快晴に恵まれた11月25日。水道管理歩道を下りシェール道に入って、
生田川源流左岸(上流から見て左)に沿って遡行する。小堰堤を越して、
最初に新穂高側から下ってくる沢を登る。10メートルほどで二俣となる。
先々週は、二俣の間の細尾根を登ったわけだが、今日は左俣を登ってみる。
ところが最初の内は、倒木多く歩きにくそうなので、先々週と同じ尾根を登り、
適当な所で左側の浅い谷に降りる。その後は、しばらく岩屑の多い谷が続く。
やがて左手に、先々週見たリッジの末端と思える岩場が現れ、谷は幅1米程の、
狭さになる。上部には広いスラブが見えており、まるで漏斗の口のような地形だ。
その漏斗の口を抜けると、突如として大きな岩場の前に立つ。木曜日の雨のせいか、
スラブ中央には、薄く水が流れている。斜度は緩いしホールドも多そうに見えたので、
登ってみるが、良いホールドに見えた突起は、掴むとボロボロと崩れる。固い岩場を、
求めると水流に近寄る事になり。今度はスリップが心配になってクライムダウンする。
下で見ている家族からは、「どうして、こんな所を登れないの!」と、冷たくなじられる。
今度は斜上してリッジに出ようと思い、途中まで登ってみるが、岩が脆い上に、安定して、
ビレイを取れる所が無いので、またしてもクライムダウンする。登る時には押さえつけて、
何とかもっていたホールドも、下降すると外よりに荷重がかかるので、ボロボロと崩れる。
しかも立木は枯れた細い松ばかりで、支点として役に立ちそうな物は、ほとんど無いのだ。
今日は下見のつもりだったが、登攀力も度胸も、ハムより優れている家族は登る気満々だ。
「登れないなら、こんなとこ連れて来るな。」とか毒づいてる。このままでは治まりそうに無い。
そこで左へトラバースして、一旦リッジの下部の太い木が生えている所まで下り、仕切り直す。
直径30cm程の木にビレイをとり、別の木に家族のセルフビレイを取らして、確保を頼む。
先々週に右手の尾根から見たときは、鋭く見えたリッジも、実際には穏やかな岩稜だった。
出だし3米程で細い松の木にビレイを取るが、ほんの気休めでしかない。その後は支点に、
出来そうな物は無い。ただ上には、割と大きな松がある、そこまで行ければ何とかなるかと。
いざ登ってみると、三枚岩特有の階段状の岩場で、側壁に比して岩質も安定している。
さして高度感も感じずに登って行く。傾斜が落ちる手前で、スタンス幅の広い所があるが、
フリクションが良くて何とか登る。補助ザイルの長さが気になり、大声で下の家族に聞くと、
「まだまだ十分ある」と、返って来る。自分が思っているよりは、たいして登ってないようだ。
問題はその後だ。緩斜面の岩場一面に砂利や砂が乗っている。僅かな距離だが緊張した。
その先の岩は脆く掴むと崩れる。が、5米程先に太い松が見えいて、引き返す選択は無い。
這い蹲って登りきる。セカンドで澱みなく登って来た家族も、この緩斜面は少し苦労している。
太い松の木から上は、やはり緩い岩稜である。お茶だけ飲んで、家族にツルベで登ってもらう。
やや去り難い気分で岩場を見下ろす。登るまで、かつて三枚岩は、岩登りのゲレンデであった
ろうかと思っていたが、こんな脆い岩質では、幾ら昔であってもゲレンデとは成りえないだろう。
右手のスラブ帯には、鈍く水流が光っている。その向こうには一般道沿いの高圧鉄塔。
こんな秋晴れの良い日に、短いとは言え初めてのコースを登れて、幸せな気分だった。
登り着いた609ピークは藪の中。葉の落ちた樹幹越しに、なんとか新穂高山頂が見える。