昔々熊本から大分まで、やまなみハイウェイを自転車で走った時の事、
由布岳の優美な山容が見事だった。一方で関西汽船の弾丸フェリーと
いう企画も知ってはいたが、日帰り往復一万円はコスパが非常に悪い。
それがGOTO割引の対象で、プラス500円で湯布院までのバスも
乗り放題なら悪くない。6時55分別府観光港着岸。バスは観光快速
ゆふりん号を利用。フェリー前バス停でもよいが交通センターへ行く。
そこが休業してたので路線バスで別府駅へ。ゆふりん号バス停に変な
張り紙があると家族が言っている。ハムは気にしなかったが隣のオバ
さんが「そのバスは運休中、湯布院なら駅の反対側」と教えて下さる。
7時40分、駅西口から高校生で満員の湯布院行きの路線バスに乗車。
それで事なきを得たが、ホームページもバス停も運休表示が分り難い。
時刻表にその旨、明確に表示すべきだ。8時25分由布登山口に到着。
登山口にはトイレや休憩舎があり、既に20台近い登山客の車が駐車
していた。登山届を記入投函し、まずは牧野を進む。これから目指す
由布岳が大きい。バス停が既に775mあり、標高差800mの登山。
日向岳自然観察路との分岐で林に入る。ここにもトイレがあり準備を
整える人も多い。我々も上着を脱いで登りに備える。合野越を目指し
良い道が緩やかに上って行く。やはり関西より暖かいように思われる。
完璧に整備されて多くの人が歩く道なのに、紅葉に気を取られたのか、
どうも道を失ったようだ。下生えのない林はどこでも歩ける。何かが
動いた。右手に二匹の鹿がいて、道に迷った我々をじっと眺めている。
何となく向こうだと言ってるような気がして、左手に進むと道に出た。
9時00分、合野越。味気ない道標や注意看板等が幾つも立っている。
地形図によると此処から登山道は、九十九折りを繰り返し標高を稼ぐ。
どれほど難路かと思いきや、緩やかな道が短い間隔でターンを繰返す
とても歩き易い道だった。背の高い落葉樹の林を抜けると、段々疎林
となり光に包まれるようになる。真南を向いた斜面で夏は相当暑そう。
展望の良い所が幾つか現れる。右手に見えるのが、おそらく九重連山。
湯布院の温泉街が思ったより近くに見える。左手に雲の上に浮いてい
るのが、祖母・傾の連嶺であろう。手前には倉木山に広がる雨乞牧場。
見上げれば由布岳の西峰と東峰。火口を挟んで聳える両者の標高差が
僅かに3mと言う不思議さ。イメージ的には優美な草山だったんだが
改めて調べてみると、活火山で大きな火口を巡る山上は険しいらしい。
火口壁に出る手前まで九十九折りの道が続いた。体力の消耗が非常に
少ない道で楽に上がって来られた。もう少しでマタエという所に着く。
ガイド本に鞍部と記されているが、火口壁の上で山頂の一角と言える。
10時22分、マタエに到着。鞍部と言うには余りある展望の良さが
その事を証明している。もっとゆっくりしたいと思う場所なんだけど、
次々と人が上って来られて落ち着かない。水分を少し摂って移動する。
マタエからは西峰と東峰へ行く人に分かれる。鎖場から始まる西峰へ
向かう人の方が若干少ないようだ。それでも前後に数名おられて一定
の速度が求められる。後で思えば少しタイミングをずらせば良かった。
岩は安定しているしフリクションも良いので、上りは鎖に頼らない方
が良いと思うが、真新しい鎖が横にあるのは精神的には良い。むしろ
気をつけたいのは他の人の様子や行動だ。不安定な人をやり過ごした。
なぜだか急いでいる人が多い。我々も帰路を考えれば、ゆっくりして
いられないが、楽しんで歩きたいと思う。だが中々に自分達のペース
で歩けないまま鎖場を通過すると、岩場は続くが傾斜はぐっと緩んだ。
10時45分。険しい鎖場を越えて来たのに西峰の頂上は小広い平地。
山頂としては余り魅力的ではない。東に見える紅葉真っ盛りの鶴見岳
が印象的ではあるが、風景はさして変わらない。休憩はせずに進もう。
西峰の頂上から時計回りに火口壁を巡るコースに入る。多少道が細く
なったが、ガイド本に書かれているような崩壊地には気づかないまま
下って行く。地形図から比高差100m程下るようだがあっと言う間。
下り着いた所から岩場が続く。ところが此処でまた道を誤ってしまう。
尾根通しに歩ける箇所なのだが、岩場の裾を巻く道に入ってしまった。
余り歩かれていないので引き返すべきだったが、気分的に急いでいた。
落ち着かないのは人が多いからでなく、自分達に余裕が無いせいかも。
前回の天草でバスに乗り遅れそうになったのが、トラウマになってる。
西峰頂上で一緒の人達は皆さん、火口壁の周回コースを来られるよう。
それが良い選択だろう。歩く方向について規制はないが西峰の鎖場を
下りにとると、渋滞を発生させることになる。東峰の登り返しも岩場
が続いて、どんどん標高が稼げるので、さして疲労を感じずに済んだ。
11時36分、東登山口への分岐。時間が無ければ正面登山口に戻ろ
うと思っていたが、東登山口経由で猪の瀬戸バス停へ下ることにする。
その前に東峰をピストンしておこう。要所にしかない道標が好ましい。
マタエにあった派手な私製道標を除けば、無用なマーキングも皆無で、
とても気持ちよく歩ける。穏やかな様に見えて岩場の道が続いている。
巨岩が積みあがる中を抜けていくようにして、東峰の頂上に飛び出た。
人の好みはそれぞれだが、もし時間が無くて、何方か一峰だけ登ると
したら東峰を選ぶだろう。例え3m低くても山頂の雰囲気は断然勝っ
ている。実際にマタエから、東峰のみをピストンする人も多いようだ。
頂上の一段下には広場があり、多くの方が休憩されている。偶然かも
知れないが頂上は火口壁を周回してきた人。広場はピストンする人達
と変な棲み分けが出来ていた。西峰の頂上にも多くの人の姿が見える。
時刻は12時8分、両夜行で日帰りなんて昔のスキー旅行みたいだが、
天気予報を確かめてから、船の予約を入れられた事が今回最大の利点。
但し忙しいのは間違いなくて、残り6時間で温泉も楽しみたいと思う。
それでも東峰山頂には20分もいた。行動食のクラッカーを口にして、
下山に掛る。分岐に戻り東登山口への道に入ると、急傾斜が連続する。
別に紅葉に期待して来た訳でないので、素直にキレイだなって思える。
何しろ先々週行った天草の山が、照葉樹と檜林だけだったので、九州
で紅葉が見れると思っていなかった。いや2年前に行った雲仙普賢岳
を忘れていた。もしかすると火山なので、植生も似ているのだろうか。
日向岳との鞍部まではずっと下生えのない落葉樹林が続く。その間は
一人のハイカーとも出会わなかった事にも気を良くしている。紅葉の
シーズンだったからか、今日の人出は山のスケールに比して多すぎる。
平日でこれだから週末はどんなだろう。鞍部からエコーラインの車道
に出るまでの区間も、雰囲気の良い林相が続いた。地形図上で等高線
の間隔がとても広いのだけど、歩いてみれば普通に傾斜がある山道だ。
13時44分、東登山口に出る。此処にも10台余りが路駐していた。
仰ぎ見る鶴見岳は三つの峰に分かれている。今見えているのは南平台
だろうか。山上施設が多くあり魅力に欠けると思っていたがどうかな。
14時00分、猪の瀬戸バス停。やっぱり運休中の観光快速の時刻が
そのまま掲示されている。10月31日からの一部再開を告げる下の
張り紙に注記してあるに過ぎない。運休は周知の事実という事なのか。
14時22分の路線バスに乗車するが、地獄のある鉄輪には行かない。
予定していた立ち寄り湯は諦めた方が良さそう。別府駅へ戻り市営の
竹瓦温泉で汗を流す。風情のある施設だが浴槽だけで300円は割高。
18時45分に出港。実際は1時間前に乗船手続きを求められるので、
滞在時間はそれだけ短い。由布岳は期待通りの良い山だったが、別府
まで来たなら一泊はしたいもの。慌ただしさが記憶に残る旅となった。
今回の山行は「SANNYの青い空の下で。」さんのブログを参考に
致しました。ありがとうございます。2020年になってから更新を
されていないのが気になりますが、独創的な行程が魅力のブログです。
今日出会った動物。合野越の手前で道を失った時、アホかいなと見て
いた鹿さん二匹。比良などで見る鹿より毛色が薄く、体形もズングリ
しているような。近づいても逃げず、キーンという警戒音も発しない。