根道に直接出る。

着いたのは608標高点少し下。晴れ上がった空が眩しくて仕方ない。

杣谷を挟んで長峰山が堂々としている。ほどなく上から声が聞こえて

源頭を回り込んで来た家族と合流する。今年は季節の進み具合が早い

のかも知れない。濃淡こそあれど見渡す限り緑色ばかりになっている。

ほんの少しで608標高点。右側の斜面はミツバツツジの群生地だが、

もう花は見当たらない。開花期には花と岩との組み合わせが絶妙な所。

それにしても疲れた。気温は25度まで上がるという。既に汗だくだ。

さて尾根道は濃密なミツバツツジの藪の中に続く。昼食休憩の場所は

旧オテルドマヤ職員駐車場近くの展望岩場と考えていたが、そこまで

体力が持ちそうにない。早く休みたくて東斜面の岩塔へ下る事にする。

体感的には5分位に思ったが、実際は岩塔まで15分も掛かっている。

部分的にルートを忘れていた所もあったり。久しぶりだが相変わらず

爽快な場所。着いた途端に残っていたリアルゴールドを一気飲みする。

傾いているが二人なら十分休憩できる。その昔、此処でお好み焼き

昼食を摂った事もあるが家族は忘れていた。今日はスーパーで安売り

していた菓子パン。調理するのも面倒になり簡単な食事が多くなった。

岩塔では30分程も休憩していた。時刻は14時を過ぎている戻ろう。

この付近はヒカゲツツジの多い所だが、やはり全て花を落としており、

若葉が芽吹きつつある。年によっては4月下旬に咲いていた事もある。

割と大きなシロバナウンゼンツツジの株があり、背景に長峰山が入る

ので写真を撮ってみた。このツツジも日陰を好むように思われ、日の

当たるような所には咲いていない。なので構図的には珍しい画である。

やはり15分掛り尾根道に戻って来た。一株のミツバツツジが無聊を

慰めるように咲いていてくれていた。やはり雨に打たれて萎びている。

此処から旧オテルドマヤまで緩やかな尾根道が続く。しかし長かった。

疲労困憊し休み休み歩き、ようやく旧オテルドマヤのジャグジー下へ。

この辺りから藪を分けて岩の丘へ抜ける事も出来るが、いつも面倒で

ジャグジーの脇を通過している。ホテルの営業中も人がいた事はない。

岩の丘の歩道に出るとヤマツツジが朱色の蕾を膨らませていた。この

ツツジは5月に入ってから咲くイメージだったが、やはり例年よりも

少し季節の移ろいが早いのかもしれない。事実歩いていると暑いほど。

昨年3月末で営業終了。結局一度も泊まれなかった。こんなブログを

しておき乍ら残念な事だ。今なら県民割を使って泊まるチャンスだが、

時既に遅し。今後どうなるのかな。第二のマヤカンに成らぬ事を願う。

もう山寺尾根を下ろうかとも思ったが、それも退屈なので予定通りに

アゴニー坂から木ノ袋尾根に入る。家族はマヤビューラインの年券を

買おうと言い出す。だが今の居所では買っても、十分に活用できない。

笹原に入ってから小アブと黒い羽虫が五月蝿くて仕方ない。人の涙を

吸いに目に纏わり着くので、総称してメマトイと云うらしい。今年は

大発生の年なのかも。足元に昨日の雨で落下したミツバツツジの花弁。

波打つような笹原の尾根を歩いて行く。摩耶山系でも好きな場所では

あるが、10匹もの羽虫にたかられては楽しくない。家族に言われて

マスクをしてみると少なくなるが、暑くて我慢できずズラしてしまう。

木ノ袋尾根の円頂では、高木のミツバツツジが花を残していてくれた。

すでに若葉も大きくなっているので、印象は薄いがそれなりに綺麗だ。

群生地ではあるけれど、葉が萌え出る前に咲き揃う記憶は一度もない。

本当は此処で座り込んで休憩したかったが、メマトイに付き纏われて

足を止める気にもならない。水分を摂らないと又足が攣ってしまうが、

下っていけば虫のテリトリーから外れるかもと期待してそのまま進む。

下りに掛ると薄いピンク色のシロバナウンゼンツツジが迎えてくれた。

名前の通り白い花を咲かせる株がほとんどだが、僅かだがピンク色の

株もある。寒谷北尾根のそれと比べると花弁も大きくて葉を圧倒する。

この尾根は何度も歩いているけど、これほど満開だったのは初めてだ。

尾根の上部ではミツバツツジも僅かに残っている。両側の斜面に多い。

かなり下まで花が咲いて、奥行きのある風景だが写真では分らないな。

尾根道が行き止まり東側斜面に転ずると、一段と大きな群生地がある。

肉眼だと白い花だけ見るのでもっと綺麗だが、写真にすると緑の葉が

目立ってしまう。まあ山寺尾根を下らずに此方へ回った甲斐はあった。

疲れていた家族の機嫌も少し良くなった。だが相変わらずメマトイは

纏わり続ける。摩耶山でこんなに五月蝿かった記憶がない。先を歩く

家族は此の季節にしては蜘蛛の巣も多いとか言うが、それはどうかな。

杣谷道に下りつくと数がグッと減る。それでも二匹は常に追ってくる。

次回は虫除けはもちろん、帽子に付ける防虫ネットも必要かも。いや

今年は秋になるまでは、山に入らないという選択もありかも知れない。

木ノ袋谷出合から寒谷両岸尾根を望む。どちらも急峻で重量感がある。

疲れているし杣谷道はもちろん下りも気を抜けない。家族に上り以上

に気を付けるようにと言うが、相変わらず鼻で笑って聞いてくれない。

摩耶堰堤下で小休止して、500mlの炭酸水を二人で一気飲みする。

此れより下はモチツツジの花が多い。ヒカゲツツジは見れなかったが、

他の四種の花を見れた山行。芍薬甘草湯の薬効か足は攣らずに済んだ。