摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

宮崎県の旅3日目 大崩山(1644m)中瀬松谷を遡行する・・2017年5月11日

今回の旅行の主目的は大崩山の登山。日程の全てを優先させ

計画してきた。ただし天候だけは思い通りに行かない。昨日は

午後から晴れたが、今日はどうだろう。明日以降は良くなさそう。

この日は4時半に起床し簡単な朝食を摂って、5時20分には

小屋を出た。我々の足では、コースタイム以上に時間が掛かる。

早いに越したことはない。まだ薄暗いので、写真がぶれている。

小屋から祝子川の上流に向って歩き始める。登山口から小屋

までもそうだったが、谷側が断崖になっているので気が抜けない。

暗い内に歩き始めようかとも考えたが、ライトの灯りだけで

は、この道を歩く自信はない。明るくなるのを待って良かった。

湧塚コースの渡渉点近くから見上げるのは、小積ダキだろうか。

思わず登りたくなる光景だが、今日は違うコースを歩く予定だ。

天候が良くて余力があれば、明日に歩いてみたいと思っている。

さらに上流に向かって進むと、左岸に巨大なスラブが現れる。

バンドを安全に渡って行けるが、降雨時にはどうなるのだろう。

続いて木山内岳から流れ込む支沢を渡る。ここでさえ驚くほど

大きな滑沢だが、これから進む祝子川上流は、いかほどだろう。

7時ちょうどに、吐野(ハクノ)という地点に到着した。荒々しか

った祝子川が、ここから上流は平流になるという。此処からは

登山道はなくなり沢を歩く。一休みして沢用の足拵えに変える。

ガイド本によると、登山靴でも遡行は可能ということだったが、

やはり沢を歩くなら、沢用のシューズの方が楽しかろうと思い、

フェルト底のシューズを持って来た。瀬戸口谷出合を右に見る。

歩き始めは平凡な河原が続く。蛇行する川をショートカット

するように、右岸の樹林帯に踏跡が出来ている。沢を進む

ことも、緩やかな両岸を歩くことも出来るという感じの場所。

河床が露出しはじめるのを見て再び沢に入る。ガイド本には

なんとも書いてなかったのに、河床一杯に滑が広がって見事。

この付近が吐野からモチダ谷出合までの、三里河原と呼ば

れる所だろう。この後に、釣りをしている男性を一人見かける。

流れは2度3度屈曲する。その度に前方には、どんな風景が

待っているのかとワクワクする。沢登りの楽しさを思いだした。

巨岩が転がり右岸の樹林帯に逃げると、そのままモチダ谷の

出合を通り越してしまった。出合の小滝の上には石楠花の花。

ガイド本はモチダ谷出合から金山谷出合は、平凡な河原と

一蹴していたが、とんでもない。此の本流遡行の雰囲気は

植林がしつくされた現代では、得難い貴重なものだと思う。

8時20分に金山谷出合に到着。小屋からちょうど3時間。

右に平流の金山谷を見て、左の本流に入る。滑が始まる。

ネットで調べていた感じでは、出合ごとに谷の名を書いた

私設道標があるように思っていたが、モチダ谷出合、この

金山谷出合にも見当たらなかった。まあ間違えようもない。

何処でも歩けるという訳ではないが、両岸とも緩やかなので

流れを避けて捲くことも容易。ゴム底の靴でも問題ないだろう。

だけど水流に足を浸して歩く楽しみは、滑床だからこそ。荷が

重くなることを厭わず、フェルトシューズを持って来て良かった。

もちろん降雨直後には、急激な増水が予想され危険もあるだろう。

一昨日に雨が降った割りには、今日の水量は少なめかもしれない。

川床の白い岩や周囲の明るい樹林は、昔日の鈴鹿を思いだす。

ただし標高が200mばかり高い山だけに、谷のスケールも鈴鹿

よりも幾分か大きいように思う。水流の清冽さは、甲乙付け難い。

家族はどんどん進んで待ってくれない。気持ちの良い所では足

が速くなる。ハムはじっくり味わいながら歩いて行きたいのだが。

どこまでも緩やかな滑が続く。飛び込んだら気持ち良さそうな

釜もあるが、暑からず寒からずの気温。濡れた足は少し冷たい。

権七小屋谷の出合。此処は谷の名を記した私設道標があった。

見上げると此処にも石楠花が咲いている。先ほどから谷の出合

に必ず石楠花がある。右手が権七小屋谷。我々は本流を進む。

まだ時刻は9時を少し過ぎたところ。概ねコースタイム通り

に歩けている。コースどりを悩むことなく進めるからだろう。

今までより一段と谷が広がり、滑床一杯に水流を見る所に来た。

この上が、平ら谷出合。少し進んでみると名の通りの平流だった。

此処にも私設道標があった。生木に打ちつけてあるのは、少々

残念ではあるが、谷を間違えてなかった事を改めて確認できた。

中松瀬谷に入ると、巨岩の転がるゴーロが続く。歩き難いので、

左岸の樹林帯を歩いて行く。針葉樹林だが、少しも暗くはない。

中松瀬谷が滑になった所で再び谷に戻る。しばらく滑が続く。

家族が思わず「飽きた。」と独り言。この人が言うと実現する。

「熊でもいたらな。」と言った途端に、熊に出会ったこともある。

傾斜の強い滑を左岸から巻くと、上流は土砂に埋もれた

河原となっていた。水流も伏流気味で極端に少なくなった。

2月に飛行機を予約した際には、大崩山に我々が歩けるような

沢があるとは思っておらず、湧塚をコースを登って、坊主尾根を

下るという人気コースしか考えていなかった。直前に決めたこと。

スカイラインが見えそうな所で、上流から男性が降りて来られた。

懐かしいガリビエールのメットに、スパイク長靴。宇土内登山口に

車を置いて谷を周回されるそうだ。同好の士に出合い少し嬉しい。

詰めはガレガレの崩壊地。家族は歩き難いと文句を言っているが、

沢登りの詰めは藪漕ぎが当たり前、それに比べれば歩き易いはず。

ガレの上にピンクの花が咲いている。これがアケボノツツジなの

だろう。そもそも5月に宮崎の山に来たのは、この花を見たかっ

たから。4月下旬までと言う情報もあって、遅いかもと思っていた。

家族は最後まで谷筋を詰め切った。ハムは途中で斜面に逃げる。

稜線に出たのに登山道が見当たらない。でも何も心配していない。

アケボノツツジの花を目指し歩いている。まあ高い方に歩いて

いけば、やがて山頂に着くだろう。のんびりした雰囲気の稜線。

11時20分。何のことはない登山道は、稜線より少し西側に

あった。ここで沢用の足拵えを、軽登山靴に替える。これから

6日間は、濡れて重くなった沢シューズを持ち歩く羽目になる。

でも素晴らしい沢歩きを楽しめたので悔いはない。尾根沿いには

アケボノツツジが諸所に咲いている。盛期はまだ少し先のようだ。

今歩いてきたのは上鹿川からの道。此処から山頂へピストンして、

下山は上祝子方面へ下る。まだ11時45分、思ったより早いかも。

アケボノツツジは花弁が開ききらず丸く纏まっている。韓国で見る

カラフネツツジともまた違う。今までに見たことのない可憐な花だ。

花の色もツツジの中では、一番ピンクといえるのではなかろうか。

群落地では、一週間もすれば一面ピンク色に染まると思われる。

でも今でも十分にキレイだ。この季節に登った甲斐はあったろう。

幸せな気分で大崩山頂上に到着したのは、12時ちょうどだった。