阪神電車を利用して奈良に又やって来た。尼崎駅から快速急行を利用
すればストレスなく到着する。自宅からは2時間弱掛かるが乗換えが
スムーズ。体感的に阪急電車で京都に行くより、楽なように思われる。
通勤通学駅でほぼ満席だったが意外にも新大宮で、乗客の7割ほどが
下車されてしまった。時刻は7時51分。なのでまだ観光客のいない
近鉄奈良駅は閑散としている。県庁至近の駅にしては意外に思われる。
アーケード商店街を100m進んで左に曲がると、もう興福寺の境内。
なるほど通勤客が少ないのも当然だと妙に納得する。右奥の五重塔は
修復工事中の為、全体が覆われて巨大なビルディングのように見える。
猿沢池から奈良公園南端に沿って進むと、荒池の向こうに奈良ホテル。
明治42年開業関西の迎賓館と云うが、現在はJR西日本ホテルズの
経営だそう。なら京都での宿泊経験から値段ほどの価値はないと思う。
東へ進むと鷺池に出る。浮見堂に立ち寄ったり。此の付近は人通りも
ほとんどないし、なぜか鹿も見かけない。散策するには良い所と思う。
さらに進むと志賀直哉旧居がある高畑町。意匠を凝らした豪邸が並ぶ。
でも何となく鹿の糞の臭いが漂っている。奈良公園では匂わないのに
雨上がりだからか。この先で間違えて春日山遊歩道に入ってしまうが、
高円山へは一段下の能登川沿いの道が近い。白乳神社の横手から戻る。
公衆トイレと休憩所がある。そんな需要が有るのかと思う場所だけど
有り難い。服装の温度調節をして山モードに入る。前方に見えている
双耳峰が高円山であろう。最初に目指すのは東西ピークの鞍部である。
高円山頂上には奈良奥山ドライブウェイが通じている。但し歩行禁止。
白毫寺からの一般道を使ってピストンは出来るがそれではつまらない。
検索すると能登川の支谷沿いに杣道があって、鞍部に出られるようだ。
粗い石畳の道を歩いて行くとそれらしき支谷が現れた。だが険しくて
渡るのも難しそう。少し進むと小橋がある。渡ると急峻だった左岸の
斜度が一気に緩む。此の辺りだろうと目を凝らすと薄い踏跡があった。
最初だけちょっと急斜面。だけど一段上がると細い杣道が続いている。
昔あった杣道の末端が土砂崩れで消えてしまったようだ。この先では
分岐もあるが、先ほど見た支谷の右岸沿いを意識していれば迷わない。
杣道は落葉に隠れている。靴底で感じる地面の固さがマーキング代り。
やがて右手に深い支谷を見るようになるが、難所にはロープもあった。
存外に通行する人は多いようだ。藪を分けるような事もなく楽に進む。
取りつきから鞍部までの標高差は130mほど。あんなに険しかった
支谷もすぐに穏やかになる。杣道は左岸に渡ると谷から離れて斜面を
登って行く。此の辺りではキーンキーンという鹿の声を何度も聞いた。
此の日は京都や大阪の市街でも初雪を観測したらしい。朝から時雨れ
模様で、陽が差したと思ったらすぐ曇る。霙とも雪ともつかぬような
小雨が降っていたが、この辺りでは雪となる。ただ写真には写らない。
鞍部の一般道に飛び出た後、まずドライブウェイ沿いの東峰に向かう。
すると不思議にだだっ広い削平地が現れた。かつての資材置き場かと
思ったけどそれにしては広すぎる。此処から東へは車道が続いている。
奈良奥山ドライブウェイに出る。北へ進めば春日山遊歩道に合流する。
この有料道路は3区間あり、真ん中の奈良奥山コースは歩行者通行可。
南北両端2区間は歩行禁止という変わり種。ネットで誤認記事も多い。
ドライブウェイを横断して山頂に向かう車道に入る。頂上は広い空地。
工事車両の回転場所のよう。ロータリーの真ん中が盛り上がっている。
私製山名板も吊るしてあるが、461m標高点かどうかは定かでない。
山頂は眺めが良くない。ドライブウェイに戻り駐車場からの方が良い。
すぐ横の枝垂れ桜の下に大伴家持の万葉歌碑(揮毫・犬養孝)がある。
「高円の秋野の上の朝霧に、妻呼ぶ牡鹿出で立つらむか」という和歌。
先ほど聞いた甲高い声は我々に対する警戒音であろう。春には牡鹿が
発情して発する鳴き声もあるそうだが、秋の歌と季節が合わない気も。
まあそういう問題ではなかろう。元の鞍部に戻って次は西峰に向おう。
白毫寺へ下る一般道は、やや北より斜面に続いている。ふと気づくと
南寄りの高みへ踏跡がある。たぶん西峰の頂上へ向かう道なんだろう。
緩やかな斜面を上ると、二等三角点(432m)点名・百毫寺がある。
残念ながら眺望は無し。地理院地図では461m標高点横に山名が
記されている。なので高円山の頂上と云うと東峰という事になろう。
観光案内等ではその辺りが曖昧で、標高記載は東西入り乱れている。
雪は止んだが気温は低い。指先がかじかむ。次が本当の目的地である
大文字火床。昭和38年より戦没者の慰霊の為に行われている送り火。
おそらくはその薪炭を運ぶ為に、立派なコンクリ階段が施されている。
北隣の春日山が針葉樹の原生林であるのに比べて、高円山は落葉樹が
多い。春日大社の神域では出来ない薪の採取や炭焼きのため、ナラや
ブナの山になったのであろう。フカフカの落葉の道を歩くのは楽しい。
大文字の火床の頂点に着いた。想像以上に広大な眺望だ。奈良盆地が
京都のそれより面積が広い為だろう。季節の良い頃ならば座り込んで
ゆっくり食事したいが、いかんせん今日は寒すぎる。指先が悴むほど。
なので休む事もせず下りに掛かる。第二画から振り返って見るが何か
京都の大文字に比べて扁平に思われる。火床が緩斜面にすぎるようだ。
開放的な雰囲気は京都に勝るけど、はたして市街からよく見えるかな。
第二画を下って行く。正面に東大寺の大仏殿が大きい。右側に若草山。
左側の大きな建物は県庁だろう。奈良市内の先には、京都府精華町が
見えているはず。その向こうは交野山地だろうし、西山も見えている。
百毫寺への一般道を下って行く。この道が良く踏まれカンカンに固い。
その上に昨日の雨で濡れた落葉が積っているものだからもの凄く滑る。
注意していたのに家族もハムも転んでしまう。バランスも衰えている。
下って行くと何だか大きな葉っぱが落ちている。その数がだんだんと
増えて行き、終いには敷き黄葉という状態になる。何の葉だろうかと
検索するとゴムの木の一種という結果が出る。実際の所は分からない。
百毫寺脇の登山口に下って来た。知らない寺院だったけど有名らしい。
いくつも駐車場があったりする。それよりも門前の百毫寺町が鄙びた
風情で好ましい。古井戸や石垣のある古民家を縫って奈良公園に戻る。
上の禰宜道を通り春日大社に入り二の鳥居。流鏑馬の支度中の参道を
下って行き、一の鳥居前で南の草地へ入る。高円山は確かに落葉樹に
覆われている。火床はどうにも扁平。点火しても大の字に読めるかな。
今朝の静けさが信じられないほどインパウンドな観光客でごった返す
奈良公園を抜けて行く。鹿の数より人の方が遥かに多い。その応接に
疲れたか「小心雄鹿」の看板の陰で休む10月に角切された牡鹿くん。