この日は早起きして阪急電車に乗り、四条大宮駅で嵐電に乗り換える。
嵐山行きは2両連結だったが車両間の移動はできない。後部の運転席
も乗務員がいて料金収受するという、ちょっと変則的なワンマン運行。
帷子ノ辻(かたびらのつじ)駅で構内踏切を渡って、北野白梅町行き
に乗り換える。面白い構造の駅で、鉄道マニアでなくとも旅行気分が
湧き上がる。観光で乗るのなら全線一律220円の料金は安いと思う。
嵐電北野線の鳴滝と宇多野駅間は、200mに渡り70本の桜の木が
あり桜のトンネルと呼ばれているらしい。そうと知らずに運転席越し
に写真を撮ったのは並木の終わりかけ。少々遅かったので悔いを残す。
乗客の半分ほどが、御室仁和寺(おむろにんなじ)駅で下車されたが
我々は一つ先の妙心寺駅で下車する。100mも東進すれば、妙心寺
の北門に着く。前回は小雨の中の参観だったのでもう一度来たかった。
幾つかの塔頭寺院の門前にあるくらいで、妙心寺の境内に桜は少ない。
それでも前回歩いていないところも含めて、一回り散策させて頂いた。
改めて広大な境内に驚いたり、隅々まで清浄な様子に感心したりする。
元の道を北西に300mも歩けば仁和寺の門前に着く。静かな妙心寺
とは異なって、多くの観光客の姿がある。何しろ御室桜は京都府2位、
全国で9位の花見スポットで、例年10万人の観光客が訪れるという。
もっとも遅咲きの桜らしくまだ少ない方かな。春季は境内に入るのも
500円の拝観料が要るが、その他の季節は境内の参観は自由だそう。
二王門から見る境内は美しく、紅葉の頃にでも改めて訪れたいと思う。
仁和寺から更に300mばかり西へ戻り、宇多野駅の少し先まで行く。
さっき車窓からの撮影に失敗したので、桜トンネルを走る嵐電を写し
たいと思ったのだけど、余り良い撮影スポットは見つけられなかった。
再び仁和寺まで戻り、きぬかけの路を歩いて行くことにする。金閣寺
までの2500mを言うらしいが、交通量の多い府道29号線の歩道
にすぎない。仁和寺駐車場の縁には桜の古木が並んでいて中々の景観。
東へ400m進めば龍安寺。境内に入るには500円要るのでスルー
する予定。ところが駐車場周囲の桜が綺麗なので一回りする。中でも
一番奥にある枝垂れ桜は見事だった。その他の桜も巨木で見応え十分。
仁和寺もそうだったが京都のお寺の駐車場は、桜の穴場かもしれない。
駐車場の桜だけを楽しませて貰ったのでは申し訳ないので、拝観料を
払って庭園も拝見させて頂くことにする。次々に観光客が訪れている。
駐車場からの通路には土産物店や茶店が並んでいて、人気のあるお寺
らしい風情を感じる。山門脇にある寺務所で500円払って入場する。
境内に入ると桜苑を示す道標が目に入ったので、其方に進んでしまう。
色んな種類の桜の木が植えられており、満開なので間違いなく美しい。
ただ駐車場の桜に比べれば若木ばかり。むしろ苔の庭のモミジの若葉
が印象に残った。紅葉の頃に来ればさぞかしと思われる庭園であった。
それでも鏡容池に浮かぶ伏虎島や弁天島には、大木の桜樹があり見事。
ところで龍安寺は石庭の方が有名だと帰宅してから知った。この時は
方丈入口が混んでいたので、入らなくても良いかとパスしてしまった。
更に東へ衣笠山の裾を絡むように進む。右は立命館大学のキャンパス。
正面に比叡山が意外に秀麗な姿を見せている。以降は鴨川の河原まで
見え隠れしていた。正門前のコンビニでシュークリームの小休止する。
立命館大学正門からは700mほどで金閣寺。拝観料400円が安く
思えて入場してみる。さすがに外国人観光客の姿も多く見る。在住者
なのだろうか。着物姿は全て外国人。それも東洋系以外の方達ばかり。
入場チケットは御札。気の利いたアイデア。大事に持ち帰って部屋に
貼ってある。信心の無い者には何の御利益もないだろうが、ありがち
な写真を配した券面よりも、デザインとしても遥かに好ましいと思う。
なんともフォトジェニックな金閣寺。素人が撮っても絵葉書みたいな
写真となる。回遊式庭園なのに観光客は池の周りを半周しかできない。
因みに昭和25年に金閣寺を炎上させたのは、我が母校の先輩である。
そんな事は何の自慢にもならぬが、小学校の修学旅行で来た金閣寺を、
もう一度見たいと思ったのは其のせいかも知れない。京都市内で出身
地と関係ある場所は此処しかない。その後は東進し船岡山公園に入る。
金閣寺の門前で標高既に94mある。そこから船岡山の頂上へは比高
20m足らず。頑丈に囲われた三等三角点には立派な解説版まである。
背後には謎の遺構がある。通りすがりの人が訳知り顔で昔の焼却炉と
言っていたけど、ドアサイズの開口部からそうとは思えない。帰って
調べると、建勲神社の地図にはサイレン塔と記してある。南側が広く
開け標高112mなりの景色。やはり京都タワーが一際目立っていた。
きぬかけの路は既に終わっている。目的の賀茂川へ向かってもよいが、
近くにある名所を回っておこう。船岡山から北へ紫野高校の正門前を
今宮神社に向かう。右手は大徳寺であるが、この時は気づいていない。
あらかじめ地図で効率良い歩き方を考えておくべきだった。この後は
迷走している。本殿前の枝垂れ桜が見事だったが、境内は閑散として
いた。それには理由があった。参道にある二軒の餅屋の定休日なのだ。
三々五々訪れる観光客が次々に嘆息をもらしている。我々も昼食代り
にと思っていた。いち和が元祖正本家を名乗り、かざりやは本家根源
と競い合う両家が、同じ水曜に仲良くお休みとは思いもよらなかった。
そこで500mほど西側にある、仏教大学の食堂はどうだろうと思い
歩いて行く。途中小さな寺の門前の桜が舞い散る様子が、とても綺麗
だったが写真では分かり難い。さて肝心の大学の食堂は休業中だった。
春休みだからではなくて、遠隔授業の実施で長期休業しているようだ。
それでも無駄ばかりではない。食堂を探して一回りしたキャンパスは、
小さいが瀟洒で好印象を持つ。帰り道の今宮児童公園の桜並木が見事。
古木が多く幹には白い苔が生えている。中には幹に洞が出来たものが
あって向こうが見えている。緑色のテープにひらがなで「たおれます、
ほらないで」とあるが、危険と思うが切らないのが京都ならではかも。
西側から入ればすぐだったのに、今宮神社から大徳寺の正門へ大回り。
少々疲れが出てきた。この寺も境内は自由に通行できる。妙心寺より
やや狭い境内に塔頭(たっちゅう)がひしめいて、お寺の団地みたい。
仏殿だけ拝観出来て本尊の釈迦如来像を拝める。一休さんがいたお寺
とか、千利休ゆかりの逸話とか、歴史を知っていれば興味深いだろう。
大徳寺からは地下鉄北大路駅に抜け、遅い昼食を摂ったりして一休み。
北大路橋から賀茂川右岸を上流へ歩いて行く。目的は植物園脇にある
枝垂れ桜だが、ソメイヨシノの並木が素晴らしくて行き過ぎてしまう。
川が西に屈曲しているせいもあって、どこまでも続くように思われる。
昨年の8月に歩いた比叡山北側の稜線が伸びやかに見える。横高山と
水井山のピークがちょこんと見えている。日が傾いて影が長くなって
きた。そろそろ切り上げないととは思うが、まだ々並木は続いている。
というか木々の密度が濃くなり、段々アップグレードしていく感じだ。
植物園から上流へ二本目、上賀茂橋からは左岸を行く。堤防上道路の
両脇に並木がありトンネル状になっている。これは歩いておかないと。
自動車も行き交う道路を、並木の尽きる御薗橋まで行って折り返した。
この時点で17時30分。明るい内には今夜の宿には着きそうにない。
まあそれも良い。暗くなっても京都の街歩きは興趣が尽きないはずだ。
元の道を戻って上賀茂橋からは左岸の河原を歩いて行く。以降は桜の
様子に合わせて堤防に上がったり、また河原に下りたりを繰り返した。
京都の街は狭くて密集した感じだが、河原を歩いている限り空が広い。
北山大橋を過ぎれば植物園横。此処から北大路橋までの約800mは
堤防上に紅枝垂れ桜の並木がつづく。全体にはまだ三分咲きといった
木が多い。ソメイヨシノの満開を逃した時は此処へ来ればよいだろう。
北大路橋手前で上流側に振り返る。枝垂れ桜は他の桜と違って、棚や
添え木を施したりと手間が係りそうだ。府立植物園(入場料200円)
は種々の桜が植えられ、一か月以上楽しめるという。いつか訪れたい。
出雲路橋から南は堤防上も未舗装になる。人出も少ないし大木が多い。
桜が堤防の東側斜面に植えられているので、住宅の庭の木が張り出し
ているように見える。静かな所だし地価は相当高いだろうと思ったり。
18時18分。夕日が西山に落ちる。葵橋で右岸に移って河原を進む。
薄暗くなっても多くの人々が遊んでいる。二条通りまで下ると真っ暗。
人気のないリッツ・カールトンホテルを横目にし高瀬川沿いへ転じる。
日本銀行京都支店裏、現存する唯一の船溜まりである一之船入。脇に
ある招猩庵という料亭が何とも風情がある。下世話だがお幾ら位かと
店前に行ってみるが、勿論メニューはないし一見では入れそうにない。
高瀬川沿いをさらに南に下る。三条通手前にあるサルバドーレクオモ。
京都店は値段が高かかったような。夜桜よりそんな事を気にしている。
並木は五条通まで続いた。投宿したのは20時。歩数は47545歩。
今日出会った動物
高瀬川で餌をねだるサギ君。魚を狙って川でじっとしているのはよく
見るが、彼は焼肉店のテラス席をずっと見ている。どうも肉を貰った
事があるみたい。後で他のサギが来て彼を追い払い同じポーズをとる。