鈴鹿山系は割合知っているつもりだったが、滋賀との県境から離れた
この山は記憶にない山だった。それが最近ネットでチラホラ見掛ける。
近鉄の駅からバスの便もあるという事なので、二日目の山として選ぶ。
昨夜は近鉄平田町駅近くに泊まった。昨夜は巨大なサランラップ工場、
とてつもなく広いイオンタウンに驚いた。遠くに山は見えるが平野の
真っ只中。鈴鹿サーキットとホンダの工場がある街と聞いて納得する。
宿も出張のおじさん達で一杯。駅前を7時19分に出たコミュニティ
バスは、1時間かかって椿大神社に到着。ここも初めて知ったのだが
格式のある神社のようだ。残念ながら行程の都合で参詣はしなかった。
それが後々災いを避けられなかった遠因だろうか。祀られているのは
何しろ道案内の神である猿田彦である。上りは井戸谷コースの予定だ
ったが何も考えず石段を登る。実際は左の林道を奥に進むべきだった。
ガイド本の案内文をロクに読まず、小さな概念図だけ見て歩いていた
からだ。その図には井戸谷と二本松尾根のコースしか書いてなかった
ので、右に行けば井戸谷に至ると思っていた。とても長い石段が続く。
急な石段をこなし愛宕社に到着。早朝は寒かったので厚着してきたが、
ここで長袖Tシャツ一枚になる。まだ間違った事には気づいておらず、
この辺りから左側へ、トラバースして谷に向かうのではと思っていた。
北尾根コースの道標が現れてもまだ半信半疑のまま。入道ヶ岳頂上に
椿大神社の奥宮が有る。愛宕社を経由する事から考えても、この道が
表参道という事になりそう。とにかく良い道が続くので進んで行こう。
中部電力の高圧鉄塔が一本。最近は初めての山もガイド本を読み込む
事をしなくなった。山行を旅行の一部としか考えていないし、事前に
知り過ぎていると新鮮味が薄れてしまう。まあ山頂に着けば良い訳だ。
山容から考えると単調な尾根道かと思ったが、一旦は鞍部に下ったり
細尾根となったり変化がある。しかし道は明瞭だし要所に道標が有る
ので問題ない。それなのに此処も赤ペンキで汚され不快な気分になる。
杉の植林帯に続いて照葉樹の暗い森。鈴鹿とは云えども標高の低い所
では、このような植生でも仕方ないのだろう。ところで此の山は標高
906m。摩耶山より200m高く、しかも平野から歩きだしている。
鈴鹿山系では低い方だが登りがいはある。バス停から1時間20分で
避難小屋と出会った。後で見る井戸谷の小屋に比べると、大きく広い。
ハイカー向けというよりは参詣者向けなのか。落書きが多いのは残念。
避難小屋を過ぎると落葉樹が増えて明るくなった。 対岸に見えるのが
二本松尾根なのか、右手上方には山頂らしき草付きのピークが見える。
どうやら北尾根は直に頂上に向かうのでなく、グルッと回り込むよう。
涼やかな落葉樹帯が続く。下生えのない鈴鹿らしい雰囲気が好ましい。
いわゆる炭焼きの二次林であるが、かつては一定期間ごとに伐採され、
高木とはならなかった。炭焼きが途絶え、やがて景観も変わるだろう。
落葉樹林帯が終わると、ツルッとした樹皮の灌木帯があって、続いて
ウメバガシのトンネルに入る。普段は植生には興味を示さない家族も、
舞台が暗転するように次々変わるので、中々面白いなどと言っている。
そして最後は馬酔木の群落に突入する。前方に見えるのが頂上かなと
思ったが、北尾根ノ頭らしい。馬酔木(アセビ)は名の如く有毒植物
で、鹿は食べない。それ故に生き残り稜線上で繁茂しているのだろう。
馬酔木の群落から北側に出ると展望が得られた。昨日歩いた御在所岳
を正面に望む。ロープウエイの白い大支柱も見える。インスタ映えを
狙って塗り直したのかと思いきや、昭和34年開業当時から真っ白だ。
馬酔木の群落以外は笹原だが、矮小な姿は不自然すぎる。帰ってから
調べてみると、ミヤマクマザサという種で、鹿の採食耐性植物らしい。
つまり鹿に採食はされるが、開花結実し枯れずに生育できるという種。
鹿から言わせれば余り美味しくないんだろう。採食は若葉が出る6月
と冬に限られるそう。なので今は鹿の姿も声も聞かない。本来は高さ
50cmから150cmになるが、鹿の強い採食圧で矮小化している。
もっとも古いガイドブックを読み返すと昔はススキの原だったそうで、
鹿のおかげで他の植物が駆逐されて、繁茂している一面もありそうだ。
北尾根の頭からは鎌ヶ岳が一際秀麗に見える。機会が有れば歩きたい。
北尾根の頭から井戸谷の源頭を挟んで、馬酔木に包まれた頂上を望む。
一見すると此方の方が高そうだ。帰ってから地理院地図DEM5B値
を確かめるとやはり2m程高い。更に右の奥宮のある所は10m高い。
とはいえ入道ヶ岳の頂上は、一般的に三角点のあるこのピークという
ことになっているようだ。笹原の円頂で眺望は文句のつけようがない。
なぜか頂上には鳥居だけポツンとある。奥宮の参道という意味なのか。
家族は高屋神社(香川県観音寺市)の天空の鳥居が一世風靡したので、
建てたんじゃないとか言うがどうかな。初日の出を迎えるには絶好の
場所なので、その為かなというのがハムの意見。平成29年5月建立。
それにしても広々としたパノラマ。伊勢湾を挟んで知多半島や愛知県
の山々も見えている。視界が良好なら富士山も見えるはず。大福餅で
昼食休憩する。時刻は11時。上りは2時間半も掛かっている急ごう。
素晴らしい眺望の頂上で、もっとゆっくりしたかったが、今日は賢島
の宿に泊まる。同じ三重県内だが意外に遠くて、椿大神社13時過ぎ
のバスに乗っても、近鉄賢島駅は17時10分の到着になってしまう。
下りは頂上から北側へ少し戻り、井戸谷の道に入る。源頭部は笹原で
伸びやかな風景が広がる。とはいえ此れも鹿の食圧により出来た景観。
この山が近年に人気の出た理由ではあるが、手放しに喜べない事かも。
振り返ると笹原が雪渓の如く見える。やはり此の道は登りに使いたい。
北尾根も上部の植生の変化が楽しかったし、無駄なく北尾根の頭から
三角点の頂上に回れたのは良かったと思うのだが、惜しいことをした。
下生えのない鈴鹿らしい谷沿いの道を下って行く。小さな看板があり
下り方向は危険だと記されている。事故もあったようだ。実際に道幅
狭く急な谷筋を下って行くのは、昨日の本谷ルートよりも遥かに怖い。
そういう意味でも井戸谷コースは登りで使った方が良い。下るにつれ
道も良くなって自然と小走りに下る。舗装路に出ると家族が、もしか
すると一本前のバスに間に合うかもと言い出す。また々バタバタ走る。
バスの時刻は12時14分。椿大神社のバス停に到着したのは15分。
次のバスまで一時間待ちかなんて思ってると、2分遅れでバスが来た。
平田町駅13時35分発の電車に乗り、伊勢若松乗り換え賢島16時。
ビジネスやインパウンド向けは別として、温泉宿は満員で強気な姿勢。
この宿も平日は割引いてたのに定価のまま。GoTo割引後でも前年
同時期より高い値段設定。料理の質も落ちている。報道されない現実。
今日出会った動物
北尾根を歩いていると、樹を突つく音が聞こえてきた。でも本格的に
穴を開けてるって感じじゃない。軽い感じだ。スズメほどの鳥がいる。
コゲラ(小啄木鳥)・英名(Japanese Pygmy Woodpecker)だ。