摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

金勝山 庄助ノ谷・・・・・滋賀県栗東市・・・(2016年6月11日)

なんとなく何処かへ行きたくなった。行ったことのない山域が良い。

だが、難しい所は登れない。図書館で、中庄谷直氏の著作を四冊

借りて探してみると、湖南アルプスの低山なら我々でも行けそうだ。

JR石山駅前からミホミュージアム行きのバスに乗り、桐生辻下車。

車内は、ほぼミュージアムへ行く乗客。外国人観光客が半数以上。

初めて聞く施設だが、高いバス代を払って行く価値があるんだろう。

本には数軒の民家があると記されているが、大戸川ダム工事により

移転されて、今では工事現場しかない。栗東市の設置した金勝山の

案内板があり、ポストの中には、ハイキングマップが備え付けてある。

そもそもバス停の位置が、ガイド本の当時とは変わっているようだ。

立入禁止の看板の横が登山口。工事現場の柵を過ぎた所に、右の

沢へ下る踏跡があり、渡渉して東に向かう。庄助ノ谷への道だろう。

登山口の道標。栗東市役所担当部署の電話番号も書かれている。

案内板やパンフレットの設置といい、登山者が歓迎されているのが

感じられる。最高峰は龍王山だが山域全体は、金勝山というらしい。

竹林を抜けると、工事車両の駐車場らしき場所に出た。高架道路は

大戸川ダムが完成した場合の、県道16号線の付替え道路だという。

知らなかったが大戸川ダム建設については、紆余曲折があるようだ。

先に河床に降り立った家族が、「滑る!」と叫んだ。今回一泊二日

で山行するに当り、軽量化策として期待したのが、ジャガーシグマ。

花崗岩の山というので、この靴には向いていると思ったのだが・・・。

水流一面に藻が発生している。其処はもちろん泥が沈殿している所

も恐ろしく滑る。水陸兼用で一足で済ます積りで、ジャガーシグマを

履いて来た。注意して歩くしかない。フェルトシューズではどうだろう。

最初の堰堤を越えると左側は岩壁となる。両岸ともに極めて低くて、

特異な風景である。泥に汚れた岩の色から、増水時の水位が分る。

相変わらず泥や藻で、とても滑りやすい。ガイド本はもちろんだが、

ネット上の遡行記録にも、そんなことは記してなかった。予想外だ。

慎重に足元を確かめながら歩くので、時間がかかるし楽しくもない。

三番目の堰堤を越えると広い河原になる。堰堤を越える度に、次は

水が綺麗になり、滑らなくなるのではと期待するが、最後まで変わら

なかった。堰堤が水質を悪化させているという訳でもなかったようだ。

標高600mと低いが、傾斜が緩いので長い距離を歩くことになる。

コースタイムを調べていない。標高から考えて舐めてかかっていた。

これが後で響いて失敗するのだが、この時は、まだ気づいていない。

両岸にはシダ藪が延々続く。沢でシダを見ることは多いが、これ

ほどの群落は初めてだ。それに大きい。どこか南国の沢のようだ。

ただでさえ谷が浅く日当りがキツイのに、暑苦しい雰囲気を作る。

四番目の堰堤を越すと、岩盤が増え遡行対象の沢と思えてきた。

中庄谷直氏の「日帰り沢登り」の遡行図からは、此処までの距離

感を読み切れず、もしかすると違う沢に入ったのかと思っていた。

次に谷が屈曲すると、一面が岩となり遡行図の4m滝があった。

本には深い釜と書かれているが、まるで健康ランドの打たせ湯の

ような釜。水質は良くないが、盛夏なら浸かってみてもいいかも。

ここは右側のガリーを登り越える。岩肌は水流に磨かれていて、

それほどフリクションは効かない。頭の中に此処までのヌルヌル

の岩の感触があるので、乾いた所でも必要以上に慎重になる。

次の滝はあっさりと右側を巻く。どうも岩質が柔らかいようで、

水の流れが変わるたびに岩が削られ、波板の様になっている。

次の2m滝は、左側のバンドに沿って上流に進むようなのだが、

写真を見ると行けそうだが、水中の岩が滑りバンドに乗れない。

そこで右側を登る。先に登った家族が何かを覗いているようだ。

大岩と岩壁との間に隙間があり、上流に抜けられる。通過でき

ないほどに狭い箱という所だろう。空身で抜けてみることにする。

これは奇観だ。幅がだんだん狭くなり奥の方では50cm位か。

本では3mの滝が二つあるとしているが、ハッキリ分からない。

とても登ることはできないが、この谷では一番印象的な場所だ。

チェックストーンが幾つかある。もし上から落ちると挟まって

身動きできなくなりそうだ。そう考えると恐ろしくて、この後に

箱のすぐ上を通過するのに、躊躇し時間が掛った遠因となる。

大岩まで戻り右手斜面に巻き道を探す。シダ藪には明瞭な巻

道はない。少し枯れたシダが続く所が踏跡だろうと巻いて行く。

踏跡は箱の上のバンドに続いていた。出口の手前でシダが

とうせんぼしている。その上に一抱えの岩があり邪魔。他に

巻き道はと探すが、この上部も岩場が険しく通れそうにない。

落ちれば箱にはまるのかと思うと、怖くて外傾したバンドを

進めない。結局シダ藪の上の岩を抱えるように乗り越える。

家族は背が低く越えられない。シュリンゲを垂らし回り込む。

先程の箱の上に出てきた。「日帰り沢登り」には何も書いて

ないが、此の箇所の通過が、この沢で一番緊張させられた。

上流は2条10mの滝となっている。視界一面が岩で水量が

あれば、迫力のある場所だろう。傾斜は緩く何とか行けそう。

黄色い破線が我々が登ったルート。上部は外傾気味だが階

段状で登れそう。だが安全策を取り、左の水流を渡って更に

外側の側壁を巻き上がった。他にも別な登り方があるだろう。

岩は固くヌルッとした感じ、あれだけツルツル滑る沢を登って

来た後なので、少しでも岩が外傾していると、怖くて仕方ない。

側壁を巻き上がった所から滝を見降ろす。今の水流は細い

が、幅広い範囲で岩が、水流に磨かれている様子が分かる。

側壁はフリクションが良い。高度感はあるが普通に歩ける。

滝の上は平流になる。先ほどまでが嘘のような穏やかさだ。

難所は越えたのでホッとするが、川床は相変わらず良く滑る。

本に美しい淵と書かれている所。とても、そうは思えない。

よほど水質の悪い時に来てるのだろうか。左側から越える。

淵の後は延々と平流が続く。これも遡行図から読み切れない。

変化は無くゴーロの河原を歩くだけ。蜘蛛の巣がないだけまし。

2箇所に古い石積みの堰堤があった。いつ頃のものだろうか。

両岸に石垣がある所で遡行を終了する。此処は茶仏線という

道の橋があった所。今は橋がなくなり石垣だけが残っている。

バス停から約3時間掛っている。コースタイムは1時間50分。

茶仏線の道に座り込んで休憩する。誰も通らない静かな所だ。

オニギリとお茶で昼食を済ませる。日陰なら暑くない位の気温。

今日はもう一つ課題がある。龍王山の山頂に向けて出発しよう。


今日のBGM