この日は山を歩く予定は全くなかった。なので何の用意もしていない。
だが昨夜泊まったホテルに、とんでもなく大声で喋る女子大生二人組
がいて、チェックアウト時刻まで部屋にいる事さえ気持ち悪くなった。
家族は大浴場でも一緒になって、珍しく憤慨している。コロナ禍での
大学生活は気の毒に思うし旅行を楽しんでいるなら、我々が逃げ出す
方が理にかなっている。五条から京都駅へ歩き、宇治駅へは240円。
昨夜小雨が降ったせいか、気温は前日よりも2度ばかり低くなるそう。
早めに朝食を摂って出たが、宇治駅出発は10時とあんまり早くない。
半分観光を兼ねて、以前ネットで見掛けた喜撰山を周回しようと思う。
家族は何度か来ているが、ハムは宇治市には初めて来た。地理的にも
何処にあるのかさえピンと来ない。駅前から宇治川に突き当った所で
平等院門前の土産物屋街に入る。閑散としているのはコロナ禍だから。
平等院手前で宇治川に抜け、橘橋で中州に渡り、朝霧橋で対岸に渡る。
正面に見えるのが最初に登る仏徳山(131m)であろう。川の水が
満々としており、大雨の際には溢れ出さないのかな。少し心配になる。
対岸に渡ると宇治神社。すぐ隣には世界文化遺産だという宇治上神社。
京都市内の大きな神社を見慣れてしまったか、両社とも小ぶりに思う。
何で狭い所に神社が二軒隣り合わせ何だろう。そんな事しか考えない。
宇治上神社に「仏徳山は当社の敷地ではありません」と張紙が有った。
その意図は分らないが、北側に少し進むと東海自然歩道の道標を見る。
遊歩道を九十九に登って行くと、東屋やベンチがある展望所に着いた。
ご近所の老人達の社交場という感じで、写真を撮るのが憚られるほど
賑わっていた。木々にペットボトルを加工した鳥のエサ入れが吊るし
てあって、ヤマガラが飛び交っている。慣れていて手にも乗るそうだ。
展望所から石段を上がると仏徳山の頂上。塚のように積まれた小石に
半分埋まるようにして三角点がある。残念ながら展望は皆無。陰気な
所で通り過ぎるよりない。頂上から下ると興聖寺の伽藍を右下に見る。
鞍部にある三叉路から朝日山に向かう。ところで今日は山歩きの用意
はしておらず、服も靴も街歩き仕様。参考にしたネット記事には林道
や遊歩道の写真しかなく、ずっと歩き易い道が続くものと思っていた。
ハムは底の平たい靴。家族は踵の浅い靴を履いている。水分は宇治で
1本買い足して計500mlX3。食料は昨夜夕食にしたワルダーの
パンの残りが少々。やはり石積みのある朝日山の頂上から宇治の市街。
立派な観音堂があるが清浄な雰囲気とは言えない。石碑などもあるが
雑然として雰囲気は良くない。水を飲んで小休止。此処にも野鳥の餌
が吊るしてあったがヤマガラは一羽も見ない。その代わり人もいない。
朝日山頂上からは緩やかに下って行く。この先で一旦は住宅街に下る
と思っていた。ところが山道がずっと続いた。北側には明星町という
新興住宅街があるので、そこを通った記事とゴッチャになってたかも。
やがて志津川という集落に下りついた。農家だけでなく工場や事業所
もあるが飲料の自動販売機が見当たらない。これには困ってしまった。
この辺りで冷たいのを買い足すつもりだったから。なんとも甘い計画。
少し迷ったが集落の奥にある神社から尾根に取りつくようだ。トイレ
の裏側に何となく踏み跡を見つけて入って行く。今一つしっかりした
踏跡ではなかったが、尾根に乗ってしまえば道はハッキリするはずだ。
最初の内は急な斜面だ。地形図から間違いないと思うが、参考にした
ネット記事からこんな所を歩くとは読み取れなかった。貧弱な針葉樹
を主とする雑木林は、気持ちの良い所ではない。ひたすら尾根を辿る。
290標高点に到着。神社から45分も掛かっている。一か月ぶりの
山歩きと暑さがたたって何度も休んでしまう。水も随分消費している。
ただ此処からは関電の巡視路を歩く事になるので、道は幾分良くなる。
290標高点から北東に転じて、10分程で突然断崖絶壁の上に出る。
見た所では土砂を採取しているようだが、自宅に帰ってから調べても
詳しい事は分らない。周囲を見回しても岩壁はなく土の急斜面だけだ。
地形図からすると真下の施設までの比高差は130mある。岩場なら
ともかく、よく山崩れを起こさないもの。長さ700m、法面を含め
幅300m程の広さがあり、北東奥では今も土砂が削り取られている。
展望はあるが自然の景色ではないので休む気になれない。先に進もう。
巡視路は断崖の縁を進んで行く。崖からそう離れていない所に、高圧
鉄塔が立っていたりするが大丈夫なのかな?。多分素人の要らぬ心配。
巡視路を辿って行くと河原に下りついた。倒木や土砂崩れで判り難く
なっているが、下流方向に進んで行くとガードレールが見えた。草を
分けたり沢を渡ったりして道路に出る。志津川集落からダム湖への道。
反対側にちょこんと見えているのが、今日の目標である喜撰山だろう。
西側へ5分も車道を歩いて行けば、ダム湖を望むようになる。しかし
湖畔にはフェンスが張り巡らされているので、近づくことはできない。
キレイに草刈りされた路肩に寝転んで大休止。ここでまた水を飲んだ。
残りの水は二人合わせても400mlほど。時刻は13時30分だが、
持参のパンを食べる気はしない。ハード系のパンは口中の水分を奪う。
碧色の水を湛えた喜撰山ダム湖が見える。正しくは貯水池だけど湖と
呼びたい大きさだ。だが周囲の山が低すぎて不思議に思う。調べると
電力需要の少ない夜間に宇治川の水を揚水して、昼間に発電するそう。
車道から喜撰山頂上までは標高115mの上り。ヘロヘロに疲れてい
るが、それほど苦痛に感じ無かったのは、これまでの道より歩き良い
せいだろうか。周囲の植生も幾分落ち着いたものとなり好ましく思う。
とりあえず喜撰山頂上に到着。あまり山頂らしい所ではなく休憩には
向かない。少し水を飲み下りにかかる。良い道が続くがネット記事で
見たような林道は現れないまま20分程下ると、前方が急に広くなる。
左奥ブロックの階段を下りて来た林道の三叉路。写真右のフェンスを
抜けて進まねばならないが、逆方向に進んでしまい約10分間のロス。
中央奥は喜撰山ダム方面で進入禁止。林道・仙郷山2号線を南下する。
この2km弱の林道が意外に良い。二日前に打ったワクチンの副反応
か、熱中症なのか意識がフワフワしてきた。過去に家族と長い距離を
歩いた事を次々に思い出す。実際は25分掛っているが数分に感じた。
なるほど此の林道の印象が良いので、ネット記事に写真が多いのかも。
天ヶ瀬森林公園の看板が現れる。右側の林道を歩いて来た。そのまま
進むと宇治川上流に至る。スイッチバックし森林公園の遊歩道に入る。
遊歩道と言っても林道ほど平坦ではない。意識を取り戻し歩いて行く。
公園には幾つも道があるが、眺望の道という名のコースを進んでいる。
ずっと樹林の中だけど、コース半ばに立派な展望台が設けられていた。
ちゃんと眺望があり宇治の市街が望める。涼しい風が吹き抜けるので
ベンチに寝転んでしばし休憩。水も摂取して残り200mlとなった。
空腹を感じないのはホテルの朝食が効いているのか、疲れ過ぎの為か。
槇尾山展望台からは下りばかりとなった。野鳥観察小屋の脇を通って
冒険の道を下って行く。途中にあった馬の背展望台は、周囲の木々が
成長し眺望がなくなっている。砂利の多い下りで家族が尻もちをつく。
林道に出てしばらく下ると、トイレのある公園入口に着いた。水道は
あるけど「この水は飲めません」と書いてある。もう少し我慢しよう。
地図を確かめることもせずに、公園を出て車道をフラフラ下って行く。
眼下に天ケ瀬ダムが見える。今日のハイクで一番の観光スポットだが。
どんどんダムから離れてしまう。500mも進みと地図を確かめると、
公園出口の所で逆方向にダムへ下る階段道があったよう。痛恨の失敗。
もはや車道を登り返して、ダムを見に行く気力も体力は残っていない。
そのまま下ってしまおう。只ダムにあるだろう飲料の自販機が心残り。
今日通過した志津川集落の南端に出る。更に南へ進めば宇治川右岸へ。
白虹橋の向うに天ケ瀬ダムを望む。ここまで来ると宇治の観光コース。
散歩する人の姿が多い。暑いが外していたマスクを付け直す。家族は
そういえば山の中でもずっと付けていたな。前方に建物が見えて来た。
上流から二軒目に自販機が有った。予想ではチェリオのはずだったが
アサヒ。二人で一気飲み。よく冷えてて凄く美味しい。この亀石楼は
大きな民宿。家族は運動の合宿で遠い昔に泊まったことがあるという。
次に現れた自販機がチェリオだったので、もう一本購入し人心地つく。
宇治発電所の放水路を渡る橋。大津市の南郷から11kmのトンネル
を流れてきた水が宇治川に合流する。色々と見所の多いハイクだった。
瀟洒な造りの京阪宇治駅に17時13分到着。ネットで見た記事では
6時間前後の記録が多かったが、昼食休憩なしで7時間はかなり遅い。
だけど一ヶ月ぶりのハイクで、それなりに歩けたので良しとしようか。