京都に紅葉を見に行こうと思うが、日帰りではせわしない。一日は山
も歩いてみたい。色々考えてみたが、今年5月に歩き損ねた京都一周
トレイルの、戸寺と二ノ瀬間を選んでみた。ただ余り魅力のない区間。
そこでスタートは大原にして、金毘羅山(572m)を経由して行く
計画にした。地下鉄四条烏丸駅の専用自販機で、バス・地下鉄一日券
(900円)を買って京都駅へ。駅前バス乗り場は観光客で長蛇の列。
臨時便も出る盛況ぶりで大原に到着する。我々以外の乗客は三千院に
まず向かって行かれた。バス停から小さな橋で小川を渡ると、さっき
までの喧騒を忘れるほど静かだ。路傍には大原女の小道と看板がある。
京都の豊かさを感じずにいられない農村風景が続く。風致地区として
建築規制があるのだろう。住宅には統一感がある。これはこの後歩く
静原や鞍馬も同じだったが、市原に出たとたん新興住宅街になり驚く。
寂光院までの道さえ十分に観光資源と云えるだろう。無料でこんなに
美しい風景を見させて貰える事を住民の方に感謝したい。やがて道は
谷間に入って寂光院の門前を過ぎると、金毘羅山を示す道標があった。
苔むした石段を上って山に入る。此処から翠薫(すいたい)山をまず
目指す。標高は577mと金毘羅山より高いが、展望が得られない為
だろうか、山行の目標とされることは少ないよう。期待せずに歩こう。
杉林の中を急傾斜の道が続く。植林帯ではないので雰囲気は悪くない。
かつては薪炭の供給地として落葉樹林だったろうが、その役目を終え
ると周囲の植林地から、杉の種子が飛んできて育った林だと思われる。
大原の標高は229mもある。翠薫山との比高差350mに過ぎない。
なので甘く見ていたら、急登が続いて息が上がってきた。ほんの回り
道ぐらいに考えていたが汗が噴き出る。気温も25度まで上るらしい。
ようやく翠薫山の肩らしき所に着いた。樹幹越しにオニギリ型の山が
見える。アップダウンのきつそうな稜線で先が思いやられる。今日は
食料をほとんど持っていない。小さなクッキーを二人で分けて小休止。
10時45分、ようやく翠薫山の頂上に到着した。大原バス停からは
一時間半もかかっている。どうにも足が遅いな。展望のない山頂では
休む気にもなれず先に進もう。この前後は奇麗な苔の生えた岩が多い。
悩ましい道標があった。パッと見ると此処がロックゲレンデのように
思えるが、どう考えても違う。単にコース名のよう。以降も度々現れ
るが、役目は終えているようなので撤去してしまった方が良いと思う。
金毘羅山が近づくと、道は岩場を大きく巻き上がる。戸寺からの道が
合流する四差路に案内図があった。これも読みづらくて分かりにくい。
寂光院から翠薫山間の道は載ってない。とにかく高い方向の道を選ぶ。
案内図からすぐピークがあるが、此処は山頂ではなさそう。三臺社と
いう神社があるが展望はない。南西に向け道が続いているので下って
行くと、岩がちになり多少展望が開ける。此処に不思議な物があった。
ハングルで「アモノミナカヌシオオカミ」と記されている。どうやら
天御中主大神の読みのようだ。二文字目が怪しいが、アメやアマとの
読みもあるのでどうかな。或いは메の縦棒が欠けているだけなのかも。
石柱ではなくコンクリートを固めた柱で、由緒のある物ではなかろう。
ただ此処が金毘羅山の頂上近くでは最も景色の良い所で、比叡山から
京都市街地にかけての眺望がある。鞍部を挟んで三角点のあるピーク。
三角点のある場所は朽ちた社の残骸があったりして、気持ちの良い所
では無かった。展望も皆無なので直ぐ往路を引き返す。案内図のある
四差路で女性三人組に山頂はどっちと聞かれた。それほど分かり難い。
少し下ると大原の集落が見える場所があった。京都市内とは思えない
静かで豊かな風景。案内図ではロックゲレンデはすぐ近くだったので、
東側の踏跡に入ってみるが岩場は有ったが、メインゲレンデではない。
さらに下るとロックゲレンデを示す道標がある。東南へ進む道を下る
が、やがて途切れてしまう。登り返すと大規模な倒木帯を横切るよう
に踏跡があり、ゲレンデの上に出る事が出来た。かなりのタイムロス。
展望は割に狭いが、水井山、横高山から比叡山にかけての眺めが良い。
六甲山の花崗岩とは岩の質が全く違う。大昔に一度だけ来た事がある。
此処が今日の一番の目的地だったが、時間が掛ったので直ぐに戻ろう。
道に迷った倒木帯の様子。本来は直進する道があるのだが乗り越えて
行くのは難しい。左手へトラバースして山道に出る。江分神社への道
に出て、どんどん下って行くが、大きな勘違いをしていて道を誤った。
ろくに下調べしてなかったので、江分(えぶみ)神社は江分峠にある
と思い込んでいたのだ。下る途中で峠への道があったはずだが、全然
気付かず神社を目指し降りてきた。これが相当な回り道となっている。
江分峠でようやく京都一周トレイルの標識と出会う。此処まで来ると
前後にハイカーの姿を見るようになる。峠からは車道に沿った林道を
下るが、静原に入ればまた車道脇を歩くようになる。交通量は少ない。
やがてトレイルは府道40号線から離れ静原の集落に入る。静原川に
掛る小橋から金毘羅山を望む。此処も標高200mを越えているので
小山にしか見えないが、その割には苦労した。山を甘く見過ぎている。
京都一周トレイルは静原の集落の中を抜けていく。此処もまた住宅に
統一感があり美しい。戸数も多いし小学校もあるけど商店はなさそう。
自動販売機も見なかったので、鞍馬まで食料や飲料の補給は出来ない。
静原神社のイチョウが見事だ。街路樹に植えられる事が多い木だけど
のびのび育てばキレイな紡錘形になるんだ。地形図だけ見て此の区間
はさして魅力的でないと思っていたが、なかなか見所の多い所だった。
静原集落の奥からは、幼稚園児と前後しながら薬王坂を目指す。散歩
しては相当険しい道だけど、しばらく元気で可愛い声が聞こえていた。
思いの外急な峠道で息も上がる。暗い植林帯なので雰囲気も良くない。
薬王(やっこう)坂は東海自然歩道にもなっている。峠は種々の道標
や案内板があり賑やかだ。それぞれの役目はあるのだろうが多すぎる。
此処までと違い峠から鞍馬に下る道は、深く掘れて古道の風格がある。
下り着いた鞍馬の八幡神社の紅葉が見事。本当は鞍馬から二ノ瀬まで
歩いて、さらに向山(426m)を越えて山幸橋まで行こうと思って
いた。だがもう疲れた。鞍馬から市原まで車道を歩いて終りにしよう。
鞍馬からも京都バスの便はあるのだけど、一日券の利用範囲ではない。
市原まで車道を歩いて行こう。土産物店の並ぶ鞍馬の町を下って行く
と鞍馬寺の立派な山門に驚いた。この付近は昨年の豪雨の被害が酷い。
この日も倒木を搬出するヘリコプターが飛び交っている。叡山電車の
市原・鞍馬間も運休したまま。いまだ保線工事中だった。広い範囲で
山が崩れていて復旧にはまだまだ時間が掛りそう。貴船口を通過する。
府道38号線は二ノ瀬トンネル(歩行禁止)を抜けていくが、二ノ瀬
の集落を下る旧道は交通量も少なく歩き易い。山村風景を眺めながら
歩いて行くと白龍園という庭園がある。向かいの茶店のモミジが見事。
叡山電車の市原・二ノ瀬間はさながらモミジのトンネル。例年ならば
この時期は徐行運転されるそうだ。機会があればぜひ乗ってみたいな。
市原に入ると雑多な住宅街となり、市原野小学校向いのバス停に着く。
貴船神社の紅葉がライトアップされるとかで、この時間も頻繁に臨時
バスが出発する。地下鉄国際会館駅行のバスも観光客で超満員だった。
これでは住民も学生も大変だろう。地下鉄で九条駅に向かい投宿する。
表題では京都一周トレイルとしているが、戸寺と江文神社間は歩いて
いない。緑のラインが本来予定していたコース。随分遠回りしている。
鞍馬・二ノ瀬間は交通量が多い為、電車バスの利用が推奨されている。