摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

「30年前の記憶」・その2・・・神崎川 カラト谷遡行(2015年5月2日)

前日、30年前の昭文社の地図を本棚から出して、開いてみると、

さながら古文書のように、印刷面がパラパラと剥離してしまった。

仕方なく、地理院地図をコピーして持って来た。後は自分の記憶。

荷物をデポし終えたのは午後1時半。遅いがこの快晴は捨て難い。

ツメカリ谷か白滝谷の下部を遡行して、適当な所で戻って来よう。

30年前の記憶では何処も難しい所は無いはず。巻き道もあった。

この流域に誘われたのは、草川啓三氏の「近江の山」という紀行書。

ガイド本ではないので、地図を頼りに著者の行跡を辿った。各支流

1度は入渓しているし、本流は3日かけ御在所岳まで遡行している。

ところが最初の瀞の巻き道で面食らった。巻き道は獣道ほど細いし、

乾燥した落ち葉が積もっていて、フェルト底ではとても滑りやすい。

這いつくばるように通過した。とても暗くなってからは通れないな。

この流域に入る登山者が、昔より極端に減ったのではと思い始めた。

そういえば此処に至るまでの看板類は、全て釣客向けのものばかり。

記憶では取水堰堤から白滝谷出合までは、過去何度も行き来してる。

周囲の山腹は植林で魅力を失ったが、白い岩を穿って流れる水流の

清さは変わっていない。30年前より訪れる人が少ないのは不思議。

その頃は炭焼きの杣道や作業道が縦横にあり、山中に住む人もいた。

次の瀞の巻き道も険しい。古いシュリンゲが残置されているが、時

間が遅いし無理をして進む理由もないだろう。こんな難しい巻き道

があっただろうか。何度も通ってるはずなのに、全く思い当らない。

瀞の下流に支谷が流れ込んでいる。少々迷ったが、この谷を勝手に

ツメカリ谷と決めつけてしまった。中流域から南側の尾根を乗越せ

ば一般道のある白滝谷に出るはず。だが此れがとんでもない間違い。

何故こんなに水量の少ない谷を、ツメカリ谷と思ってしまったのか。

最近は、摩耶山の水量の貧弱な沢しか登ってないからかも。因みに

自宅に帰って古い記録と、昭文社の地図を調べるとカラト谷だった。

だが、此の時はツメカリ谷と思い込んでいた。下流域は沢沿いに落

葉樹が残っている。後ろには植林帯が迫って来ているが、それなり

に雰囲気を楽しんで遡行している。初日の足試しには悪くはないと。

家族は新しいフェルト底の足袋を履いている。札幌秀岳荘からネッ

トで購入した。とても軽いしフリクションも良いようだ。耐久性は

どうかなとは思うが、ポリワラジが手に入らない現況では仕方ない。

昔日、この付近は炭焼きの2次林に覆われていた。30年前に始ま

った、滋賀県造林公社による大規模な伐採によって、来る度に丸裸

の斜面が増えていった。すべてが伐採される前にと入渓を繰返した。

帰って古い記録を見ると、赤坂谷の遡行時に上流で尾根を乗越して、

このカラト谷を下降していた。一方ツメカリ谷は中流域まで遡行し、

伐木が谷を埋めるようになった所で、植林の作業道を使って下った。

いずれも1985年の春だ。ツメカリ谷の事は、僅かに覚えている。

炭焼きのため植えられた、コナラやクヌギの二次林は周期的に刈ら

れるので大木は少なかった。今は木々も大きくなり雰囲気が異なる。

午後4時を過ぎたので、遡行を止め帰ろう。南側の尾根に上がると、

植林小屋の跡があった。その頃なら道があった訳で迷わずに下れた。

だが今は道跡も残っていない。適当に尾根を選んで南側に下ろうか。

近くの小ピークに登ってみるが、現在地は分から無かった。それで

も南側に下れば、白滝谷の一般道に出合うと、まだ思い込んでいた。

いや、只そう思いたかっただけかも。間違っていても動くしかない。

南側に尾根を下って行くと二俣に下り着いた。更に谷を下って行く。

各所で山抜けしている。保水力の無い杉林は大雨に弱いのだろうか。

まだ心配はしていない。この付近なら何処でも下って行けるはずだ。

巨岩の転がる谷に下り着いた。白滝谷出合と思い込んで対岸に渡る。

一般道を探すが見当たらなかったのを、下流の大きな山抜けのせい

にしてしまう。左岸を適当に斜上して行けば林道に出合うと考える。

濃い藪の急斜面を1時間斜上するが、林道にも杣道にも出会わない。

これは駄目と本流に下ろうとするが難しく、下ったのは午後6時半。

本流をみて目を疑う。流れが逆だった。つまり上流に向かっていた。

本流沿いは淵の巻き道が怖くて通れないので、左岸の斜面に入るが、

直ぐ暗くなる。トラバースしようにも崖に遮られ上に登るしかない。

小ピークに出るが、ビバークするにも水が欲しい。また下って行く。

100均のLEDライトだけを頼りに、杉の急斜面を下って行った。

樹林の中は真っ暗だったが、河原に出ると空に明るい月が上ってい

た。その月明かりで下流側に林道の崖が見えた。あそこを目指そう。

上の写真は次の日、林道から登ってきた斜面を見下ろす。あの河原

から、背後にある崖が、見えたのだろう。此処から見る本流沿いは、

両岸とも急斜面だ。自分の記憶には、源流部の緩斜面しかなかった。

河原から40分程アルバイトをこなし、林道に着いたのは午後8時。

不確かな記憶を頼った結果なので。恥ずかしいが記録に残し反省材

料にしよう。一言の不平も云わずに一緒に歩いてくれた家族に感謝。



今日のBGM  Maroon 5 - Sugar