摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

第2回 杣谷源流遡行

9月14日の日曜日は、先週楽しかった杣谷の源流域を探ってみたい。

勧進滝の登攀には敢え無く失敗したが、本来の目的はその上の遡行。

びしょ濡れになり寒くて、早く日の当たる所に行きたい。すぐに出発だ。

勧進滝から数十メートルも行かない所に、別の支沢が流れ込んでいる。

正面の壁が、台風で崖崩れを起こしたようだ。岩や土砂で埋まっている。

河床の岩盤が露出した此の谷も面白そうだが、次回の宿題にしておこう。

右手の斜面、杣谷下流側の斜面に取り付く。さっき支点を設置しに行く

時に通ったコースだが、岩盤に土砂が乗っているだけで危なっかしいな。

ふと、横を見ると急な獣道がある、という訳でハムはそちらを登っている。

急斜面をトラバースして行くと、意外に穏やかな勧進滝の上流に降り立つ。

まずはセットしていたシュリンゲやカラビナを回収してから、遡行を始めよう。

陰鬱な滝下に比べ、日が差し込んで実に明るい。川床も明るい色の花崗岩だ。

水量は少ないものの、何だか凄く期待できる。前を行く家族のピッチが上がる。

期待通り左に屈曲すると眼前に、川床一杯の岩盤が待っていた。これは楽しい。

短くはあるが、この源流風景は、六甲山系では特筆すべき物ではなかろうか。

ハムはじっくり味わいたいと思うのだが、家族は気持ち良さ気にどんどん進む。

続く小滝はノッペリとしたスラブだ。水流は左端に溝を穿って流れている。

沢歩きの楽しさは、沢が曲がる度、滝を登る度に違った風景が現れること。

その点でも、この沢はハイレベル。次々雰囲気が変わる。スラブ滝の上は、

樋状の岩溝が続く。二俣があり岩溝は直進して行くが、水流は左俣が多い。

左俣に入ると階段状の小滝。これだけ続くと、何処が滝だか区別がつかない。

広がりのある河原が現れた。沢は二俣となっている。左俣は伏流している。

それにしても勧進滝から、長峰山の稜線まで、それほどの距離はないはず。

こんなに緩やかで広い場所があるとは、想像できなかった。此処は何処?。

右俣はまだ水流がある。予想では六甲線一五鉄塔に登り着くはずだったが、

ならば、これだけ緩やかな谷筋が続くはずはない。まあ登れば分かることだ。

周囲の岩場に緑の苔が多くなって来た。これはこれで悪い景色ではない。

またまた左に屈曲すると、岩と苔が庭園のような雰囲気を醸し出していた。

もう稜線は近いはずだ。進行方向の木々の間から、青い空が見え隠れする。

ついに此の上で伏流する。明るい沢を見下ろし乍ら、ズック靴に履き替える。

伏流した沢をそのまま詰めて行く。藪は薄いが、かなりの急斜面で歩き難い。

ザックには、濡れて重くなったザイルや登攀具。氷と酒と飲料水でも2kgある。

目の前の稜線には、ハイカーの人影が見えているが、なかなか登り着かない。

飛び出した所は、山羊戸渡に向かう三叉路。なるほど杣谷を起点とすれば、

この付近では、最奥の場所に登り着いた訳だ。何となく疑問が解けて嬉しい。

短くも充実した沢歩きが出来た。心地よい脱力感に包まれ、杣谷峠に向かう。