3月5日の土曜日。天気予報は晴れ、気温は20度まで上がるという。
黒岩尾根でも歩こうかと思っていたが、気が変わってサウスロード下。
前回と違う登り方が出来ないかと思い、道具も持って再訪してみよう。
ロープウェイで掬星台に上がり、杣谷峠から長峰山頂への道を進む。
自然の家への分岐から、目指す岩場が遠望できた。やはり山羊戸渡
に少し入って北の都賀谷に下る。今日は何故か踏跡が分り易かった。
しばらく下ると堰堤に出合う。立入禁止の看板には、都賀谷堰堤と
あるが、砂防事務所の案内板には都賀谷第二堰堤と記されている。
堰堤から緩やかに斜上していくと、沢状の凹地があり此処を登る。
すぐ右手に岩場の末端が現れる。前回、この凹地を最後まで詰め、
右手の岩場に回りこんだが、今日は岩場の末端から登ってみたい。
とは言え実際に末端に回り込んでみれば、のっぺりしたフェイスで、
我々には登れそうもない。とにかく簡易ハーネスを装着して考える。
フェイスの西端には、木があって登って行けそう。落ち葉の積もる
バンドを斜上して、立木を頼りに一段上がる。そこも落葉の堆積地。
フワフワした落ち葉の下は、岩なのか倒木か、踏み抜きそうで怖い。
右手には先ほどのフェイスの上部。この岩場の特徴として、岩が
風化して脆いのではなくて、大きな塊で剥離しようとしていること。
右は登れそうにない、左のグサグサな斜面をズリ上がって行く。
先ほどのフェイスの上に回り込むと、階段状のリッジがあった。
この辺りは傾斜も緩く、岩も安定していたので、一瞬ホッとする。
だが、すぐに浮いた岩が多くなる。松の木は手掛かりとはなるが、
煩くもある。積もった落葉で足元は安定しない。まだ傾斜は緩い。
前方で家族が、悪戦苦闘している。結局、登りきれず降りてきた。
家族が登ろうとしていたのは、剥離したピナクル状の岩との隙間。
ハムも試すが、底の柔かいスニーカーでは、スタンスに乗れない。
家族はビブラム底の靴を履いている。結局、隙間を抜けて西から
回り込んで登ることにする。この岩場では、一番高度感がある所。
家族は方形の岩に上がるが、前回足場にした小さなピナクルが、
剥離した破片が、岩の隙間に突き刺さっているだけなのを知って、
戻ってきた。その上の枯れた松も、手掛かりには不安だったそう。
なので左から回り込む、先に登った家族が何か言うが聞き取れず。
その直後小さな悲鳴。続く大きな落石音。家族を呼ぶが答えがない。
二度目のコールに、遠く小さい声が返ってきた。それは下方からだ。
一段下り先の隙間を抜け、東側を見降ろすと家族がいた。写真では
平坦に見えるが、急傾斜のルンゼ。10メートルほど滑落したようだ。
家族から2メートル下には、四つに割れた岩が、立木で止まっている。
骨は折れてないようだ。また隙間を通って家族が落ちた所まで登る。
此処に大きな岩があって乗った途端に、岩と一緒に滑落したようだ。
幸いだったのは、傾斜はキツイが土砂の詰まったルンゼだったこと。
打撲と擦過傷で済んだよう。此処まで来ると、下るより登った方が
楽なので、補助ザイルを投げる。左腕・左足に力が入らないらしく、
相当苦労して、ゴボウで登ってきた。衣服は何カ所か破れている。
家族によると前回、枯れた松を手掛りに、この岩を登って来た時も
足場にした岩だったそうだ。浮いた岩の多い此の岩場に、再び来た
ハムが悪い。とにかく無事で良かった。あと少し気をつけて登ろう。
此処からは、傾斜の緩い階段状の岩場や、松の木の多い岩場を
木登りのごとく登って行く。東寄りには、もう少しスッキリした岩場
があり、そこを登る予定だったが、もはや一番安全なルートをとる。
狭い岩場の頂部に達するが、流石に今日は此処で、食事する気
になれない。安定した所で休みたい。もう少し登って場所を探そう。
手前が山羊戸渡、その向こうには長峰山頂。好きな景色だけど
眺める余裕も残っていない。山羊戸渡を歩いている人がいたら、
さぞや騒々しかったろう。快晴だけども、視界はスッキリしない。
落ちた後ハムのコールに、家族は「生きてるよ」って、大きな声で
2度返答したという。岩の反対側では、ほとんど聞き取れなかった。
少し登ると開けた場所があった。ハーネスを外して昼食にしようか。