ジェットスター航空の下地島就航記念のセールで、ついでに安かった
熊本行きをポチッとしたのは、2か月前の3月。ずっと予定も立てず
一週間前になって図書館で、分県登山ガイド「熊本県の山」を借りた。
いつもなら四苦八苦するのに、僅か半日で概ねの計画が出来上がった。
行きは関空発13時50分発と遅い時間だが、熊本空港から阿蘇方面
へ使いやすいバスがあったから。千歳から地味に遅れて到着する機材。
20分ほど遅れて離陸する。一応謝罪のアナウンスもあり、遅れて当
然と言わんばかりのピーチよりは好印象。6割ほどの搭乗率で窮屈さ
も緩和される。15時15分に熊本空港に着陸。バスには間に合った。
15時48分の大分行き特急やまびこ号に乗車。宮地駅前で下車する。
機内手荷物7kgの制限もあり、コンロも食料等も持って来ていない。
駅前のスーパーは売切れで、結局ローソンでコンビニ弁当を買い込む。
時間も遅いので駅前からタクシーに乗車する。路傍に道標が見えたの
で停車してもらった。料金は1520円。運転手さんは登山口はもう
少し上だと言うが、これだけ標識があるならば、間違いはないだろう。
林道に入ると看板があった。私有林とのことだが、管理責任者の姓が
釣井さん。つまり釣井家所有の山だから釣井尾根というのかもしれな
い。ところでガイド本に記されている登山口の様子と全く違っている。
家族は予定の登山口よりも、大分手前の道じゃないかという。半日で
計画を立てたので、ハムは地図も読み込んではいなかった。林道には
幾つも分岐があるが、辻々に道標があり迷う事はない。鹿を3匹見る。
小さな堰堤がある所で、林道を離れ踏跡程度の山道となる。なるほど
林道には駐車余地がないので、ガイド本では案内されていないようだ。
最近のガイド本は、マイカー利用しか念頭にない記事が多く、我々の
山行スタイルとは、どうしてもズレが生じる。藪の多い植林帯では踏
跡が乱れて道を失いやすい。それでも高みに向けて進んでいけば、明
るい草地に出た。時刻は18時30分。まだもう少しは歩けるだろう。
尾根には良く踏まれた道があり、下方にやまなみハイウェイが見えた。
外輪山の向うには九重連山も見えている。ガイド本に記された登山口
からは、20分ほど登った所で予定のコースに合流したということだ。
とにかく登って行こう。平坦な所があれば寝るつもり。緩やかな草地
なので、何処かあるだろうと思っていたが、意外にそんな良い場所は
ない。ガイド本には右に見晴らしの良い広場が有ると記されているが。
30分も歩くと抜けた所があったが、傾斜があり広場とは言いがたい。
対岸の尾根越しに見えるのが高岳。随分昔に仙酔峡から登ったことが
ある。もうすぐ暗くなる。登山道の傾斜が緩んだ所で寝る事にしよう。
翌朝は寒さで目が覚める。久しぶりのビバークは地面の冷たさを思い
知った。標高は1000m辺りだったろう。じっとしていても寒いだ
け。5時過ぎには明るくなったので、さっさと荷物を纏めて歩き出す。
朝焼けの空から太陽が上って来る。下界は雲海に覆われ上空も薄い雲。
その狭間を歩いているよう。週間天気予報ではこの3日間ずっと、曇
りや雨の予報だった。だが昨日になって晴れ間もある予報に変わった。
泊地から5分も歩くと西側の展望の良い所があった。昨夕見た高岳が、
朝日を浴びている。現在、仙酔尾根は中岳の火山活動に伴う火山ガス
による影響で、通行不可ということだ。昨日見た阿蘇市の様子が観光
地にしては、やや寂しかったのはそんな影響だろうか。見上ると根子
岳の主稜線が見えている。中央の突起が、天狗峰(1433m)と思われる。
この時はガスってなかった訳だが、僅か30分後には視界がなくなる。
もっと急峻な尾根かと思っていたが、摩耶山でいうと上野道くらいの
中程度の傾斜が一定して続く。よく言えば歩き易いが、単調さは否め
ない。高度が上がると明るい灌木の細尾根となり、所々で展望がある。
東南側に黒く見えているのは、祖母山から傾山にかけての山塊だろう。
ところで、手許の昭和50年版のアルパインガイド「九州の山」では、
宮地駅から徒歩で、ヤタガウドに取りついて、天狗峰に登るコースが
案内されている。初心者には恐怖を与えるが、十分注意すれば天狗峰
達するとある。実際に鎖場等あったようだ。いつ頃までそういった状
況だったろうか。登山路自体はしっかりいてるが、両脇が抜けている。
泊地からは40分程で根子岳東峰に到着。昨日1時間ほど歩いている
とは云えあっけない結末。東峰に登る目的は、山頂から見る天狗峰の
景観だ。ところが西側はガスに覆われて、残念ながら全く視界がない。
その代わりブロッケン現象を見ることが出来た。かつて北アルプスで
見たことはあるが、こんな低山で見るのは初めて。ガスが晴れないか
待つ間に、手を振ったりして遊ぶ。山頂にいた40分間ずっと見れた。
北側には九重連山。裾野のガスは晴れつつあるようだ。まだ7時にも
なっていないので、もう少し待っておけばよかっただろうか、後にな
ってそう思う。というか此の山の気象について無知だったという事だ。
東峰山頂には40分ばかりいたが、ガスが晴れる兆しもなく下山する
ことにした。南側の大戸尾根から高森町に下る。道自体は悪くはない
が、両側に大きく崩れた斜面がある。2012年の豪雨によるという。
まだ少し早いようだが、ミヤマキリシマが咲いている。このツツジは
先に葉が萌え出るが、それを覆いつくすように花が咲く。花弁は肉厚
で色も濃い。ミツバツツジやモチツツジとは全く違う力強さを感じる。
釣井尾根もそうだったが、大戸尾根も一直線に下って行く。道は良く
傾斜も一定なのでドンドン下る。東峰もピークとはいうものの最高峰
から程遠い所でしかない、なので達成感も感じないままの下山である。
少し下ると満開のミヤマキリシマも。最盛期に来ればどんなだろうか。
因みに高森町観光協会主催の根子岳山開きは、5月26日に開催され
る。その頃が良いのか。更に下ると暗い植林帯となり淡々と下るのみ。
途中で空身の男性二人とすれ違う。毎朝登山といった風情。登山口の
標高は約800m。その上一本調子の道なので、標高差以上に楽に上
れそう。さほど体力を使わずに下って来れた。今日は次の予定もある。
牧柵があるので入ってはいけないのかと、一旦は有刺鉄線に沿って
外を回るが道がなくなって戻ってきた。道標の所の扉を開けて牧草
地内に入ってよいようだ。適当に下って行くと右側に舗装路がある。
記帳所と書かれた登山届のポスト。奥には避難小屋。扉を開けると
コンクリートで固められている。火山爆発に対応するシェルターの
ようだ。その上に巨木が生えているが、一体いつ頃からあるのかな。
見上げるとガスが流れ、天狗峰が見え隠れしていた。東壁が白いの
は、2016年の熊本地震で崩れたから。地震や豪雨それに噴火と
自然災害の影響を受け易い山。昭和の頃に普通に登られていたのが
不思議に思われる。確か遠い記憶では高岳に来た時に、登ろうかと
計画したが、怖そうなので止めたと思う。実際に行っても臆病なハ
ムは登れなかったろう。農道沿いには、大きな藤の花が満開だった。
阿蘇特産の赤牛に見つめられながら、舗装路を下って行く。神戸牛
って見たことがないので信用できないが、高森町内に沢山ある赤牛
料理の店では、本物が出されているだろう。高くて食べれないけど。
適当に下って行くと国道265号線沿いの、色見郵便局の脇に出た。
その前にあるのが本日二つ目の目的地。上色見熊野座(かみしきみ
くまのいます)神社。郵便局がなければ通り過ぎてしまいそうな所。
アニメ映画「蛍火の杜へ」の舞台として描かれたとか、パワースポ
ットだとか、とにかく高森町に来たら必見の場所らしい。なるほど
立派な杉林の中に、苔むした鳥居や石灯篭が並ぶ様は見応えがある。
簡素な本殿の先には、穿戸岩(うげといわ)のアーチが見えている。
穿戸権現という呼び方もあるそうで、そもそもこの奇岩を起源に出
来た社かな。参道から拝殿、本殿が、穿戸岩までほぼ一直線の配置。
後から調べてみると、巨大な岩山を大きな風穴が貫いている事から、
どんな困難な目標でも必ず達成できる象徴として「合格・必勝」の
ご利益があるらしい。なら車券の必勝祈願でもしておけば良かった。
古色蒼然とした参道だが、ふと石灯篭をみると昭和60年頃に立て
られたもの。我々よりも遥かに若い訳だ。そりゃ自分たちも色々と
駄目になるはず。次の目的地の月廻り公園へ国道沿いに歩いて行く。
根子岳を正面に見る月廻り公園には、広大な敷地に各種の施設がある。
我々の目的は温泉。でも正午からの営業。到着したのは10時で暇を
持て余す。勇壮な根子岳だが我々が登ったのは、右端の平凡な東峰だ。
11時に開いたレストランで、地鶏丼と地鶏うどんを頂いて、温泉の
割引券を貰う。12時から入浴。真正面に根子岳が見えるように作ら
れた露天風呂が爽快。地震以降休業する施設が多い中では貴重な存在。
ゆっくり入浴した後は高森市街まで歩く。昨日の宮地駅前に比べると
大きなスーパーが有ったりと便利。食料を買った後は15時30分の
熊本行バス快速たかもり号に乗車する為、宮地中央バス停に向かった。