この日も65系統の始発バスに乗るべく、5時前には為又の宿を出る。
ただし今日は歩く方向を変えて、本部寄りの北部農林高校前のバス停
を目指す。暗い内に到着したが早すぎる。いっそ旭川入口まで歩こう。
旭川入口バス停に着いた時に、乗車予定だったバスが追い抜いて行く。
バス停の反対に大きな「嘉津宇岳入口」という標識が掲げられている。
旅行を計画するまで知らなかったが、沖縄県では有名な山なんだろう。
登山口のある勝山地区までは徒歩40分の車道歩き。常に嘉津宇岳や
安和岳が様々な表情を見せて退屈しない。石灰岩だろうか。採石場が
ある。やがてシークヮーサーの販売所を過ぎれば、勝山地区の入口だ。
安和岳の前衛峰である三角山が、その名前の通りの形に見える。また
嘉津宇岳を示す標識があるが、これは中腹の駐車場へ誘導するもので
ある。そちらには入らず立派な公民館の広場で、朝食休憩させて貰う。
トイレと飲料の自販機もあり、ハイクの用意を整えるには最適な場所。
正面に三角山の南面を仰ぎ見る。歩くのは東斜面なんだけど、この山
域の険しさを示されているようで、心なしか緊張するな。さあ行こう。
ヤギ肉販売の看板から車道を下って行くと、ヤギの小屋が両脇にある。
勝山地区は民家が散在し集落を形成していない。独特の雰囲気がある。
道標はないが駐車禁止の看板があるので、どうも此処が登山口みたい。
古巣岳の岩壁を見上げつつ、農道を進んで行くとシークヮーサーの果
樹園となる。小振りな緑の実が沢山なっている。ほのかに香りもする。
小さな私製道標に誘導されて、農道から離れて沢に向かう小路に入る。
ゴツゴツした石灰岩が積み重なる涸れ沢を登って行く。濡れていると
恐ろしく滑りそうだ。やがて第一分岐点の公設道標に出会う。まずは
古巣岳に登り、嘉津宇岳、安和岳と周回し三角山から此処に戻る予定。
登山道は右手の斜面を緩やかに登って行く。歩いているときは足元が
気になって何とも思わなかったが、写真を見ると南国っぽい植生だな。
でも石垣島みたいにジャングルって感じじゃない。照葉樹の多い林相。
やがてハングした岩壁の裾を斜上するようになり、古見台を指す道標
に突き当たる。展望所らしいので行ってみよう。進んで行くと大岩壁
の中腹のバンド状にでる。ザイルが残置してあるが、擦り切れている。
どうやらクライミングのゲレンデのようだ。ザイルの終点まで行って
みたが、景色は変わらない。登攀終了後の下降用に設置されたようだ。
狭く危険な所で休憩に向かず、ハイカーは立ち寄る必要はないと思う。
同じ眺望が頂上から十分楽しめる。元の道に戻ると急斜面を九十九に
登るようになる。古巣岳(ふるしだけ)391mという標高の割に登
り応えがある。というか昨日の4万歩超えの歩行が足に来てるのかも。
第一分岐点から50分程で空が抜け、頂上らしき所に出た。先を行く
家族が最高所に向かおうとするが、藪が濃くて道が無いと言っている。
一番の高みは藪の中だ。振り返ると少し下った展望所に標柱があった。
名護湾の景色が良い。ただ嘉津宇岳の前山と云った感じで、登頂感は
得にくいだろう。分県ガイド沖縄県の山では此の山を単独で紹介して
いるが少し無理があるように思う。冷水で小休止するが落ち着かない。
というのも北側には嘉津宇岳が聳えている。分県ガイドには古巣岳と
嘉津宇岳間のコースが記されていない。はたして道があるのかどうか、
この時は分っていなかった。距離的に踏跡ぐらいあるはずという予想。
だが背後の森に続く踏跡は意外にしっかりしていた。直接に北へ向う
のではなく、西側から回り込むように進んで行くようだ。残念な事に
マーキングが五月蠅いくらい付けてあるので、迷いようも無さそうだ。
暗い樹林から一転、明るい石灰岩の岩場を辿って行くと、小ピークに
達する。地理院地図を確かめると嘉津宇岳の周囲には、衛星のように
幾つもの小ピークが点在する。いわゆるカルスト独特の地形のようだ。
小ピークから再び樹林の中に入り、斜面を登り返すと嘉津宇岳頂上か
ら西へ直線的に伸びる尾根上に出た。第2分岐点への分岐を過ぎると、
歩き難い岩場となる。先を行く家族も足元を気にして、恐々歩いてる。
嘉津宇岳の山頂標識も最高地点ではなくて、若干東に下った所にある。
勝山地区を一望に出来る展望を考えての事だろうか。足元には駐車場
が間近に見える。眼を上げると名護湾と北の羽地内海を一望に出来る。
西にこれから向う安和岳(432m)通信施設の林立する八重岳(453m)
が並ぶ。彼我の標高差はごく僅か。低山だが周囲に高い山がないので
抜けた感じが爽快だ。吹き抜ける風も涼やかで30分近く休んでいた。
そろそろ進もうと下り始めるが、名残惜しくて最高所辺りで振り返る。
先を歩いていた家族が躓いて倒れ込む。幸い草の上に転んだので無傷
だったが注意しなければいけない。ゆっくり落ち着いて歩いて行こう。
ところで嘉津宇岳にはアフリカマイマイが無数にいる。広東住血線虫
という寄生虫がいるので、直接はもちろん這った跡を触るのも危険だ
と言うが、実際はどうなんだろう。余り注意を喚起する表示を見ない。
第二分岐点の三差路まで戻ってきた。此処には古巣岳を示す公設道標
がある。ということは両者の間は正規のコースという事になりそうだ。
ならば古巣岳の頂上にも、嘉津宇岳を指し示す道標の設置が望まれる。
第二分岐点までの下りは複雑な地形を辿った。単に下り一方ではなく、
最初は尾根筋を進み、次に斜面を下り浅い谷に降りる。その後は一度
登り返し、長いトラバースの末ようやく谷に下る。カルストならでは。
ただし下った谷間が第二分岐点ではなく、さらに100mばかり谷を
下らねばならなかった。地形を読み切れず少々迷った所。第一分岐点
の印象があったので、谷に下ればすぐ安和岳に登り返すと思っていた。
此処が第二分岐点。嘉津宇岳からは涸れ沢を下って来た。腰を下ろし
小休止する。時刻はまだ11時15分。我が家としては早い時間帯だ。
もう一つ目的があり14時ぐらいに下山したい。この調子なら大丈夫。
第二分岐点からは急斜面を直上していく。標高がぐんぐん上がるのを
実感する。途中からは更に傾斜が上がって、九十九に登るようになる。
濡れていれば滑りやすいだろう石灰岩だが、乾いているので問題ない。
第二分岐点からは30分弱で安和岳頂上に飛び出した。ここも最高所
でなく一段下った所に標識がある。谷を挟んで嘉津宇岳。右下の台地
状が古巣岳。歩いてきたコースを全て目視でき、興味深いものがある。
あたかもSF映画の秘密基地の様な八重岳の通信施設。そう思うのも
実はオオシマゼミの鳴き声がBGMとして響いているから。金管楽器
並みの音質と盛大な音量は、宇宙へ向けて謎の音波攻撃してるみたい。
北西には水納島のリーフがよく見える。反対側に湾があり三日月型と
云われる。ミンナジマという語感も心地よいのか渡ったこともないの
に、今も記憶の片隅に残っている。機会があれば一度行ってみたいな。
安和岳と三角山の中間のピークで、スコールのような雨が降ってきた。
直ぐに止んだが、家族はその際に向こうずねを鋭い岩角で打って流血。
もう下るだけなんだけど全然気が抜けない。より慎重に歩いて行こう。
三角山頂上に到着する。此処も最高所より標高にして数メートル下に
標識が設置してある。多少は安定した場所なので、それが理由かとは
思われるが意外な感もある。この山域では名護市街が一番よく見える。
ただし四つ目のピークともなると眺望も満腹感がある。さして休憩も
せずに下ってしまおう。振り返って今下って来た安和岳からの稜線を
望む。その奥は八重岳。山頂まで道路があるのでドライブ向きらしい。
スイッチバックするように三角山の東斜面を下って行く。思ったより
スムースに下れる。今日は右回りに周回したが、此方を上りにとって
周回するのも良いかと思う。一つの山をピストンでは勿体ないだろう。
第一分岐点に下って来た。この旅行を計画するまで名も知らない山域
だったが、十分に登りがいがあって眺望も楽しめた。岩が乾いている
事を条件として、沖縄本島では屈指のハイキングコースだと云えよう。
13時33分に勝山公民館前まで戻ってきた。公民館の隣にある農村
交流センター食堂のランチ営業に十分間に合う。ところで周囲を見渡
しても民家が数軒しか見えない所だが、食堂は本当に営業してるのか。
失礼ながら心配して出発時に営業時間を確かめると、月曜が定休日で
昼は11時から15時。夜も17時から21時までだと看板にあった。
「山羊もありますよ」と言われるが、少々高いし臭いがどうだろうか。
無難な所でチャンプル(500円)を頼む。ウチナータイムというか
20分以上待った。でもあか抜けた食器に彩り豊かな料理。量も十分。
全部美味しかったが、白飯が今まで沖縄で食べた中で最高の炊き具合。
楽しいハイクと美味しい昼食で幸せな気分で帰途についた。旭川入口
でバスに乗っても市役所近くで下車すると、宿まで40分は歩かねば
ならない。帰りもまた宿まで歩く事にしよう。多少は近道できたかな。
途中に買物もしたが、2時間ほどで為又(びいまた)の宿に帰着する。
ネーミングには首を傾げるが、一泊一室3900円でキッチン・洗濯
機・浴室乾燥機能付き。もう少し地の利が良ければ最高なんだけどな。
行程の赤いライン、並びに分岐点の位置等は憶測で全く不正確である。
家族のスマホ搭載のアプリによると、この日の歩数は39,504歩。
今日出遭った動物(その1)・・勝山農村交流センターのチェリオの
自販機の上にいた猫。アイスコーヒーを買おうとしたら威嚇してきた。
今日出遭った動物(その2)・・登山道の往還にあるヤギ小屋。割と
広々とした所で飼われてる印象の山羊だが、食肉用だからか狭い小屋。