特に予定もない月曜日の朝。窓から朝日が差し込んでいる。天気予報
は薄曇り。明日以降はまた梅雨空だという。四日前の水量からすれば、
摩耶山の各沢も良い具合のはずだ。ふと東谷に行ってみようかと思う。
東谷の入口では小学生が大勢遊んでいた。だが深谷堰堤上まで来ると
雰囲気が悪い。天端には荷物の入った大型ザックが放置されていたり、
左岸の居住地跡から幾多のゴミが流れ出ている。とりあえず入渓する。
最初に出会う二段の滝。下段の小滝前で、家族は暫し考え込んでいた。
なにも言わないでいると水心から取り付く。苦労して斜上して行くが、
ホールドがポロポロ抜けたんだそう。ハムは右側の流水手前を上がる。
扇状の上段は滝身の右側からとりついて、中段から中央寄りに抜ける。
水量はまずまずだが、数日雨が降ってないので減水傾向。下段の滝で
数分間苦闘していた家族のザックは水浸し。袋に入れた着替えも同様。
二段の滝を上がると弥生滝が見えてくる。右岸にコンクリートの遺構
があるので、かつては行場だったのだろう。ならば昔の道跡があるか
もしれない。しかし探しもせずに右岸寄りのガリーから越えてしまう。
東谷は黒い藻が多くてジャガーシグマだと滑り易い印象だったのだが、
増水でヌメリが取れたか記憶よりは歩き易い。調子に乗って黒い藻を
踏んでみると、やっぱり滑る。枯れ枝や土石が流され視界が随分広い。
一般道が交差する辺り。ハイカーに出会うと恥ずかしい思いをするが
気持ちの良い小滝が連続するので谷通しに歩く。後ろから見ていると
もっと水心を歩けば楽しかろうと思うのだが、水際を選んでいる家族。
此処は巻くかなって思ったけど、そのまま進んで行った。突っ張り系
の好きな人。ところで東谷を選んだのは、先週書棚から引っ張り出し
た「アルパインガイド近畿の山」の影響。地蔵谷と東谷が載っている。
見返滝は登っても深谷第二堰堤にすぐ遮られる。家族は一般道で巻こ
うとサインを送って来るが、ものはついで。滝壺の色がやけにキレイ。
堰堤の天端にはゴミで満タンのレジ袋が二つ。何だか嫌な予感がする。
「アルパインガイド近畿の山」では三段ノ滝と紹介されている行者滝。
比高は5m余とあって所見と合致する。滝身左側の側壁を登って行く。
無住となった行者小屋の下は、ゴミが積み上げられ段々と荒れてきた。
もともと東谷は掬星台から落ちたゴミや、堰堤工事の残滓の多い所で、
気持ちよく歩ける谷ではない。ところが今日は前述したような箇所は
除いて、谷筋自体にはゴミは余り見なかった。豪雨で流されたのかも。
行者小屋の上の岩場で小休止。その後は第三堰堤までトラバースして
しまう。僅かな距離だが小屋前から谷通しに歩きたいと思ってるのに、
いつも忘れてしまう。右岸に支流を分けると、スリット式の第四堰堤。
しばらくで谷はゴルジェ状となり奥に6m滝が掛る。「アルパインガ
イド近畿の山」には、「左手の支流を横切り滝の右岸を巻く」と記さ
れている。現在の残置ロープがあるルートと同じと思うがどうだろう。
小滝を二つ越えると倒れた大木から生えた枝が、それもまた大木に育
っている。元の根は三分の一も無かろうに凄い生命力だ。この先で左
岸に支流が流れ込むので辿れば山寺尾根に達するが、敢て本流を進む。
ガレが現れ水流が無くなると東谷の最も嫌な箇所となる。三面護岸の
水路が掬星台下まで続く。今まで山寺尾根へ抜けたり、途中に現れる
水平路で切り上げたり最後まで辿った事がない。今日は行ってみよう。
登るにつれ傾斜が急になり、コンクリートが滑るので、水路から離れ
気味に上がって行く。ガイド本にも心臓破りの急傾斜と記されている。
歩く人は多いと思うが、踏跡らしきも見つからずに柔らかい土のまま。
結局ロープウェイの駅舎前に出た。平日で人が少なかったから良いが、
観光客の前に飛び出るような事は避けたい。家族に感想を聞くと即座
に「二度と歩きたくない」と返ってきた。昼食は天国ベンチに行こう。
急に決めて来たのでオニギリと沢庵だけ。その分アルコールを多めに
と度数9%のチューハイを持ってきたのが大失敗。脱水状態の体には
キツ過ぎたようで、すっかり体調を崩しまう。まずは一時間近く昼寝。
下山は頂上を越えて天上寺跡に出よう。山頂標識の根元が朽ちている。
一年もしない内に倒れるだろう。何ともパッとしない摩耶山頂。休み
々下り摩耶駅に着いたのは18時。どうも東谷とは相性が悪いらしい。