3月18日に木ノ袋尾根の小谷を遡行して、中腹の岩場に至ったが、
その時に見た、奥の左俣源流域が魅力的だった。その時は別に目的
があったので登らず右俣に入り直したのだが、気になって仕方ない。
3月27日は晴れの予報。最高気温は17度というので、行ってみ
よう。難しければ素直に諦め、中腹の岩場帯を中央辺りから登れな
いかも探ってみたいと思う。摩耶堰堤乗越しから木ノ袋尾根を望む。
木ノ袋谷出合まで淡々と歩き小休止。石段を少し登って、公設道標
から小谷に入る。最初の二俣は左へ。石油ストーブの残骸を見ると、
奥の二俣。そこも左に入る。2度目なので此処まで凄く短く感じた。
前回見た時にルンゼでもガリーでもなく、クーロアールという単語
が浮かんだ地形。遠い昔に読んだアルプス登攀記に頻繁に出てきた。
日本ではあまり使われず、家族は知らないという。まあ個人的主観。
土砂の詰まった急斜面を辿り、最後は階段状の岩場を登れば稜線に
スッキリ出るのではと、根拠のない妄想を抱いてしまった。ハーネ
スに7mm径30mザイル。確保点は左岸の不安定な立木しかない。
此処まで中間支点を取らずに来たが、露出した木の根にしっかりし
たのがあったので、シュリンゲを掛け振り返る。下から見上げた時、
最大の課題と思われたのが、枯葉や枯枝が詰まって黒く見えた所だ。
左右の岩場から抜けるのも難しい。よく見ると堆積している原因は
岩溝を渡る太い根があるから。その根にも支点を取り、右の岩に這
う根にスタンスを作り、強引に体を上げると更に上の根に手が届く。
課題は越えたものの上部はノッペリしたスラブ。風化し表面はボロ
ボロ崩れる。頼りにしていた立木は遠い。下からは見えなかったが、
土砂の斜面が右手に続く。遠くなるがそちらに入って行くしかない。
此処になんと古いトラロープがあった。ダム工事の頃のものだろう
か。引くとズルズル伸びる。信用できないが何でも手掛かりにする。
トラロープから離れると、家族が「もういっぱい。」と言って来た。
確保できる木までは後3mある。「確保を解いて。」とコールして
ザイルを伸ばす。家族の体重だけが制動力。墜ちる訳にはいかない。
久しぶりに頭が真っ白になるほど緊張しながら、立木に辿り着いた。
急斜面に立つ木の根元に腰掛けて、少し上の太い木に支点を取った。
対岸の岩壁に垂れるトラロープ。上部は土砂に埋もれて結束されて
いるかは不明。少なくとも此の斜面を登る為のものではないだろう。
よどみなくセカンドで登ってきた家族に、そのままツルベで行って
もらう。少し上れば安定するが中間支点を一つ取らす。シュリンゲ
の掛け方も位置も甘い。今は良いんだけど、次回は改めてほしいな。
家族は10mほど上がった尾根上で確保していた。周囲はツツジの
藪で花期には賑やかだろう。最後まで土砂の斜面を詰めただけ、岩
なんて一歩も攀じってないのに、持ってきた道具を全て使い切った。
最後はザイルを縛る為の古いシュリンゲさえも動員した。プラトー
までは20mほど岩稜を辿る。予想では直接突き上ると思っていた。
そうそう思い通りの地形があるはずもないが、やや期待外れな結果。
プラトーから踏跡を辿って、中腹の岩場帯東側。円頂の岩の基部に
着いた。この岩場は一般道からも近くて、二人で休憩するなら適当。
この上で昼食にしようかと思ったが、西側の岩との間も見ておこう。
因みに左右どちらからも小さく巻き上れる。側面にはダム建設工事
の巨大なボルトが打ち込んである。それより西寄りに何処か上れる
所はないかと探しながら斜上する。だが藪が濃くて適当な所もない。
更に進んで行くと、大して歩いていないのに西側にある縦長の岩の
基部に突き当たってしまう。思っていたよりも両者の間は短いよう。
それなら向かって右側から巻けないかと見るが、これも難しそうだ。
煩い藪を分けて、歩き易い所を選ぶと、自然に東側へ斜上して行く。
小さな段差を越え、落葉の降り積もったバンド状。直進すれば東側
の岩の円頂に出る高さ。先行する家族は上部が気になっている様子。
家族の関心は、韓国なら包丁岩(カルバウイ)と呼ばれるだろう薄い
岩。「眺めが良い。」とか言っていたが、もう一段上に登ろうとして
墜ちた。しばらくは動かない。着地の際に足をぐねってしまったよう。
掬星台の電波塔が見えている。対岸は寒谷北尾根。右上に松の木が
生えた縦長の岩場の頂部が見える。手前には白い馬酔木の花。家族
は足は痛いが歩けるという。このまま斜上して行く方が良いだろう。
包丁岩の下から中央を見る。階段状に岩が積み重なる。実際は上の
写真より下手から回り込んで斜上した。藪に体を弾かれそうになる
以外は難しい所はない。あっさりと縦長の岩場の頂部少し上に出る。
大きな松の木を支点に家族を確保する。まあ歩けているので大丈夫
だろう。家族も骨にヒビが入った経験があり、それ程でないと言う。
昼食は家族が作ったミートパイとか。今日はワインと一緒に頂こう。
クーロアールでの緊張感というか、まだ発生したアドレナリンが体
に満ちている感じで、味がよく分からない。ただ二人共食欲はある。
家族に言わせれば、ウインナーのパイ巻きが前菜で、ミートパイが
メインディッシュ。つぶあんパイがデザートだそうで、パイづくし。
食事の後は木ノ袋尾根の一般道を辿る。先週はまだ開花してなかっ
たのに、馬酔木の花が満開になっていた。僅か一週間で季節は進む。
概ねいつもと同じスピードで歩いてはいるが、時々痛いと言ってる。
アゴニー坂の鞍部へはもう少しだ。今日の山行はどうだったろうか。
二つの目的は果たしたが、内容的には余り満足な結果ではなかった。
掬星台では紅梅が見頃になっていた。下りロープウェイは平日にも
かかわらず、ハイカーや観光客でそこそこの乗車だ。さて今年度の
MaSACa(友の会乗車証)は今日で使い納め。来年度はどうしよう。
ケーブル山麓駅から桜トンネル坂を下る。既に桜は咲き始めていた。
週末には見頃になるだろう。例によって水道筋商店街に寄り野菜や
果物を買って帰る。家族の足は痛みが増す。しばらくは安静が必要。
今日のBGM
人と違うことしたい? そもそも同じじゃない