近鉄が全線三日間フリーパスを3000円という非常にお得な値段で
発売している。新型コロナによる旅客減少を受けての事と思われるが、
この切符で、久しく訪れていない三重県への二泊三日の旅行を考えた。
湯の山温泉駅には9時に到着したが、バスの通過時刻まで15分ある。
さて目的の中道登山口までは、バスの終点からの40分程車道を歩か
ねばならない。そう思うと何だか嫌になって衝動的にタクシーに乗る。
一の谷と言ったので、中道登山口の少々手前で降ろされて1790円。
バス代360円X2に比べて意外にリーズナブルに思えた。人気の山
だけに歩いていると道標も沢山あるし、登山届ポストが2か所もある。
10分程中道を歩く。その間の話題は下りをどうするか、タクシーで
浪費してロープウェイは使えない。裏道は何度か歩いたが嫌いな道だ。
他は本谷を少し調べている。中道は下りに使おうと家族と意見が一致。
そう決めて登山口に戻って来た。朽ちかけた鉄の橋に警察署の張り紙
がある。この文章が気に掛かっていた。落石の恐れがあるので入山を
控えるようにと記されているが、滑落の危険性には全く触れていない。
ならば我々でも歩けるのではなかろうか。一段上がった所には廃墟化
した御在所山の家があった。いわゆる営業小屋で裏道の藤内小屋とは
同族の経営であったらしい。かつての登山ブームを象徴する大きさだ。
山の家から斜面を進むと堰堤の上に出た。天端に座って朝食を摂ろう。
ロープウェイの支柱がバベルの塔の如く聳え立つ。左上には山上駅も
見えている。その辺りに本谷は突き上げるはずだが、相当険しそうだ。
一瞬本当に行けるかと思う。その懸念は谷に入ると消えた。巨岩群を
越えて行くが、岩角が摩耗して人の歩いた跡が分かる。それほど多く
の登山者を迎えているなら恐らく大丈夫。まあ詰まれば下って来よう。
摩耶山で言うと東谷のようなオールドルートだろう。このところ雨も
降っていないので水量は少ない。ネットで調べた限りでは水流の中を
歩く様な所は無さそう。ただメットぐらいは要るかなって感じだった。
二泊三日の旅行中ずっとメットを持ち歩くのも、現実的ではないので
選定から外していたコース。ここまで岩のフリクションは素晴らしく
良いし概して階段状、全てではないが転石も大きいので安定している。
釜の底に落ち葉が溜まっているので分かり難いが、鈴鹿らしい澄んだ
水流も魅力的だ。その昔、滋賀県内に住んでいた事もあって鈴鹿の沢
に傾倒した時期がある。だがそれは全て滋賀県側の穏やかな傾斜の谷。
三重県側の沢に入るのは初めてだ。その険しい地形から考えて我々に
歩ける沢があるとは思ってもみなかった。前方にロープウェイの架線
が見えて、スキー場にあるようなタイプのゴンドラが行き交っている。
事前には二つ三つのブログ記事を見ただけだったので、こんなに岩が
露出した川床が続くとは思っていなかった。同じような写真を何枚も
載せているが、その辺りの距離感というか、ボリュームを記録したい。
本当に楽しい。基本的に安全第一の観光登山なので、人の歩いた跡を
探しながら進んでいくが、家族に少しでも下らないルートを選ぶよう
言っている。このまま詰めれるかと思う頃、前方にゴルジェが現れた。
ゴルジェの奥には巨大なチェックストーン滝がある。此処は進めない。
少し戻って右岸の巻道をたどる。良く踏まれていて一般道と遜色ない。
大きく巻き上がって滝を越えても中々戻れず、かなり上流で谷に下る。
大嫌いなので今まで記してなかったが、この谷は赤ペンキで必要以上
に汚されている。やはり不快に思われる方もいるようで、その上から
灰色ペンキで上塗りしてあるが、残されているものも多数あり残念だ。
谷幅一杯の巨岩。ここは左岸側からスラブ状を越えて行く。しっかり
したロープが付いているので利用させて貰う。上りなら使わなくても
とチラッと思ったが、二泊三日の旅行の初日に事故は起こしたくない。
水流で濡れているので難しそうな小滝がある。此処は右岸にハンガー
ボルトが二本打たれていてシュリンゲや鎖が有った。垂壁に見えるが
バンドが斜めに走っているので難しくはない。ただ下りは怖いだろう。
二俣っぽい所で本流には滝が掛って、水が音を立てて流れ落ちている。
此処は右岸から巻いて行く。この滝を越えると源流の雰囲気を呈して
くる。両岸が狭まって笹の中を進むので終りかなと思うとまた広がる。
此処からはロープウエイと並行するように進んで行く。最後まで架線
の下を潜ることなく稜線に出るようだ。この先は完全に涸れ谷である。
ルンゼ状ではあるが、階段状なのは変わらなく問題なく上って行ける。
ただ小さい浮石が多くなる。これが登山口の警察の注意書きだろうか。
多人数での入渓時や、休日は相当多くの人が通行すると思われるので、
メットは被っていた方が良いと思われる。右岸からの落石も気になる。
詰めで道が左右に分かれている。ロープウェイ側にも道が伸びている
が、小さな看板が有り「この先、線路点検道」と記してある。つまり
支柱までの「行って来い」の道のようだ。中流にも同じ看板があった。
そこで左の道に入る。太いクレモナロープが設置され一般道のレベル。
ロープウエイの架線点検の為の物かもしれない。それにしても楽しい
谷だった。100点満点付けたいが、赤ペンキのマーキングで80点。
稜線は一ノ谷新道という一般道が走っている。この道は知らなかった。
本谷方向は上級者以上となっているが、下るのならば間違いない等級。
それにしても道標が有るぐらいだから、コースとしては公けなのかな。
少し下ってダルマ落としのような大黒岩に寄る。天気予報は晴れだが
谷に入ってから雲が多くなり、すっかり曇空になってしまった。でも
そんな事は全く気にならない。予定を変更して本谷に入って良かった。
大黒岩からロープウェイ山上公園駅を望む。確かに架線の支柱まで道
が伸びているようだが、その先の尾根へは岩壁があり上れそうにない。
此処でようやく時計を見ると12時8分。チーズパンで昼食にしよう。
足元に続く尾根はクラシックな登攀ルートらしい。藤内壁のスケール
から比べると小さいので登る人は少ないだろう。食事を終えて尾根を
ロープウェイ山上公園駅に向け上ると、道がロープで閉鎖されていた。
やや荒れた道が西側に斜降して行くが、下るのを嫌って急峻な踏跡を
直上してみれば駅舎横のレストランらしき建物下に出た。階段が有る
のにロープの柵。つまり建物が新築されて従前の道が閉鎖されたのか。
上っては見たもののスムーズに歩道に出れず、観光リフトの下を潜り
強引に舗装歩道に出る。左に見えるのが山頂だが琵琶湖バレイのミニ
版といった風情だ。過去に行った事が有るので、今日は寄らずに下る。
都市公園化した山上を中道に向かうと、北西に見えているのは琵琶湖
のよう。左手に竹生島らしい影が薄っすら見えている。遠くに見えて
いる他より少し高い山は野坂岳なのか。しっかりした同定は出来ない
中道に向う途中で、摩耶山で良く見掛ける方とすれ違う。そんな事も
あるんだ。さて今朝上りかけた中道は記憶の限り初めて歩く。藤内壁
には数回来ているし、愛知川を遡行した時も北側の裏道を下っている。
下山口から少し下った富士見台までは、ロープウェイで上がってきた
観光客も歩けるようになっている。それ以降も諸所に展望の良い所が
現れる。手前に先ほど居た大黒岩が見え。その向こうに秀麗な鎌ヶ岳。
キレットと名付けられた鞍部。本谷ルートにも無かったような急峻な
岩壁を前後通過する。平日の今日も数多くのハイカーと擦れ違うので、
休日には渋滞するに違いない。岩はしっかりしているが混めば危険だ。
この前の由布岳であった事だが、先行者が鎖を持っている時に後続者
が、何も考えずに鎖を引いてしまうとバランスを崩す。今朝20分程
中道を上り下りしただけでも、出会ったハイカーは20名は下らない。
それを考えると休日には歩きたくない道。見上げる御在所岳は三角形。
山上の平坦な様子は想像もできない。ロープウェイの架線沿い、特に
白い支柱から上は極めて急峻に見える。先ほど歩いたとは信じがたい。
次々と好展望所や奇岩が現れ飽きさせない。家族は隙間を通過するが、
ハムは挟まりそうなので手前の道を左に下る。後で聞くと突っ張って
登れないか考えてたらしい。此処を過ぎると温泉街が一気に近くなる。
この道で感心したのが此の土留階段。コンクリ疑似木でも加工された
丸太でもない。それぞれ形の違う自然木を使われている。手間の要る
ことだと思うが、足にも優しいし見た目も良い。登山口14時17分。
湯の山温泉バス停まで車道を歩いて下るとバスは30分後。それなら
待つより次のバス停まで行ってみよう。そう思って歩き出すと意外に
距離が延びる。結局はバスに追い越されず近鉄の駅まで歩いてしまう。
朝のタクシーで生じた時間的余裕は無駄でなかった。15時32分の
四日市行きに乗車する。四両編成も途中から高校生の下校時刻で満員。
二度乗り換えて16時41分に平田町駅に到着し、駅近くに投宿する。
今日のBGM
I Will Survive | Gloria Gaynor | funk cover ft. Mario Jose
山自体は変わる訳ないんだけど、凄くノスタルジックなルートだった。