摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

天ヶ岳(788m)焼杉山(717m)・・・京都市左京区

大原の北側に天ヶ岳という山がある。以前に調べてみたが眺望乏しく

特に魅力は感じなかった。但し4月下旬にはシャクナゲが咲くらしい。

その頃なら行っても良いかと4月第四週に一応の計画を入れておいた。

ところがネットを見ていると、4月16日には満開という記事がある。

慌てて予定を組み直したがままならず、結局21日に行く事になった。

早朝に川端二条のバス停から京都バスに乗り、終点の大原で下車する。

今年は例年になく季節の進み具合が早いよう。昨日京都の最高気温は

29度だった。バス停から寂光院への路傍には菜の花畑。市街地から

バスで約一時間足らず。長閑な風景が広がる。それでいて有名観光地。

高野川から一段上がった所に、焼杉山への取り付きがある。この道は

古いガイド本には載っていない。バス停から近いのが魅力。車で来る

場合は従前の古知谷コースが阿弥陀寺の駐車場を利用できて便利とか。

道はいきなり急登で始まる。登山道と言うより杣道という感じがする。

時刻はまだ8時10分なのだが歩きだすと暑くてたまらない。上着

脱いで以降は長袖Tシャツ一枚で行動する。倒木はなく歩きやすい道。

先週の保津峡駅への下りが倒木だらけで、何度も転んだことを思えば

同じ植林帯の急傾斜でも随分違う。大原バス停から見ても地形図でも

緩やかな尾根と思っていたが、最初の急登のせいかずっと険しく思う。

気の所為というか単なる思いすごし。最初の尾根上のコブに到達して、

一休みしようかと見渡したらシャクナゲが咲いていた。それも群落だ。

規模もかなり大きい。焼杉山にもあるとは思っておらず気分も上がる。

東に向けて下っていく支尾根の北斜面。ビッシリとシャクナゲが自生

している。これだけあれば天ヶ岳に行かなくてもいいかなってチラと

思ったりするが、それは間違いだと後で嫌と云うほど思い知らされる。

その後の尾根道は緩急を繰り返し頂上を目指す。概ね緩やかであった。

標高が上がると背の高いコバノミツバツツジが花を残している。この

よう高木は、摩耶山長峰山でも山頂近くの標高の高い所で見られる。

尾根の南側をトラバースする箇所もある。南側にはシャクナゲの木は

全く無いが、ヤマツツジやウツギの花が新緑に映えて華やかな雰囲気。

それでいてかなりの急斜面を行くので、うっかり転けると相当落ちる。

最近はバランスが悪くなったせいか、岩場よりもトラバース路が怖い。

歩いてる時はそうでもないが、帰ってから夢見が悪い。古知谷からの

道と合流する。この山に入って初めて見る公設道標。行先は金毘羅山。

焼杉山でも天ヶ岳でもないとは乱暴な気がするが、地元の学校の遠足

コースなのかも。この道を歩いて金毘羅山を目指す人は、それほどは

多くないと思うのだが。シャクナゲのツボミが面白い形状。色も濃い。

焼杉山頂上に到着。三角点があり標高718mと思っていたより高い。

周囲は針葉樹の植林帯で、僅かに南側の架線跡に眺望があり、大原の

集落を遠望できる。後から行く天ヶ岳の頂上よりは静かで好ましい所。

頂上の西側でも高木のコバノミツバツツジが点在している。この日は

スマホの地図アプリを使っているが、功罪あるものだと思う。事前に

ガイド本も地図も見ていないし、山の標高も知らずに歩きだしている。

杣道を利用する登山道は直接に天ヶ岳を目指さない。一旦南へ向かい

寂光院からの道と合流する。この部分はショートカットが可能である。

アプリの地図に赤線が引いてあるが、実際は踏跡程度であり頼りない。

尾根が広くなった所で踏跡を外したが、アプリが方向を教えてくれる。

便利だけどこれでは地形も地図も読まずに歩けてしまって成長しない。

寂光院からの杣道と合流した。一気に道幅が広がったのでホッとする。

新緑の美しい杣道。アップダウンを避ける為か、尾根ではなく西側の

斜面を進む。人が歩いて自然に出来た道でなく計画的に作られた杣道

という感じがする。今でいう林道。往時は木場道だったかも知れない。

誤ってスマホ等を落とすと回収は難しそうだ。東又川を挟んで対岸に

見えるのが天ヶ岳かと思われるが確証はない。源頭を回り込むような

感じで尾根道が続いている。頂上までまだ二時間位掛かりそうに思う。

シャクナゲ尾根の分岐までやってきた。小出石に下る一般道の分岐だ。

此処で周りを見回してもシャクナゲは見えない。この時はなんだかと

思ったが、此の分岐が尾根より一段下がった所に位置するからだった。

しばらく急斜面を斜上して行くが、尾根に乗るとシャクナゲが現れる。

さっきの分岐から下部がシャクナゲ尾根と呼ばれ、ある程度の群落が

自生している。そう思っていたがどうやらそんな規模ではなさそうだ。

明日にも咲くだろうツボミが濃いピンクで印象的だ。開くと薄くなる。

ツボミの状態を見るのは初めて。その形状がテルテル坊主みたいだな。

近づくと花はキレイだが、常緑の葉は虫食いでボロボロだったりする。

シャクナゲ咲く北側斜面を見つつ歩いて行くと、やがて下生えのない

明るい落葉樹林帯に入る。ガイド本やネットでは、眺望のない山頂や

シャクナゲの写真しか紹介されていない。予想外の美しさに歓喜する。

本来は下生えであるコバノミツバツツジが、伸びやかに成長している。

それほど長い区間ではないが木々が色づく秋にも訪れてみたいと思う。

山頂付近はやや複雑な地形らしく、左の尾根を越えるよう道標が示す。

尾根を越えると林道があった。この道は地理院地図に記されていない。

このまま進みたい気もするが、残念ながら山頂は南側の植林帯の先に

あるようだ。三叉路を南側に進んでいく。広い林道がグネグネと続く。

ほどなく山頂に到着する。此処は標高点であり標石はない。ちょうど

イカーがお食事中であった。眺望も無いし林道の脇で雰囲気も悪い。

近くに眺望の良い高圧鉄塔あるとか。そちらで休憩しようと立ち去る。

そういや途中で巡視路を見たなと、ろくに地図も確かめずに元の道を

下っていく。ところが行ってみると展望皆無だ。どうやら一本東側の

鉄塔に来たらしい。本物は山頂にもっと近い所だった。数分の無駄足。

戻る気はしないので山頂を望む路傍の岩場に座り込んで昼食休憩する。

もう少し下って花見をしながらが良かったかも。そこからほんの少し

下ると再びシャクナゲの花が現れた。ただ座り込むに適当な所がない。

先に記したよう杣道は途中から尾根を外れ、西斜面を進むようになる。

ところが花を追っている内に気がつくと尾根の踏跡に入り込んでいた。

多分このまま進めばシャクナゲ尾根の道に合流するはずと家族が言う。

尾根の踏跡はまだまだ続く。同じくシャクナゲも左側斜面にびっしり。

此の木は尾根のコブの上に立っている。それが珍しくて写真を撮った。

この先同じような写真が続くが、それはボリューム感を残したいから。

一度右側斜面の杣道が近づいたが、家族は見向きもせず尾根の踏跡を

追って行く。さらに進むと植林帯に行き当たった。よく見ると踏跡は

東に向きを変え下っていく。おそらく一段下に一般道があるのだろう。

此の辺りでは北側斜面だけでなく、尾根上にもシャクナゲの木がある。

トンネルとまでは言えないが、左右それに頭上にも花を見ながら下る。

此の花自体は鈴鹿等でよく見たし、摩耶山の天上寺の庭でも見られる。

だがこれだけ密生地は初めてである。それが予想の範囲を超えていて

興奮が収まらない。踏跡が一般道と合流した。我々が歩いてきた道は

お花見限定の散策路という感じ。展望ないので他の季節は単調だろう。

トンネルとは言えないまでもアーチになっている。シャクナゲの葉は

有毒であるらしい。それ故にシカの食害を避けられているかも知れず。

逆に低木のコバノミツバツツジが見当たらないのは食べられたのかも。

どうやら今年は例年になく花付きが良いという。大当たりの年らしい。

なので来年来ても同じ景色が見られるとは限らない。そう思うと尚更

歩く速度は遅くなりシャッターを切る回数も増える。背景は山頂辺り。

その割にハイカーの数は少ない。焼杉山で誰にも会わないのは分るが

天ヶ岳でも合計4組6名しか遭っていない。金曜日だが少なすぎると

思うがどうだろう。これが韓国なら数珠繋ぎ山は大賑わいに違いない。

日ごろ摩耶山に親しんでいる。山羊戸渡にヤギはいない。黒岩尾根の

岩は黒くないし、天狗道や天狗塚ではもちろんテングを見た事はない。

そんなネーミングに慣れて、シャクナゲ尾根も話半分位に思っていた。

地理院地図のサイトで、シャクナゲの花を見た距離を計測してみると

約2.5kmに及ぶ。その割に標高差は、意外に少なくて150m程。

正しくシャクナゲ尾根。そう思い乍ら下って行くと前方が明るくなる。

城北線九十の高圧鉄塔に到着した。周囲は伐採されて眺望はあるが

どれ一つとして同定できない。歩いてみたい山もあるが運転は出来ず、

バス路線も次々と廃止されてしまった。曇ってきた空の色と同じ気分。

ともかく今を楽しもう。標高が低くなると白い花を咲かした株を散見

するようになる。ピンクの花が薄くなったのかと思うがそうではない。

更に下ると地面に散る花弁を見るようにもなる。今週末が最盛期かな。

正直もういいよって言いたくなるほど続いた。シャクナゲの花だけで

300枚ほど写真を撮っている。気が付くと15時を過ぎてしまった。

早い出発だったので、ランチを市内で摂ろうと思っていたがもう無理。

シャクナゲ尾根の最後は急峻な植林帯。地理院地図に記された標高線

以上の険しさだった。登山口に若干の駐車スペースがあるが一台だけ

停まっていた。高野川を渡ると国道477号線。後は歩くのみである。

大原バス停まで約1時間の歩行であった。観光客で満員だと嫌だなと

思っていたが、京都駅行きは存外に乗客は少ない。地下鉄乗り換えで

料金が高い国際会館前行きがむしろ多い。それはそうとお腹が空いた。