摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

北尾根縦走路から三上山(432m)・・・滋賀県野洲市

滋賀県には住んでいた。JRの車窓から何度此の山を見たことだろう。

或いは比叡山や比良山から眺めた事もあるはず。だが三上山に登って

みたいとついぞ思った記憶はない。標高も山容も魅力的でないからだ。

ところが最近ネット上の写真で、北側から見ると秀麗な姿だと知った。

という訳で阪急で烏丸駅まで行き、京都駅まで歩いてJRで野洲駅

降り立った。通しでJRに乗車するよりも500円以上安くなるから。

野洲駅から南東へ大通りを下って行くとドーンという感じで三上山が

聳えている。中々の迫力だが富士と云うよりは鐘状火山といった山容。

直接には三上山を目指さず、新幹線の高架から左側の道に入って行く。

此の道は旧中山道であり立派な古民家が並ぶ。稲荷神社の参道に入り

本殿脇から山に向かって野洲中学校まで来た。摩崖仏が有名らしいが

北尾根を示す標識は無い。地形図を見て校舎の南側を回り込んで行く。

獣除けの扉を開けて墓地に入る。野洲駅で詳細な登山マップを頂いた。

それによると緊急連絡ポイントM31標識があるはず。墓地の北隅に

それを確認すると、六地蔵から山へ入る道がある。登山口に違いない。

山に入るといきなり花崗岩が風化した真砂土の急坂が現れて面食らう。

背の低い灌木と下生えのシダ藪。まるで六甲山の何処かを歩いている

ようだ。瀬田の南側の湖南アルプスもそうだったと思い出し納得する。

そんな植生だから一登りすると露地があり視界が広がる。思ったより

琵琶湖は遠い。その向こうの比良山は雲を被っていて稜線は見えない。

それよりも足元をひっきりなしに、新幹線が行き交う様子が印象的だ。

登山口から30分ばかりで、相場振山(283m)の頂上に到着する。

狭い山頂には大岩があり、上ると三上山が間近に見えて今日の行程は

楽勝だと思ってしまう。標高から考えてもさしては苦労はしないはず。

北尾根縦走路には消防の緊急連絡ポイント標識の他に、小さな道標が

沢山設置してあった。三上山を目指す分においては、分岐が多くとも

迷う事はない。又それゆえに無用なマーキング類が無いのも好ましい。

次のピーク田中山頂上手前に展望地があった。北側が広く開けている。

向って右から近江八幡の市街、八幡山、湖北の山々も見えているよう。

なお北側の眺望はこの日のコースでは此処だけだった。すぐに頂上だ。

田中山の標高は293mと、北根縦走路では最高所だが樹木に囲まれ

展望は無い。休憩する気にもならず先に進む。東へ向かっていた道が

南側へ大きく方向を転じる。別名は兜鍪山でカブトの意の字が重なる。

南側に下って行くと、左手に希望が丘県営公園が見えて来る。大昔に

学校から遠足で来た。折詰の弁当をあてがわれたがお茶の用意が無い。

苦情も聞き入れられず、炎天下水分無しで食べさせられた苦い思い出。

さらに標高が下がると三上山との間に山稜が見えて来た。すぐそこと

思っていた三上山が遠くなった様な気がする。ここは展望の峰と云う

いかにも後付けな名のピークである。三方向に道が分かれて戸惑う所。

ハムが写真を色々撮っている間、家族は登山マップを熱心に見ていた。

何気なく下りかけると、そっちじゃないと言う。M24標識から右の

道に入るそう。今年の冬は雨が少なく乾ききった松の林を下って行く。

縦走路の脇には奇岩が幾つか現れる。そんな一つに家族が座り込んだ。

以前ならスッと岩の上に立てたろうが、バランスが悪くなったと言う。

一旦鞍部まで下って、登り返して行く真砂土の道が明瞭に判別できる。

下りきると舗装路が現れる。鞍部まで上り返すと調整池の施設がある。

ここまでで結構疲れている。改めて駅で貰った登山マップを見直すが、

予定した行程の四分の一しか歩いていない。これはどうした事だろう。

調整池脇から再び縦走路にとりつく。此処までよりも手厚い道造りが

成されている。それもそのはず此の後は、ひっきりなしにハイカーに

出会うようになった。日曜日でもあるし人気の山であることが伺える。

尾根が分岐するM19標識では、妙高寺山へピストンする団体さんに

出会った。予定は我々もそのつもりだったが、疲れてきたので止める。

比良山にかかる雲が少し上がって、稜線の残雪が少しだけ見えて来た。

まず三上山に登ってから、北向きに縦走される方が多いよう。しかし

その行程では常に三上山に背を向けて歩く事になる。緩やかな稜線を

山容の変化を眺め乍ら歩いて行く。好きなものは最後に食べるタイプ。

六甲山と同じ花崗岩が風化した真砂土の山でなので、植生も似ている。

痩せた松林の下生えはミツバツツジである。此処までも幾株か開花し

ていた。摩耶山ほどの密生度はないけど、一週間後は凄く綺麗だろう。

奇岩がある点でも負けていない。トンネルのような岩組もあったけど

風化が進んで通行禁止。対岸に見えるのが妙光寺山。登山マップには

雑木に囲まれて展望不可とあった。ピストンしなかった言い訳の一つ。

緩やかなアップダウンが続く。曲線を描く登山道の先に目標のピーク。

山で見る風景で一番好きなアングル。もう少し道が細ければと思うが、

こんな低山で見れるなら贅沢は言っていられない。しばし立ち止まる。

次のピークから見る三上山が秀麗である。富士山と同じコニーデかと

思われる山容だが火山体ではないらしい。それはともかく疲れている。

野洲駅から2時間半そんなに歩いた訳でないのに、どうした事だろう。

東光寺越と云う鞍部まで下ると公設ベンチが有った。ひとまず小休止。

その間にも2組が通過される。一息ついた所で三上山本体にとりつく。

すぐに中段の道に出て来た。中腹をぐるっと一周しているという道だ。

中段の道で西側の妙見堂跡まで回り込む。東側へ回る方が頂上は近い

のだが、三上山は表登山道を歩かないと妙味がないらしい。緩やかな

下りが分岐まで続いた。先程までの植生とは一転して針葉樹林である。

分岐から20分足らずで妙見堂跡に着いた。此処から表登山道に入る。

イカーの姿が一段と増える。大学生らしい空身の5人に追抜かれる。

下って来る人達も子供連れが多い。そういえば春休みの日曜日なんだ。

整えられた石の土留階段が続く。途中、二越という展望所に立ち寄る。

西側の眺めはそれほどでなかったが、三上山の山頂望むことが出来た。

円錐形の山なので変化は乏しいが、此処は僅かに西へ張り出している。

更に上ると割岩に到着する。巨岩が幾つかに割れて積み重なっている。

人が通れる隙間があるので、看板には肥満度測定可能と記されている。

見ていると空身の大学生達に続いて、家族もスンナリ通過して行った。

ならばハムも肥満度を測定してみる。入った瞬間は無理って思ったが、

結局、ザックと背負ったまま通り抜けることが出来た。長年の通行で

岩肌が滑らかになっているよう。まあ両脇に道があり通る必要はない。

割岩から頂上までずっと岩の上を歩く。無知なハムも花崗岩でないと

分かる。北尾根縦走路と全く違う岩なので、不思議に思い家に帰って

から検索して調べてみた。堆積岩がマグマの熱で変成した岩だという。

ホルンフェルスというらしい。約1万年前に湖東の火山から噴出した

花崗岩質のマグマの海が堆積岩塊を取り囲んでその熱で変成したよう。

その後に周囲の花崗岩は風化していく中で独り残って聳えているのだ。

全て受け売りで間違っていたらごめんなさい。さて岩稜の道が続くが

全体的には傾斜は緩く、要所は手摺りやロープも設置されているので

緊張する事は無い、但し、もし樹林が無ければかなりの高度感だろう。

やがて前方が明るくなると頂上直下の展望岩に飛び出した。まず目に

入って来るのは野洲川の大きな流れだ。案内板に寄ればポンポン山や

生駒山も見えるらしいが同定できない。風裏で日当たりの良い休憩所。

展望岩も磐座も弁当を使うハイカーで混雑していた。我々は例の如く

昼食は帰路の食堂で摂る予定。一休みしたら先に進もう。御上神社

奥宮に参拝する。此の山は御上神社の所有地で秋には入山規制がある。

頂上は432標高点。三角点のような標石等はない。9月23日から

11月23日までは松茸山となり閉山となる。但し初穂料500円を

払うと表裏登山道2コースのみ通行可とか。情報が錯そうして不確実。

年によって変わる事もありそうだし、そういう期間の登山は避けたい。

下山は花緑公園側登山道。九十九に下る緩やかな道と、真っすぐ下る

急な道。後者を選ぶが家族は辛かったよう。中段の道に出て北上する。

花崗岩の真砂土の道に戻って、東光寺越から御池に向って境谷を下る。

これほど急激な地質の変化、勿論それに伴い林相も大きく変わるのは

珍しい風景ではなかろうか。地学的な興味は無くとも面白いなと思う。

打ち出でて 三上の山を 詠れば 雪こそなけれ 富士のあけぼの 紫式部

思わず山部赤人のパクリじゃんとツッコミたくなるが、時期や出典も

不明らしい。ともあれ見る方向によれば富士の名に恥じない独立峰だ。

野洲駅まで帰って来るとJRが大幅に遅延していて、予定の食堂には

行けず。おまけに急激に気温が下がり列車待ちの間に体が冷え切った。

その為か夜は疲れて苦しかった。桜の開花に期待していたが蕾ばかり。

 

今日のBGM sumika   あの手、この手  42:17

42:17 春風吹けども まだ冷える夜は
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