本当は4月中に、奄美大島に行きたかったのだが、航空券の値段や、
現地の交通費・宿泊費の折り合いが悪くて頓挫してしまった。でも
何処か遠くに行きたいと思いピーチのセールで石垣島行きを買った。
それは2月のこと、航空券を買う時は大体酔っぱらっている。碌に
計画もたてず、どうにかなるだろうと思っていた。現地の宿泊先と
交通手段を決めたのは出発の数日前。4月9日午前7時45分の便。
定刻通り10時10分に新石垣空港に到着。常に遅れがちなピーチ
も、前夜から関空に駐機している早朝便は遅れが出る可能性が低い。
10時30分発のバスターミナル行き東運輸バスに余裕で間に合う。
車内で5日間フリーパスを買う。実際は24時間制=120時間で、
4月14日11時まで有効。実質6日間乗り放題で何と2000円。
ここまで安いフリーパスは初めてだ。ちなみに1日券は1000円。
一旦、市内の宿に行き荷物を預けて、サンエー前から11時44分の
11系統バスに乗る。おもと着は12時14分。この路線は上り下り
一日2本だが、その運行間隔が4時間程で、於茂登岳の登山には適当。
バス停の少し先に登山口を示す道標がある。標高525mに過ぎない
が、沖縄県の最高峰ということで登る人は多いよう。但し展望も悪く、
変化に乏しい山らしい。それ程も期待もせず初日の計画に組み入れた。
つまり飛行機が遅れ、バスに間に合わなければ諦めてもよいだろう。
県道から登山口までは約2km。南洋らしい植物が次々に現れて飽
きることもない。曇り空で頂上は時折ガスに覆われて見えなくなる。
道標に従って舗装路から地道の林道に入ると、巨大なシダ類が現れる。
一見するとヤシの木のように見えるが、ワラビやゼンマイの仲間でヒ
カゲヘゴという。もっと緯度の低い香港やハワイでは見たことがない。
路肩が広がって沢に下る山道がある。先のような立派な道標はないが、
此処が登山口だろう。湿地帯を横切り、丸木橋を渡ると傾斜が上がる。
空港に降りた時は蒸し暑いと思ったが、山に入るとそれほどでもない。
山頂にある電波塔の保守の為だろうか、登山道にはコンクリが流し込
まれている。まあ舗装と云えるほどの工作ではない。いつからか左に
沢を見るようになると傾斜が上がる。一旦河原の岩に座り込み小休止。
休憩した所から少しで滝への分岐。関西だと於茂登滝とか名前がつき
そう。単に滝と記されている辺りが、石垣島での住民と山との距離を
感じる。とりあえず山頂に向かい、帰りに時間の余裕が有れば寄ろう。
次に現れるのがイタジイの古木。根本が洞になっており、直径は3m
以上あるだろう。左手の沢の瀬音が途絶えずに続く。ガイド本には給
水ポイントとかの記述はあるが、有機物が多そうで飲む気は起らない。
プラ杭とブロックが交互に組まれた階段。登山道というよりは作業路
という感じ。摩耶山にあれば嫌いになりそうだが、亜熱帯の密林の中
では、文句の言いようもない。傾斜が上がるにつれて瀬音が遠くなる。
急坂を登りきると、リュウキュウチク(琉球竹)の濃密な藪が現れた。
県指定天然記念物の蝶「アサヒナキマダラセセリ」の、石垣島唯一の
生息地で、幼虫の餌となるリュウキュウチクの伐採は禁じられている。
氷河期の生き残りらしく、昆虫マニアの間では高額で取引される為に、
密猟が絶えないらしく、羽化する5月には監視パトロールも行われる。
以上は帰ってから調べた事で、この時は蝶ではなく蛾かと思っていた。
ごく短い急坂を登りきると空が開ける。気象用のレーダー施設のよう。
登山道は右手にまだ続いている。ネットの登山記録を見ると、どうも
於茂登岳は湿った海風の影響を受け、山頂はガスっている事が多そう。
分岐があるが、道標のダム展望との記述は消されている。これは蝶の
保護のためというより、単に行く人が少なく藪に道が消えたのだろう。
只ガイド本の地図に聖域と記された所があり、そこまでは行けそうだ。
分岐を右に進むと県の防災無線施設に突き当たる。周囲はコンクリが
打たれて視界も広い。ここが頂上と言われても信じてしまいそうな所
だが、三角点はもう少し北寄りにあるといい笹薮の中に道が続いてる。
三角点は藪に埋もれていたが、もう少し先に岩の点在する山頂らしい
所があった。伐採が禁じられたのでリュウキュウチクが繁茂し、展望
が無くなったというネットの情報もあったが、意外にも藪の背は低い。
点在する岩の上に立てば北の海岸線が望める。薄暗い雲が垂れ込めて、
日は差していないが、それでも海の色は十分に青い。山頂からの眺望
には、全く期待していなかっただけに素直にうれしい。来て良かった。
西寄りに見えるのが川平湾から川平石崎への半島。サンゴ礁に囲まれ
た白砂の浅瀬のようすが、此処からでも見てとれる。雲の流れは早い
ので、晴れないかとしばらく待っていたが、これ以上は無理なようだ。
北東に明日登る予定の、桴海於茂登岳(477m)とウマヌファ岳(450m)。
すぐ近くなので、縦走できないか、現地に行ったら道があるのではと
思っていたが、リュウキュウチクの猛烈な藪が続いていて到底不可能。
昼食は地元スーパー・サンエーで買ったポーク玉子おにぎり。値段は
180円と少々高いがボリュームがある。一人1個でもそこそこ満足。
食事中にオジさんが一人来られて、挨拶すれど驚いてすぐに去られた。
ハイカーにしては不審な動きだったけど、その時は毎日登山していて
山頂に興味なかったのかなとか、キジムナーだったかもと言っていた。
昼食後に聖域と記された拝所に寄るが、最近は使われていないようだ。
下山は登ってきた道をただ戻るだけ。オジさんは捕虫網を持っていな
かったので蝶が目的ではないと思ったが、帰ってから調べると監視が
厳しくなった為、幼虫やサナギの段階での採取という事もあるらしい。
途中で滝に寄ってみる。三段の斜爆で摩耶山にあれば楽しく登れそう。
ただ水に清冽さは感じられない。夏に子供が来て遊んだりしないのか
なと思うが、石垣島の人はハブとかいるので、山に余り入らないよう。
ヒカゲヘゴは10m以上に育つ。このような所では植林しても杉は育
たない。県道近くで猫の鳴き声を聞く。こんな所にと思ったら大きな
雉のような鳥が逃げて行った。帰って調べると野生化した孔雀だそう。
16時過ぎにバス停到着。20分も待てばバスターミナル行きが来る。
往復に4時間もかけた訳だが、関空から石垣空港に飛んで、当日中に
バス利用で沖縄県最高峰に登れて上出来。サンエー前で下車し買い物。
航空券を買ったときは、米原キャンプ場(400円/人)で幕営すれ
ばって思ってたけど、直前になってMr.Kinjyoの新ホテルが開業したの
を知る。開業記念で1室1泊4000円なら迷いようもなく予約する。
本島の北谷で一度利用したが、キッチン・電子レンジ・冷蔵庫加えて、
洗濯機と浴室乾燥機が各室に標準装備されている。ジーンズを洗濯し
ても翌朝には乾いており、今回の様な旅行には最適かつ最高のコスパ。