朝起きると雨は止んでいたが雲は多い。昨夜の宿は GoTo 割引適用後
一室4225円。掛け流しの温泉が自慢だけど、温泉宿というよりも
スキー宿。宿泊客は我々だけだったようで、白濁した温泉を堪能した。
標高約850mの蔵王温泉からロープウェイを使って、1331mの
樹氷高原駅へ上がってしまう。。始発は8時30分なので、ゆっくり
宿を出てきた。片道800円。紅葉前の端境期なのか乗客は少なそう。
始発便の乗客は我々を含めて6名。山麓線の乗車定員は53名なので
摩耶山のゴンドラに比べ約2倍の大きさ。更に山頂線が1661mの
地点まで伸びているが、それに乗ると却って行動時間を余してしまう。
樹氷高原駅を降りて山上施設が点在する所で少々迷った。道標が見当
らないのだ。ガイド本には「リフト脇を通る」とあるが、道がある訳
ではなくて、突っ切っていくようだ。ゲレンデの上には道標があった。
どうやら夏山リフトを利用させる為らしいが、僅かな距離。いろは沼
を指す道標に従って遊歩道に入る。砂利が敷いてあったり、石畳だっ
たりして観光客向けな様子。ほぼ平坦と言っても良い道で無理もない。
青空も少しは見えているが、これから向かう熊野岳は湧き上がるガス
に包まれている。いろは沼を過ぎると40分ほど単調な登りが続いた。
針葉樹と灌木が繁って展望もないし、植生に見るべきものもなかった。
やっと主稜線を前方に見るようになる。路傍にエゾオヤマリンドウに
加えてヤマハハコ(山母子)が多くなる。利尻や礼文でもよく見かけ
た花。主稜線を歩くハイカーの熊鈴の音が、風に乗って聞こえて来る。
蔵王で初めて見た花。ウメバチソウというらしい。咲いている状態よ
りも花弁が散った後の、果実が生っている様子が珍しくて目をひいた。
そういえば十勝岳で見たシラタマノキも見かける。懐かしく思い出す。
主稜線へ砂礫の斜面をトラバースする。正面に見える山体が熊野岳か
と思うが定かではない。なんとなくガスが上って行くような気もする。
到着した鞍部がワサ小屋跡、怖い顔をした山姥の像が安置されていた。
主稜線には背の高い木柱が立ててある。積雪期に熊野岳を目指す為の
目印だろう。ロープウェイ地蔵山頂駅からなら、ゲレンデスキーでも
十分歩いて来れるだろう。ただ緩やかすぎて滑降は楽しくなさそうだ。
上るにつれて少しガスが晴れてきた。我々より前方を歩くハイカーが
チラホラ見える。我々はロープウェイ山麓線だけ乗ったが、始発便の
他の方達は山頂線で地蔵山に向かわれた。その人達にしては遅すぎる。
登山道は熊野岳に真直ぐ向かわずに、御釜(五色沼)の外輪山に出た。
石造りの瀟洒な避難小屋がある。宮城県側のガスは多少は薄かったが
次々湧き上がって来るので、待ってくれと願いつつ御釜へ駆け下った。
どうにか間に合った。どのピークよりも蔵王連峰の象徴として有名で、
ぜひ見たかった。因みに羊蹄山には4度も登りながらも、悪天ばかり
で一度もその火口を見れていない。一応の目的を果たせてホッとする。
写真ではスケール感が出ていないが、思った以上に雄大な風景だった。
右側のガスに包まれているピークが苅田岳で、宮城県側からドライブ
ウェイが山頂直下まで伸びている。軽装の観光客も三々五々おられる。
なるほど我々の前を歩いていたハイカーは、苅田岳駐車場を起点にし、
熊野岳や地蔵岳を周回していた人達かも。御釜から熊野岳に向かうが
稜線に出た後はほとんど平坦。稜線というより既に山頂の一角にいる。
最高所には蔵王神社と避難小屋がある。風が強いので小屋の中で昼食
の菓子パンを頂いた。三角点はやや低い所にある。直前まで宮城県の
看板があったが此処は山形県のようだ。地形図の県境は途切れている。
蔵王と言えば山形県と思っていたが、宮城県の誘致攻勢も中々のもの
がある。蔵王温泉やJR蔵王駅は山形県だが、蔵王町や東北新幹線の
白石蔵王駅は宮城県にある。遠来の我々には少々悩ましかったりする。
例えば世間一般に鈴鹿と言えば三重県だろうが、我が家では滋賀県と
思っているのと同じかも。元のワサ小屋跡まで戻って、今度は地蔵岳
に向かう。その標高差は僅かに30m程にすぎない。東北の山らしい。
山頂の一角に上がれば此処もまた平坦な山頂だ。ガスって展望もない
のですぐに下りにかかる。蔵王ロープウェイ山頂線の駅舎が見えるが、
周囲の木々が白く枯死している。これが樹氷となるアオモリトドマツ。
キクイムシの仕業で2016年には、地蔵山頂駅周囲17ヘクタール
のトドマツが全て枯れていたそうだ。枯れても立ってはいるので今は
まだ樹氷が出来るらしいが、そう遠くない将来に見れなくなりそうだ。
地蔵山頂駅のレストハウスで玉こんにゃく(一串120円)を頂いた。
熱くて美味しい。窓が大きくて良い食堂だが、コロナのせいか商売気
がない。こんにゃくの幟ばかり目立って、他のメニューが見当たらず。
レストハウスの窓から見る蔵王ロープウェイ山頂線の18人乗りゴン
ドラ。時間的に降りてこられるのは、軽装の観光客が多い。駅前には
安永年間(245年前)に造立されたという大きな蔵王地蔵尊がある。
ここに来て一段と観光地色が濃くなって、これ以上は歩き回る気力が
無くなった。北側にある蔵王中央ロープウェイの鳥兜駅まで行こうと
思っていたが、此処から蔵王温泉街まで一気に歩いて下ってしまおう。
ザンゲ坂を下って行く。いや、むしろスキー場の樹氷原コースを下る
と言った方が分り易い。ゲレンデ内には夏道の道標よりも、スキー客
向けの標識の方が遥かに多いから。草地のコースを淡々と下って行く。
見晴らしの良いゲレンデを歩くのは、一見気持ちよさそうだが、なん
となく場違いな感じがして楽しくはない。阿蘇山の牧草地を歩いた時
もそうだったが、もしかするとスイスのハイキングもこんな感じかな。
ロープウェイの架線は潜らずに、北側のパラダイスゲレンデを下って
行く。人が歩く所の方が草が濃い。道標は所々にあるが、そうでもな
ければ登山道と思えない。車道があり車が走り抜ける。ハイクは終り。
山形大学蔵王寮脇の車道を下って行く。ガイド本には記されていなか
ったが、宿で貰ったトレッキングマップによると此方からが一番近道。
車道を10分も歩けば道標のある歩道入口。逆方向はいろは沼へ上る。
落葉樹の中を下って行く。紅葉の時期ならば奇麗だろうが、下生えが
繁って気持ちの良い道ではない。杉の人工林でないだけマシなんだが、
東北まで来たって事で期待が大きかった。一時間で温泉街の上に出る。
また雨が降ってきた。中森ゲレンデを下らず北側の車道を進んで行け
ば温泉街に出るはず。蔵王温泉には名物の大露天風呂の他にも、三つ
の共同浴場がある。そのいずれかに入って、汗を流してバスに乗ろう。
適当に歩いて行くと、足湯を併設する下湯共同浴場に来た。入浴料金
は200円で料金箱に入れる。湯舟だけで洗い場もない素朴な浴場だ。
お湯は白濁しておらず、泊まった宿の泉質とは又違っていて楽しめた。
山形交通バス(1000円)で山形駅に戻り、JRで米沢駅に向かう。
車窓から蔵王山系の優美な山容を見る。米沢では駅前のビジネスホテ
ルに泊まる。 GoTo 割引適用後で一室4865円。やけに混んでいる。