約2か月に渡る外出自粛期間中に体力が相当衰えている。回復の為に
山に行くしかない。でも暑いので谷歩きにしよう。阪神打出駅近くに
魚料理の美味しい食堂がある。昼も夜も並ばなくてはならない人気店。
その店が朝食営業を始められた。開店直後の6時過ぎに入店し焼き魚
定食を頂く。愛想の良い奥さんに「気をつけて行ってらっしゃい」と
見送られる。その言葉を覚えておけば良かった。阪神電車で御影駅へ。
16系統の市バスで六甲ケーブル下。表六甲ドライブウェイの旧道を
歩き始めると、すぐに心臓がバクバクし始める。暑さも堪えて牛歩の
足取りだ。それでも山田堰堤上に着いたのは8時15分と異例の早さ。
朝早く来ると良い事もある。いつもは逆光ではっきり見えない岩稜が
今日は明瞭に見えている。降り立った山田堰堤上の堆積地は夏草が茂
り通過するのも一苦労。少し上流へ歩いてから沢用の足拵えに変える。
片足でバランスのとり難い家族にはヘルメットを被って貰う。ここは
まだ六甲川。短いけど岩床の美しい区間。西谷へのアプローチとして
毎回利用する。今年初めての沢歩きで、二人共足元が覚束ないでいる。
小滝を越すと滑床が広がる。一昨年の台風で土砂や岩石が流れ込んで、
往時の美しさは半減している。上流では山崩れしている所が多々あり、
土石の流入はまだ続く。状況が改善するには相当の期間が掛るだろう。
山羊戸渡のとりつきを右に見て、西谷へ入る。とはいっても一基目の
治山ダムがすぐ立ち塞がる。左岸から越えるが山羊戸渡道を少し上り
トラバースする方が効率が良いだろう。そう思いつつも毎回沢を辿る。
最初の小滝を家族はさっさと巻いて行った。ハムも濡れるのを嫌って
後に続く。小滝の上は青っぽい岩床がきれいな所だったが、倒木や岩
が流れ込んで見る影もない。これも台風の残滓。淡々と歩いて行こう。
丸い釜を持つ5m程の優雅な小滝ある。ここも家族は巻き道をとるが、
流心の左手を容易に登ることができる。残念な気がするが仕方がない。
でも巻き道は川床までの比高が上がるので、直登より危険な事もある。
ハムは小滝を登って、その上の連続する斜瀑も楽しむ。巻き道からは
容易に川床へ下れないので、家族は平流になる箇所まで巻いてしまう。
その上はいつも苔が綺麗と思うのに、なぜか今日は印象が残ってない。
2基目の治山ダムを超えると、二俣があり本流の右俣には6mの小滝。
此処も家族は右岸の苔の生えた階段状を上がって行った。水心左側の
濡れて黒光りしているラインが、外傾しているようでホールド豊富だ。
3基目の堰堤も左岸から越えると上流は伏流している。今日の目標は
本流を最後まで詰めること。実は一度も歩いた事がない。いつも支流
や尾根を長峰山の主稜線に抜けている。右俣を選んでいけば良いはず。
四つ目の小滝は容易に越える。家族がハムがメットを被ってない事に
気づき、こんな暑い物を被らせやがってとか怒ってる。この後4基目
治山ダムは右岸から、続く5基目は左岸から巻くが、記憶が頼りない。
5基目のダムの上で二俣を右に入ると、両岸が狭まり源流域の様相に
なる。後から考えると早すぎると、誤りに気付いても良さそうなもの。
この先で右手は土砂が崩れた斜面となり、おのずと左のV字状へ入る。
先行した家族は苔むした滝を見上げて座り込んでいる。最初の3mは
適度にスタンスがあり、その上は傾斜が緩んでいそうだ。行けるなら
行けば、私は右岸を巻くから。と家族は言うが右岸はボロボロの岩場。
撤退用装備は何も持っていない。あっさり諦め右側の崩れた斜面から
尾根に抜けられないか模索する。だけど脆そうな岩場に突き当たって、
これも諦める。地図は持っていないので正直何処にいるのか判らない。
ずっと右俣を選んできたのに、どうして間違えたのだろう。家に帰り
地形図を見ると、4基目の治山ダムを越えた所に二俣があったはずだ。
この時は全く気づいておらず、5基目の上まで戻り左俣に入り直した。
おや何だか歩いた事があるような。曖昧な既視感を覚えながら緩やか
な谷を進む。摩耶山系では地図は持ち歩かない。子供の頃裏山を遊び
歩いた延長だ。どんな風景が、何処に行きつくか知らない方が楽しい。
傾斜が上がると大きな倒木が谷を埋めている。上部は山抜けしている。
これは見たことのない景色だ。さっきまでの既視感は消えてしまった。
本流を詰めれば、神戸市立自然の家の裏手に出るはずだが、どうかな。
ザレた急斜面を這いつくばって登り振り返ると、六甲川を挟み対岸に
六甲ケーブルの駅舎が見えていた。ここも一昨年の台風21号により
崩れた所だろう。過去に来た事があったとしても見違えて仕舞うはず。
詰めはさらに急になって突き上げている。左には別の谷の源頭がある。
やはり一度来た事があると思い出した。ただ想像以上に南寄りなので、
それを認めたくないという気持ちが強く働いてる。いくら何でも酷い。
左側の谷の源頭へトラバースし、少し上がれば長峰山主稜の道に出た。
そこは天狗塚から土留め階段を降り切った最低鞍部。目標からは掛け
離れている。ショックのあまり、その場の写真も撮り忘れてしまった。
ずっと右俣を選んでいたはずなのに、本流を見過ごすとはどうなんだ。
ブツブツ言いながら杣谷峠。家族は呆れて相手にしてくれない。整備
事務所の張った通行止めの紙が無くなっている。開通したのかは不明。
又来ればよいので気にしないでおこう。むしろ目的が出来、もう一度
楽しめる。掬星台に向かう途中、国民宿舎のバス停にモニターがある。
なぜか画像の向きが変。結構な音量で洋楽を流しているが、本末転倒。
鳥の鳴き声もかき消してしまう。韓国でも見かけたモニター型の看板
だが音楽を垂れ流す物は見た事がない。沢靴を洗うために子供の丘下
へ寄ったら、ターザンロープが跡形も無くなっていた。これは残念だ。
掬星台のベンチで昼食にしよう。小麦粉のトルティーヤに具材を巻く。
何でも良いらしいが、ヒヨコ豆をペースト状に潰したのが無いと自分
達がイメージするブリトーでなくなる。それに挽肉と玉葱の炒めた物。
味の主役はヒヨコ豆。コンビニなどで売られているのは春巻きの様に
長方形にしっかり包んであるが、手作りなら巻いただけで良いだろう。
タコスとブリトー、どっちが好きと聞かれたら、最近はブリトーかな。
晴れの予報だと思ったのに空気中の水分が多く靄っている。色々と
反省点の多い一日だったけど、リハビリが目的なんだから家族には
勘弁してもらおうか。そろそろ行きたいところも無くなった摩耶山。
今年はロープウェイのサポーター会員になっていない。山寺尾根を
下る。いつものように水道筋商店街で野菜を大量に買って家に帰る。
朝6時に家を出たのに帰宅は16時と普通。どれだけ足が遅いのか。