摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

鹿児島2泊3日の旅・・・刀剣山(660m)

鹿児島まで来て桜島観光だけで帰るのも勿体ない。山の一つや二つは

登りたいと思い、西宮図書館で「分県登山ガイド・鹿児島県の山」を

お借りした。以下「分県ガイド」と呼ぶが遠方の低山探しには良い本。

そこで見つけたのが刀剣山。垂水市の猿ヶ城渓谷が登山口ということで、

薩摩明治村から同じ財宝経営の猿ヶ城ラドン療養泉まで、シャトルバス

利用で行けるらしい。午前9時過ぎ他のお客さんと共に送ってもらった。

やはり財宝が管理運営している「森の駅たるみず」を横目で見ながら車道

を登っていくと高隅山登山口という道標がある。さらに車道を歩いて駐車

場まで歩いてもよかろうが、ここは道標に従って本城川沿いの歩道に下る。

遊歩道も車道も駐車場で合流。トイレの壁にたるみず山岳会作成の概念図

が貼ってある。魅力的な沢が幾つもありそうで、今日歩く道よりそちらが

気になる。分県ガイドとは呼称が異なる部分もあり、現地で確めて行こう。

駐車場の奥から河原に降りる道へ進む。新しく立派な道標があり、この先

は迷いそうにない。分県ガイドには地元ボランティア「フロンティア刀剣

山」によってコースの開拓・整備が行われ登山コースが開拓されたとある。

だが現在、フロンティア刀剣山は活動を終えて、たるみず山岳会が管理し

ているように思える。本城川の河原は白い石灰質の巨岩が転がりあたかも

鈴鹿の沢を見るよう。藻や苔も生えない清冽な水流というのも鈴鹿と同じ。

やがて登山道は針葉樹林の中の急登となる。土嚢で作られた階段道が続く。

途中、第一から第六まで休憩所と称した私製ベンチがあるが、朽ちており

休む気にならない。分県ガイドに記されたシイの木は倒木となって久しい。

急斜面を登りきると、第五から第六休憩所までの間は緩やかな尾根道となる。

ヤッコソウの森という看板があった。最初は気づかず季節外れかと思ってた

が、良く見ると柵で囲われた中に1cm程の変わった植物が沢山生えていた。

奴さんの姿に似ているということで、牧野富太郎により命名されたというが、

今では奴という言葉も死語に近い。今見ているのはヤッコソウの果実だそう。

取りつきの急登が嘘のような平坦な道が続いた。新旧の道標が重複している。

同じ場所に二つも道標は要らないのだが、設置者が違うと外し難いのだろう。

家族は旅行用のザックが汚れるのを嫌い、ビニール袋をザックに被せている。

やがて登山道が刀剣沢(一の沢左俣)に近づくと、壊れたアルミ製梯子が路

傍に置いてあった。帰ってから調べると分県ガイドに記された10mハシゴ

が、2017年の台風で崩壊したらしい。するとその場所はどう越えるのか。

登山道が沢筋に下る。左岸は急峻なルンぜ。分県ガイドは天狗岩と記してあ

るが、たるみず山岳会の概念図の、鉾ヶ峰の方が合っているように思われる。

険しい沢であるにもかかわらず、大量の倒木と土砂で埋まっている。倒木は

ともかく土砂の量は尋常でない。どうやら上流で土砂崩れが起きたのだろう。

ここが多分その現場。10mハシゴが掛かっていた場所だろう。分県ガイド

に掲載の写真では緑に覆われているが、岩にへばりついていた土砂や樹木が

根こそぎ洗い流されたよう。ハシゴに代わって新しい鎖が取り付けてあった。

左岸の岸壁を鎖に導かれて越すと、ヌメリ滝の落口に出る。そこにあるのが

5mのアルミハシゴ。土台がコンクリートで固定されて意外に安定している。

登山道は刀剣沢の支流を詰めて行く。20分ばかり登ると主稜線に飛び出た。

ここから道標と分県ガイドの記述が大きく異なってくる。道標の刀剣山3峰

が、分県ガイドの第一刀剣山であろう。ガイドに従って展望所に立ち寄ろう。

3峰(635m)のピークを見逃したのか、登山道はいきなり激下りとなる。

急峻なナメ沢の源頭を下る所もある。岩盤に辛うじて土砂が張り付いている

ような様子で、豪雨でもあればすぐ危険個所になりそう。これ以上下る価値

があるだろうかと思いだした頃、南側に展望が開ける。後で登り返す刀剣山

第1峰の岩壁が見応えがあり、松と岩の対比は韓国の岩峰を想起させられる。

登山道はさらに下って小平地に出る。ここが分県ガイドの云う展望所のよう。

かつては展望があったろうが、現在は灌木が茂り眺めは良くない。枯れた木

に登ると錦江湾桜島が見えた。合成石材の山名碑は何故ここに在るのか?。

元の主稜線に戻る途中に、路傍に変わった植物を見つける。帰って調べると

ツチトリモチというらしい。根からトリモチを作ったので、この名だという。

主稜線の道は横岳(1094m)に向かうが、刀剣山第1峰へは右に外れる。

ここまでの間に刀剣山第2峰(661m)が在ったはずだが、全く気付かず

に通過した。杉の植林帯を下って、鞍部から再び登り返すと雑木林となった。

穏やかだった道が、急な岩場を登るようになった。この辺りは中々楽しめる。

山頂には巨岩がある。最高所かどうかは別として、実質的に此の巨岩の上が

刀剣山の山頂と言って良いだろう。南側に回り込むと案外容易に頂部に至る。

360度ではないが展望は良い。高隈山塊の最高峰は大箆柄岳(おおのがら

だけ)で標高1236mあるというが、地図を持っていなくて同定できない。

西側には垂水市街から桜島の眺めがよい。この景色が得られるなら、先ほど

寄った第一展望所に行く価値はないだろう。此処に山名碑がないのが不思議。

さて昨日に桜島港で買った菓子パンで昼食にしよう。「じゃりパン」という

ネーミングに惹かれて買ったのだが、大粒のグラニュー糖がクリームにまぶ

してあり、食べるとジャリジャリとした食感がする。成る程そういうことか。

下りは往路を戻る。こんな険しい山に立派な植林帯がある。実はすぐ近くま

で林道が来ている。高隈山塊自体はおおらかな山容の山で、刀剣山のみ特異。

男岩の裾をトラバース気味に下る。左手には沢を挟んで鉾ヶ峰が見えている。

この後、樹林の中で道を外してしまう。道標は豊富だが歩く人は少ないよう

で、道自体は明確で無い所もある。しばらく下ったが又登り直して道に戻る。

ヌメリ滝の左岸、鉾ヶ峰の裾の鎖場。やはりこの個所の通過が、刀剣山登山

のハイライト。バンドが発達しており難しくはないが、やはり下りはスリッ

プの危険性が高まる。立派な鎖の設置はありがたい。前方は垂水市街の眺め。

右岸をしばらく下ると分岐点がある。右側が登ってきた本道だが、左の道に

入り、巨岩の丘に立ち寄ってみようと思う。岩峰群の眺めが得られるらしい。

深い照葉樹の中にポツンと巨岩が一つ。展望なんて有りそうにない。気づか

ず行き過ぎてしまいそうな場所だが、振り返ると木の葉越しに岩峰が見えた。

さて本道に戻ろうとして又迷った。分県ガイドの地図だけではやや心許ない。

たるみず山岳会の概念図をウェブで公開して頂ければと思うが甘えすぎかな。

存外に登山者は少なくて、下生えの無い樹林帯では道を失いやすい。大滝展

望台へは時間の余裕を持って臨みたい。鱒ヶ渕へ下ってきた。日が差し綺麗。

その後、猿ヶ城ラドン療養泉に無料で入浴させて頂いた上に、垂水港まで送っ

て頂いた。いづれも薩摩明治村の宿泊者へのサービスなので、財宝グループに

負んぶに抱っこ状態。これらサービスは変更もあろうので、利用の際は要確認。

鹿児島へは鴨池・垂水フェリー(480円)で帰る。夕方になって晴れてきた。

フェリーターミナルからは高隈山塊を一望できる。此処から見ると手前の刀剣

山は横岳の支尾根に過ぎない。強い北風が吹いて桜島の眺めも期待できそうだ。

乗船して最初に目に入ったのは開聞岳。こんな遠くから見えるとは得した気分。

フェリーは北西へ桜島を回り込むように進んで行く。噴煙は南東に流れ山肌が

くっきり見えるようになった。登れない山だけど、実に立派で名山に違いない。

鴨池港からはバス(160円)で繁華街の天文館へ。予約したビジネスホテル

に投宿する。なぜだか鹿児島市街はホテルの相場が、他の地方都市よりも安い。

小奇麗な部屋に朝食バイキング付きで2名計6400円なら我々でも泊まれる。

夕食は鹿児島名物のラーメンでもと思ったが、昨晩の食事が重たかったので、

マルヤガーデンズの地階で中華総菜(夕方で4割引き。合計600円)を買い

部屋で済ます。今日は好天ではなかったが、計画通り山行を終えられ良かった。