ハムも人並みに日本百名山にのめり込んだ事が有る。しかし八ヶ岳の
北側にある三山には登ろうという気は起きなかった。山岳というより
高原、あるいは丘と呼ぶ方が適当な、美ヶ原、霧ケ峰、蓼科山である。
いつか年老いた時に取っておけば良いと思っていた。それから数十年、
その時が来たようだ。FDA神戸=松本航路の無償モニターに選んで
頂いたので、三泊四日の日程で登り残した三名山を片付けてしまおう。
FDAの機材はエンブラエル(ブラジル)。神戸空港に駐機している
スカイマークやソラシドの飛行機と比べると遥かに小さい。シートは
84席。ただシートピッチは広くピーチのような狭苦しさは感じない。
松本まで1時間足らず。雲の隙間から北アルプスの山々が見えて来た。
機体が小さいせいか塩尻上空ではかなり揺れる。今回は手荷物を預け
たが、すぐに出て来て空港バスに余裕で乗車。松本駅までは650円。
松本駅は大昔に何度も来ている。東口の様子はほとんど変わってない。
当時都会的に見えた駅前が、何となく寂れたような気がする。新幹線
の開通で東京からの玄関が長野に変わったからか。温度表示は28度。
家族が0番線というので待っていたら、始発駅なのに2分前になって
も入線しない。改札に戻ると小淵沢行きは5番線。久しぶりに走った。
さてバスターミナルで貰った時刻表で、茅野からのバスを確かめよう。
しかし21年版だが、茅野地区は20年の時刻が記載された役立たず。
慌ててネットで調べ直したら、目的の車山肩バス停へは上諏訪駅から
の方が近いと気づく。それにちょうどよい時刻のバスが有るので下車。
下調べが足りなかった。茅野駅までの差額運賃が無駄になりショック。
上諏訪駅を13時45分出発のバスは、八島湿原を経由して車山肩に
1時間で到着。もちろん先の時刻表には載ってない。乗客は我々のみ。
家族は山の旅行社で勤めていた事が有る。松電バス(現アルピコ)や
富山電鉄バスと取引が多かったが、両社の県民性の違いが顕著だった
と云う。詳しくは語らないが、さっきの時刻表の件からも想像はつく。
それでも長野で山に登るならアルピコの世話にならない訳にいかない。
アルピコに関しこの後も色々あった。因みにこのバスの運転手さんは
イケメンで優しかった。14時45分、車山肩バス停到着1100円。
茅野から来るより50分早くなったので、すぐ車山に向かわずに北側
の丘に寄ってみる。昭和57年発行の昭文社地図には、一本樺の丘と
記されている。足元に八島湿原が広がり。正面に美ヶ原が見えている。
家族は最初に当然テント泊と思ったらしい。ハムは美ヶ原への縦走を
考えたが、何れも今の我々に無理な事はすぐに分かる。それにしても
ごく穏やかな尾根が続いている。縦走すると退屈して眠くなりそうだ。
そろそろ車山に向おう。土曜日で観光客は多い。だが昭和な雰囲気の
ドライブインは開店休業状態。皆さん乗越東側のヒュッテに寄られる。
車山に直上する道が見えるが閉鎖されていて、斜上する広い道を歩く。
スカートやサンダル履きの観光客に混じり歩いて行く。車山肩バス停
の標高は1804mあり、車山頂上との比高差は120mでしかない。
南アルプスが見える。右から駒ヶ岳、鳳凰、雲に隠れた北岳、農鳥岳。
知ったかぶりして適当に同定していくが全く自信はない。登るにつれ
八ヶ岳の連嶺が見えて来た。一番端の編笠山が特徴的だ。頭上に雲が
暗いが、展望があるだけ幸せだ。数日前には雨の予報で悲観していた。
20分程歩いていると、頂上にある気象レーダー観測所が見えて来た。
ハイカーや観光客の姿もチラホラ。実は南側には車山高原スキー場の
夏山リフトが運行している。往復2400円、片道1600円と高い。
30分足らずの歩行で、霧ヶ峰の最高峰である車山に登頂。はたして
これで登ったと言えるのか。はなはだ疑問ではあるが、百名山完登を
目指してる訳ではないので、どうでも良いや。風が強くてかなり寒い。
山頂南側に板張りのテラスが設置されている。スキー場の一部として
整備されているようだ。気候が良ければ絶好の休憩場所だが、今日は
曇り風が強いので休む人はいない。写真を撮ったらすぐに移動される。
我々も記念写真を撮ろう。板張りテラスからは鉄網の写真スポットが
飛び出ている。その先端に立つと一段と風が強くて長くはいられない。
頂上から南が一番景色が良いし、他方向より雲も掛かり難いんだろう。
頂上の東端には車山神社の祠がある。此処も最近流行りの天空の鳥居。
祠の裏で風を避けて行動食の甘栗を食べる。展望の良さに時刻を忘れ
ていたが16時になっていた。訳があって16時半には道路に出たい。
車山駐車場まで約60分と看板にあり慌てる。足元に白樺湖。正面に
明日上る予定の蓼科山が雲に隠れている。そんな景色には目もくれず
石段を駆け下りて行く。とはいえ家族は腕が痛くてそんなに急げない。
最初の急坂を下りきれば、後は緩やかなスキー場の林道コースが続く。
地面から突き出ている棒は、常設の人口降雪機だろう。晴天率が高い
のが売りだが、小規模で緩斜面が多いので滑りに来た事は一度もない。
長さ800m程の4人乗りリフト2基で、駐車場から頂上まで行ける。
古びた施設に愕然とする。スキーを始めた頃は二人乗りのリフトさえ
珍しかった。4人乗りに初めて乗ったのはいつだったか。遠い昔の事。
リフト一日券の値段は昔の方が高かった。このインフラは我々世代が
払い続けた高いリフト代で作られたと思うが、その寿命も尽きようと
している。下山道はなぜかスキー場を直進せず、左側へ迂回していく。
車山高原バス停は標高1568m。頂上から350mも下る。車山肩
は諏訪市で、此方は茅野の市域にある。さて急いでいるのは茅野市が
実施している17時までの実証運行の無料タクシーを利用したいから。
白樺湖までは3km程だが暗くなりそうだ。湖畔に下りても対岸の宿
まで、半周は車道を歩かねばならない。暗い車道を歩くのは避けたい。
小走りに下り、どうにか16時40分頃に迎車の電話を受けて貰った。
乗車位置が決められていてバス停に向かう。停留所標識は諏訪バスの
ままだが、アルピコ交通に2011年吸収合併されている。しばらく
でタクシーが到着した。無料なうえに終業時刻ギリギリで申し訳ない。
10分程で今夜の宿に到着。ブログに宿の事を書く事は少ないのだが、
ユニークなホテルなので書いてみよう。予約サイトで検索すると一番
安かった。平日休日共に同料金で素泊まり二名一室4500円である。
予約サイトの施設紹介に、音や臭いが気になる方は対応できないとか、
無い物の注意書きが多い宿。現地に着くと一階の軒が崩落していたり、
どうかなと思ったが、室内は完璧に清掃されているし、寝具も清潔だ。
お風呂も4人程度の大きさながら快適。次の日に泊まった茅野市街の
ビジネスホテルより居心地が良かった。部屋の窓からは車山が見える。
タクシーに乗らなかったら、波打つ草原の尾根を下って来たのだろう。
付近に営業している飲食店はないので、1km程歩きコンビニに行く。
リゾートローソンという業態。広くて品ぞろえも豊富。白樺湖自体は
廃墟化した土産物屋やホテルが多く寂れた雰囲気。此処だけ賑やかだ。
二日前に見た天気予報。明日の降水確率80%というのも気になるが、
荷造りする上で問題だったのは最低気温。松本市内で5度なら標高が
700m高い白樺湖畔は何度になるだろう。多めに衣類を持って来た。