摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

天狗塚堰堤から炭山川源流を詰め長峰山頂へ

4月19日は朝から快晴だった。身内に弔事がありここしばらく

山に入っていなかった。その10日程の間も季節は進んでいる。

山麓ではソメイヨシノに代わって、八重桜が満開となっていた。

JR六甲道駅から篠原台まで歩き、関電の巡視路に入る。少し

登れば松陰のグランド跡に出て、伯母野からの一般道に合流

し天狗塚堰堤下に着く。JRの車内からも見える大きな堰堤だ。

前回来た時は完成直後で、藪も無く通過出来たが、今は棘の

木が密生して容易に近づけない。左岸の天端から上流を見る。

人工的に削られた崖となっている。一旦一般道に戻って登る。

一般道は左岸から谷芯に進むが、やがて東へ斜上して行く。

火の用心の札がある所で、道を外して谷に入る。蔦や藪の多

い所だが、やや右岸に寄った所を進むとそれほど苦労しない。

既に谷なのか、斜面なのか分からぬほど、緩やかなボウル状

の地形だ。どちらへも進めるが、なるべく大きな岩のある所を

辿って行く。登るにつれて、段々一つの岩が大きくなってくる。

韓国の山で良く見かける「岩塊流」といった様相となってくるが、

斜度はあくまで緩やかだ。日本では「ガレ」と表現されるだろう。

ここまで暗い照葉樹の林間だったが、前方が明るく見えている。

30m四方の間が、白い岩で埋め尽くされ、木の無い所に出る。

周囲はツバキの森だが、此処だけポッカリ抜けている。やや傾

斜が上がって、岩の中には不安定なものもあるので慎重に歩く。

さして広い所ではないが、奇観と言っても差し支えないだろう。

此処から上は様子が変わって、小さな岩が転がる斜面となる。

この様な場所が何故出来たのか、寝れなくなるので考えない。

一昨日の雨のせいで、ズルズルと滑り易い斜面を登って行く。

柔かいスニーカーを履いて来たが、底の固い靴が向いている。

最後はキックステップの要領で登る。体力を消耗する詰めだ。

関電巡視路を示す道標の少し手前で、伯母野からの道に出る。

さて今日はどの道で下ろうか。以前のように毎週登っていれば、

ツツジの開花状況に合わせて道を選べたが、今は分からない。

取り合えず天狗塚に登り昼食にする。平日なので誰もいない。

摩耶山の山腹や掬星台に、山桜が咲いているのが遠望できる。

ならば六甲線一三鉄塔の北側にある、桜を見に行こうと決めた。

天狗塚から少し戻って、六甲線一三鉄塔へ下る巡視路に入る。

入口付近が荒れており、関電が付けたと思われる火の用心と

書かれた、黄色いテープが幾つか。少し下れば道は良くなる。

尾根上部ではツツジは咲いてないが、大木のあるプラトー

過ぎた辺りから下で、ミツバツツジが開花している。今年は

若葉も、花と一緒に萌え出ている株が、多いような気もする。

もう何年も摩耶山周辺のツツジを見ているが、その生態は

よく分からずにいる。同じ株でも花だけ先に咲いたり、葉も

一緒に萌え出たりと、その年々によって違っていたりする。

桜のように広い範囲で、一斉に満開になるということも無く

場所によって、株によって、開花期がヅレるので、これだけ

咲いていれば、この尾根は最盛期と言って良いと思われる。

この付近は杣谷を挟み対岸の、寒谷北尾根からも斜面が

薄紫に染まっているのが遠望できる。広い範囲にツツジ

密生している。巡視路から外れて、北側の斜面に踏み込む。

ミツバツツジなら天狗道の上部にも多い。でも道幅が広いと

どうも印象が薄くなるようだ。ツツジの薮を分けて下る、細い

巡視路の方がキレイに見える。それも咲いた直後が美しい。

六甲線一三鉄塔に到着した。下ってきた巡視路はいわゆる

「行ってこい」の道なので鉄塔で途絶えている。細い踏跡が

三方に通じているが、いづれも足下が危なっかしいものだ。

一三鉄塔から見上げる長峰山頂。この斜面に幾本かある

桜は、花を散らせている。もう少し早ければ、新緑と桜の

パッチワークのような景色が楽しめた。とても好きな場所。

鉄塔北側、高圧線下の伐採地。ここ数年、余りキレイには

咲いていなかったが今年は見事。数年前に初めて訪れて

以来の開花。数年毎に行われる伐採の影響かもしれない。

一三鉄塔から巡視路を少し戻り、北の谷に下る切り開きに

入る。おそらく関電の人が、一四鉄塔に行くのに作ったもの

と思われる。印はないが枝や幹が刈られているので分かる。

その切り開きを辿って、細尾根を下れば目標の桜の大木が

ある。花は少ししか咲いておらず、やはり遅かったかと思う。

だがもう一度よく見ると、ある事に気が付いて、眩暈がした。

幹から伸びた枝が、ことごとく折れている。花は散ったの

ではなく、もう咲かせられなかったのだ。昨年四年前

盛大に花を咲かせていたというのに、朽ちようとしている。

いったい樹齢は何年ぐらいだったのだろう。細尾根を下り、

ナバ谷の下から、二つ目の治山ダム上流で、対岸に渡る。

例年は対岸の尾根を少し登り、架線場跡から桜を望むが

今日はそのまま下って行く。北側に茶巾のような木の袋

尾根が間近に見える。この六甲線一四鉄塔のある尾根も、

ミツバツツジの多い所だ。踏跡を辿って杣谷道に下りつく。

あの大木が朽ちているとは。通夜で聞いた諸行無常なる

言葉。その時は何故か俗っぽいと思ったが、この世のも

のは常に移り変わり、永遠不変のものはないと思い知る。


歩いた所に赤線を引いたが正確でない。(出典:国土地理院