家族は9月5日の大谷川遡行を問題なくこなしていた。なら八幡谷も
行けるだろうと誘ってみる。週間天気予報では今週唯一晴れマークの
月曜日だが、摂津本山駅を出るころには完全に曇り空になってしまう。
気温はそれほどでないが湿気が多くて蒸し暑い。今回も良い入渓点を
探しつつ歩いて来たが民家が密集しており見当たらない。登山口下の
駐車場奥が谷に一番近いが、立入禁止看板とロープで拒絶されている。
やはり八幡谷道の登山口から10m程の所から下降する。不法投棄の
ゴミが散乱し不快な所。トタンや金属製建築廃材等が多く危険である。
浮岩もあるので慎重に行動したい。もっと良い入渓点はないだろうか。
両岸から崩れた土石が散乱する河原。長居したくない。沢用の足拵え
に変えて出発しよう。前回はスニーカーで遡行したが、今回は二人共
フェルト底である。水没する可能性から、財布などは防水袋に入れる。
ゴルジェの入口は1m弱の小滝が二つ続く。上段には古い取水施設の跡。
家族はさっさと行ってしまうが、ハムは写真を撮るたびに防水袋の開け
閉めに手間取って、どうしても遅くなってしまう。水量はまずまず多い。
凄まじい景色のゴルジェだが、その底は意外なほど平坦。もちろん水音
はするのだが、他の雑音がなくて一瞬静かとさえ思う。右岸の崖上には
一般道があるとは信じられない。休日にはハイカーで賑やかな道である。
このゴルジェでは、中にある小滝よりも、淵の通過がポイントになろう。
前回ハムは腰まで浸かって通過した最初の淵。ところが家族は右岸水際
のスタンスを上手く拾って、足首しか濡らさずに滝へ取りついて行った。
前回は水位が低く水中のスタンスがよく見えたのかな。スニーカーでは
へつると沈しそうだったのか覚えていない。家族と同じラインでへつる。
淵の上流は小滝が二つ連続するが、順層の階段状で問題なく歩いて行く。
小滝の上にある淵を一つこなし、大きなチェックストンのある淵も右岸
をへつる。前方には一般道から下がっている太いロープが見える。何の
為かは知らないが、岩壁が緩くなっているので逃げる事もできるだろう。
その分一般道からも良く見える。お一人通過されたが我々に気づかれて
いなかったよう。休日はちょっと恥ずかしいかも。此処も前回は腰まで
浸かって通過したと思うが、流木の枝を踏んで滝身へ渡ることが出来た。
へつりの不得意な家族だが今日は自分で判断して進んで行く。そういう
時は楽しんでいる。ここも右岸から容易に越えられるが、敢えて左岸の
水際をへつって行った。ハムの意見は聞かない、そもそも信用してない。
最後の淵も同じ。前回ハムは腰まで浸かって右岸沿いをへつったのだが、
家族は左岸の少し外傾した岩場にホールドを見つけ上手く抜けて行った。
家族は此処まで膝下までしか濡らさずに来ている。最後の滝はどうかな。
此処までの小滝に比べれば少し傾斜がある。スタンスはあるがガッチリ
掴めるホールドがないので、左腕が完全でないこともあり苦労している。
結局抜けるのに数分間も掛ったので、全身がずぶ濡れになってしまった。
御堂に渡る橋の下を通って八幡滝を見に行こう。右側から回り込めるが
ここでも積極的に小滝を越える。事前に言っていなかったので八幡滝も
越えるつもりだったのかも知れない。此の谷で唯一の滝らしい滝である。
右側にも水流が有って雌滝というそう。その中間が行事に使われるのか
コンクリートで階段状に固めてあり、ロープが設置されている。越える
のは容易だがすぐ大きな堰堤に突き当る。それを巻くのはかなり難しい。
なので遡行は止めて一般道に戻る。河原にはヤブランが咲き乱れていた。
かなり上流まで谷全体に繁茂している。八幡谷の特徴として砂防ダムの
上に延々と堆積地が続く。それがヤブランには繁殖適地なのかも知れず。
打越峠に向かう一般道と別れて、森林管理歩道の木橋を渡った所で再度
入渓する。いつも人の気配がするところだが、今日は誰とも出会わない。
ゴルジェの通過だけで済ますのも一案だが、前回のやり残しが一つある。
右上に作業小屋を見つつ進むと、小さいながらも姿の良い斜瀑が現れる。
だがすぐに堰堤に突き当る。八幡滝第三副堰堤である。此の谷の堰堤は
何れも国の作った砂防ダム。県の作る治山ダムと違い各々に銘板がある。
そして此れが八幡滝第三(主)堰堤である。左岸を容易に越える。上流
は二俣になっており、本流は右俣だが伏流している。左俣も太く水音も
聞こえている。詰めれば打越峠に至るよう。僅かながら興味を惹かれる。
長い堆積地歩きをこなすと、再び水流が現れる。此処も上手くへつって
行く家族。次に現れるのが前回にハムがスニーカーで登れなかった小滝。
スタンスは沢山あるけど、ゴム底のフリクションに自信が持てなかった。
家族も取りついてみるが腕に力が入らないと下って来た。左岸の泥壁を
巻き上がって行った。フェルトシューズを履いているハムは、水心寄り
のスタンスを拾って一歩二歩上がり、緩やかな落口に抜ける事が出来た。
次に現れる苔むした小滝は家族も越えた。ただし岩が脆くて掴んだ岩が
ごっそり抜けたりする。この上でまた大きな堰堤を越える。巻き上がる
途中で一般道が近づく。逃げても良いかなと一瞬思ったり、でも続ける。
また長い堆積地をこなさなければならない。この山域は400m前後の
標高の割りに奥が深い。その分傾斜は緩い。伏流したままの谷を進んで
行くと、やがて谷はⅤ字状になり東へ屈曲する。二俣の出合いがある所。
本流は階段状の緩やかな滝。途中で左岸から支流が流れ込む。詰めれば
風吹岩の近くに至る。この上が一般道と森林管理歩道の三叉路となって
いる。ちょうど二組のハイカーが通過される所で恥ずかしい思いをした。
一般道を数十m歩いた所で再び沢に戻る。すぐに枯滝に出会う。普通に
歩けると家族に説明したが、いざ取りつくとボロボロ岩が剥がれ落ちる。
また信用を無くしてしまった。右岸寄りが傾斜も緩く岩も固く歩き易い。
水抜き穴が泣き顔のような八幡谷第五砂防ダム。左岸に明瞭な巻き道が
ある。急峻なうえに滑りやすいので残置ロープもある。天端からはすぐ
に下りれず、斜面を上流へトラバースしてから適当な所で河原に下りる。
前回来た時は涸れていた最後の小滝。水流を見れたのはラッキーかもし
れない。見た目より斜度が緩くて普通に越えられる。この滝を越えれば
長かった遡行も終わりが近い。真砂の積み上がった河原をもう少し進む。
不思議な二俣が現れる。写真では分かり難いが左俣の方が本流。水流は
なく枯れているが谷幅も深さもある。なのに流れのある右俣はバケツの
水を流したみたいに、谷としての形状をなしていない。その右俣へ進む。
下生えの少ない明るい疎林が続く。源流風景としては好ましい雰囲気だ。
明確な道はないが訪れる人は多いよう、踏み固められた踏跡が続いてる。
やがて斜度が上がり、有機的な臭いが漂うようになると遡行終了となる。
横池(雄池)の水抜き穴。此処が八幡谷の源流だ。水質は非常に悪くて
周囲には赤っぽいヘドロが堆積している。此処からは薄い笹原を抜けて
数メートルも上がれば、横池の南側の尾根道に出る。以上で遡行は終り。
いつもなら雌池の畔に食事に行くが、今日はこの後に西宮に用事がある。
横池には下りずに風吹岩を避ける尾根道の露岩で昼食にする。六甲山の
主稜線を望む所。残念ながらスッキリしない空模様。風もなく蒸し暑い。
堰堤の多さには閉口するが、退屈しない程度にアトラクションや見所が
現れる谷歩きだった。難しい所が無いのも良い。もっと良い入渓点さえ
あれば人にも薦められるんだけど。下りは今日も会下山遺跡から三条町。