摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

京都・嵐山(382m)周回ハイク

今年4月に湖北の山に行きたいと思い、金券ショップで阪急電鉄

有効期限11月末の株主優待券を420円で購入した。だが今だ使

わないままだった。夏休みの宿題が出来ない小学生のような不始末。

そこで紅葉が見頃と思われる嵐山周辺の山行を考えてみた。いつに

なく早起きして阪急夙川駅まで歩く。嵐山までの運賃は470円で

しかない。ちなみにJRはさくら夙川駅から嵯峨嵐山駅1140円。

嵐山は初めて来る。駅前に降りた瞬間、欧米の高級リゾートのよう

な匂いを感じた。そう一分の隙のない観光地。お金を使えば相応の

快適さが得られるという雰囲気。この後に間違いでないと実感する。

右に見えるのが嵐山(382m)、左のピークが烏ヶ岳(398m)

此処から直接登れば近いのだが、それでは面白くない。桂川左岸を

トロッコ保津峡駅まで進んで、北側から登ろうという目論見なのだ。

まだ7時半だというのに渡月橋付近には、色んな国の観光客がそぞろ

歩いている。周囲のホテルに泊まった方々が朝の散歩を楽しんでおら

れるのかも。一方では写真を熱心に、撮られている方々もいたりする。

朝霧がかかりハッキリしないが確かに紅葉は見頃だろう。地理院地図

によると、この山塊全体を嵐山としてあり、山名としての嵐山は記さ

れていない。ただハイカーは山名を求めて382高地をそう呼ぶよう。

渡月橋では各国の観光客に加えて、人力車の客引き、結婚式の前撮り

カップル、それに日本人観光客も関西では見かけない高級そうな服装

の方が多い。オシャレなコーヒーショップも良い香りを漂わせている。

何れも我々には無縁な世界だが、非日常的という意味では興味深かった。

ニュース等で嵐山の混雑ぶりは知っていたが、思っていた様子とは少々

違った。まずは渡月橋から桂川左岸を、嵐山公園を目指して歩いて行く。

嵐山が紅葉の名所とは知っていたが、それほどだとは思っていなかった。

だが此の付近から見る対岸の紅葉と、桂川コントラストは実に見事だ。

早朝なので静かで雰囲気も良い。カメラの性能で十分再現できずで残念。

歩道はやがて嵐山公園内に入り展望台の高みに上る。まず目に入って来る

風雅な高級旅館。それ上には大悲閣千光寺。絵のような風景とはこういう

所を云うのだろうかと少々感動。この風景も紅葉の盛期に来てこそだろう。

公園内を北に進んでいくと、敷地の外れに典雅な道標がある。ここからは

歩道というよりは山道。相当多くの方が歩くようで、幾筋もの踏跡が交錯

する。その中で最も太い道を選んで登って行く。どうもパラダイスの予感。

毎朝登山の方達が作られたであろう展望所からの眺め。既に公園は外れて

いるが、出会う方の多くは外国人観光客。ネットなどで調べて来られるの

だろうかな。この先で下ってきた御老人二人に、何処へ行くと尋ねられる。

六丁峠経由でトロッコ保津峡と云うと、「危険な所が有る。行くなとは

言わないが、俺だったら絶対一人では行かない。」と熱心に説得される。

下調べは地理院地図だけだか、そんな所があると思えず笑って聞き流す。

だが次に出会った男性も何処へ行くと尋ねられ、「注意して行け。桟道

があるが一人づつ渡るようにしろ、何なら案内しようか?」と言われた。

それは謝絶したが、よほど我々が頼りなく見えたか、本当に危ないのか。

小倉山(296m)の北側には立派な舗装路があった。山上を少し歩いて

みたが舗装路がある理由は分からない。かつて何らかの施設があったのだ

ろう。進むと右手に頂上への踏跡があったが、眺望も望めそうになく通過。

この舗装路は嵐山高尾パークウェイに突き当たって終わる。この先車道は

自動車専用道路で歩行禁止だという。地理院地図には其処まで記されてい

ない。なるほど先程聞いた話の意味が分かってきた。左手に道が有り入る。

車道に沿って急な斜面をトラバースして行くことになるのだろう。今年の

台風で倒れた木がある。これについても言っておられたが、通過に窮する

という訳ではない。以降は摩耶山でいうと杣谷道ぐらいの危険度であった。

いわゆる京都のイケズて事かな?と言うと、家族に親切で言って頂いたの

だと諭される。太古の昔から六丁峠へは通行があったはずなのに、パーク

ウェイ建設時に、通行権を尊重して歩道を併設しなかったのが問題だろう。

確かに急斜面を横切って行くが、樹林が密生しているので高度感は感じない。

2か所ばかり眼下に保津峡を眺められる所もあって、楽しんで歩いて行ける。

話に聞いた鉄製桟道が現れた。確かに手摺は腐食していてグラグラしている。

忠告を守って一人づつ渡る。桟道自体はまだしっかりしてるように思えたが。

どうも京都に来ると自分の性格も悪くなるみたいで嫌だ。この辺りのニュア

ンスは井上章一著『京都ぎらい』という本が分り易い。最初の10頁程で分る。

山道は300m程で終わり、府道50号線の六丁峠近くに合流する。京都一周

トレイルの標識がある通り此方は歩行可、トロッコ保津峡までこの府道を歩く。

全く期待していなかったのだが、この車道からの眺めが良かった。保津川橋梁

が見える。現在はトロッコ列車のみが通る嵯峨野観光線だが、従前は山陰本線

であった。ハムは大阪万博へ行く為に此の鉄橋を通過している。それが気動車

だったのか、蒸気機関車だったか思い出せずにいる。当時は嵯峨駅では京都に

来たと云う感じはせずに、二条駅を過ぎてやっと京都に着いたと思ったものだ。

今だ朝霧が漂い景色が鮮明でない。上空の雲も多くスッキリ晴れそうにはない。

府道50号線はヘアピンカーブの連続で九十九に下って行く。地理院地図には

此の付近に書物岩という表示があるが、実は河岸の崖であり道路から見えない。

下り着いたところは桂川に掛かる落合橋。それに続く赤橋トンネル。この時は

綺麗な所だと呑気に歩いていたが、京都の心霊スポットらしい。確かに近くに

は廃墟となった観光施設があったりして、夜間に来ると相当に怖いと思われる。

トンネルを抜けると眺望良しとの標識があり、桂川べりに出る。確かに景色は

良いのだが何か感じる。家族は崖の先端まで行くが、ハムは怖くて近寄れない。

落合橋からは離合不能な一車線が続く。時折、軽自動車が通過する生活道路。

歩いているとチャイムが聞こえてきた。どうも列車接近を知らせる音のよう。

どうにかダッシュし発車に間に合った。満員の乗客のトロッコ列車を見送る

定員制でウェブからも予約できるが、今日は全便満員であった。片道をトロ

ッコに乗れば楽しいハイキングになるだろう。運賃は乗車距離にかかわらず

一律620円。釣り橋を渡ってホーム下の階段を、下流側の護岸まで降りる。

清滝トンネル手前まで200m程の区間だが、踏み外すと数m下の岩に叩き

付けられる。今日の行程で一番危険な所だ。注意せねばと思っていたら前方

で家族がグラつく。怖がって内側を歩いていて、埋め込みの石に躓いたよう。

やがて護岸上に水路が現れた。此処から線路下を潜った向こうに道がある。

背後から何やら話し声が聞えてきた。保津川下りの船頭さんのアナウンス。

我々を見つけ何か言われたようで、お客さん達も此方を見て手を振ってる。

年甲斐もなく無邪気に手を振り返したが、なんか楽しい。トロッコ列車

保津川下りの船も1時間に一便なので、期せずして両方見れたのは幸運だ。

さて線路を潜り斜面に取りつく。地理院地図にも破線路が記されているが、

思ったよりも確かな道。それに枝打ちされた杉林なのでさほどに暗くない。

だが登って行くと風倒木が増え、乗り越えたり潜ったり、障害物競走のよう

になる。新しい倒木なので今年の台風の被害だろう。登りだとそうでもない

が、逆コースだと道を失い易いかも。205高地までこのような状態が続く。

尾根に乗ってほどなく、北松尾ロータリーとの標識のある林道終点に着く。

我々は上の写真の小屋裏から登ってきた。この先は林道を外れて、東側の

頼りない山道に入るのだが、標識等は無いので、迷い易い所だと思われる。

山道は482高地の西斜面を巻いて行く。南に進むにつれ段々としっかり

した道となる。その間にも風倒木が絶えず、台風被害の大きさを思い知る。

482高地の南側に回り込むと、植林帯が終わって明るい落葉樹林となる。

かつての炭焼きの二次林のよう。薪炭の需要がなくなった後も嵐山を含む

風致地区として何らかの規制があって、植林されなかったのかもしれない。

以後は西芳寺裏の竹林まで、明るい雑木林が続いた。京都なのでてっきり、

暗い杉林を歩くのかと思い込んでいたので、これは全く嬉しい誤算である。

烏ヶ岳手前の分岐に、実に大まかな私製標識があった。掛けてある場所と

矢印の現在地がズレているが、分かり易い地図で以降は迷う事なく歩けた。

右手に烏ヶ岳頂上を見ながら進む。この付近の樹木も今年の台風で傾い

たのかな。先の地図通りに分岐が現れたので右の道に入り頂上へ向かう。

烏ヶ岳の頂上は樹林に囲まれ、およそ頂上らしくない所だった。僅かに

西側にハイカーが嵐山と呼ぶ382高地が見える。休憩せずに先へ進む。

緩やかな上り下りを繰り返して382高地に向う。次に分岐が現れれば

左の道に入ればよい。保津峡から此処まで出会ったハイカーは一組だけ。

ほどなく着いた382高地(嵐山)は広い平削地であった。嵐山と嵐山

城址と記された私製標識が、二つ吊るされているだけの至って静かな所。

樹幹越しに僅かに渡月橋を望むことが出来る。名前に惹かれて訪れる人

が多いかと思ったが、そうでもないよう。ここで簡単に昼食休憩にする。

昼食を終えた後は、松尾山に向かう。段々道が広くなって歩く速度も上る。

計画段階では逆コースも考えていたが、南下する事にして良かったと思う。

再び京都一周トレイルの標識に出会う。トレイルは此処から嵐山に下って

行くが、我々はまだ歩き足りないような気がして、引き続き西芳寺に向う。

松尾山頂上周辺には展望所があり、嵐山から登って来られた外国人観光客

も三々五々見かける。京都一周トレイルの設置に併せて伐採されたようだ。

松尾山から西芳寺へは、これまでと同じく緩やかな尾根道が続く。明るい

落葉樹林だが印象が薄くて、写真を撮る所もなかった。真東に京都タワー

竹林に入れば今日の山行も終わりに近い。苔寺として有名な西芳寺の裏手。

松尾川に沿って下ると、対岸に西芳寺を見る静かな住宅街。景観条例があ

るのか落ち着いた色合いの家ばかり。から見ても西芳寺は荘厳で美しい

寺で参観して見たいとも思うが、一人3000円以上の冥加料では難しい。

鈴虫寺(拝観料500円)も外側から見るだけ。山の際を北上し入場無料

松尾大社を参拝する。巨大な絵馬で来年の干支が亥(イノシシ)と知る。

再び渡月橋まで戻ってきた。桂川右岸から小倉山を望む。調べると、昨年

遭難事故が起こっている。今朝の方々は其の事を踏まえて忠告頂いたよう。

「観光気分で準備不足」の様に見えたかも知れない。帰りの電車は超満員。

今日のBGM

With every step we take, Kyoto to The Bay