六日目の朝、やはりガスが垂れ込めている。だが雨は降ってないので
レンタサイクルで島を一周しよう。人の記憶って全くアテにならない
もの、この時二人とも利尻島を自転車で走った事はないと思っていた。
フェリーターミナルで旅行者用プレミアム商品券を買う。準備不足で
その存在を知らなかった。利尻富士町内の各種施設で使えたのに残念。
2000円で2500円分利用できる。自転車は1台一日1500円。
自転車は状態が悪と言われたがその通り、家族のは前ブレーキが効か
ず、ハムのはペダルが取れかかっていた。他に店もないので仕方ない。
応急措置をして貰ってたら8時30分。タイヤは悪くないのが救いだ。
港から温泉施設まで戻り、自転車道に入る。此処から左回りに走ろう。
一周55kmなので、ゆっくり観光しながらでも17時までに戻れる
だろう。正面に見えるのはスキー場で、宿泊しているキャンプ場の上。
緩やかな上り坂をしばらく走ると、全長193mの湾内大橋が現れる。
鴛泊の東側は段丘になっており幾筋かの深い渓谷がある。自転車道は
段丘の上にあって、渓谷を渡る橋がそのまま良き展望台となっている。
利尻山の六合目からもよく見えていたので、晴れていたら素晴らしい
展望に違いない。次に富士見休憩所。名前に反して樹林に囲まれ眺め
は得られそうにない。ここが自転車道の最高所という事であるらしい。
次に165mの富士見大橋。対岸も見えぬのに山が見えるはずもない。
此処からは緩い下りでさらに三つほど橋があった。車道と交差すれば、
姫沼まで600mの標識がある。一応観光名所なので寄っていこうか。
もちろん晴れていれば、此処から池越しに利尻山が見える。ちょうど
観光バスも来ていたので散策する人が多い。さして景色が変わる訳で
もないだろうが、一周800mと短いので我々も回ってみようと思う。
池の周囲は全てウッドデッキの上を歩くようになっている。これが気
持ち良くなかなか楽しめた。ところで駐輪する際、自転車に鍵がない
事に気づいた。ワイヤー錠を貸してくれるのが普通だと思うんだけど。
狭い島では盗難事件はないってことだろうか。姫沼から野塚展望台へ
はずっと下りが続く。対向車は来ない。カモメの糞に注意の看板があ
る。滑るからかな。そんなに見当たらない。鴛泊湾の向こうにペシ岬。
野塚展望台も曇っていれば車道脇の小公園にすぎない。すぐ出発する。
むしろ隣に立つ雲丹御殿という名のホテルが気になる。一泊3万円程
するらしい。野塚からは向かい風となったが、概ね平坦で走りやすい。
道路端に黄色い花が多い。家族はウサギギクだとか言っていたけども、
調べると、アラゲハンゴンソウ(粗毛反魂草)という帰化植物らしい。
花序が丸くなるノラニンジンが多いのは、北海道の他の地域と同じだ。
石崎灯台の手前に可愛らしい自販機とベンチがあったので休憩しよう。
周囲に敷かれているのはホタテの貝殻。野塚展望台からの12kmの
間には、他に良い休憩場所が無かったので、一つのベンチでも有難い。
石崎灯台は自由に基部まで行けるが、藪に囲まれて海は見えなかった。
此処から鬼脇の市街までは緩やかなアップダウンが続いた。家族が立
ち漕ぎしている。どうやらチェンジを上手く操作できなかったらしい。
意外に繁華な鬼脇の市街。利尻島にはかつて六つの村があり、鬼脇も
その一つだったらしい。今は鴛泊と合併し利尻富士町の一部となって
いる。道路両脇に土産用の利尻昆布や、和菓子を扱う立派な店がある。
沼浦展望台の看板を見て、脇道へ入っていくと駐車場のある展望所に
着いた。ややガスが上がって3合目ぐらいまで見えている。此処から
の景色が、北海道土産「白い恋人」のパッケージデザインなんだそう。
次にオタトマリ沼の園地に入る。やけにキレイなウッドデッキだなと
思ったら、平成30年に当時の天皇皇后両陛下が視察に来られたそう。
ハマナスソフト300円という幟を見て店に入るが、350円の請求。
これも離島あるあると諦める。沼浦から4kmばかり走ると利尻町内。
仙法志御崎公園の案内に従って脇道に入る。磯にプールが作ってあり、
ゴマフアザラシが一匹いる。餌やり用の魚のぶつ切りが一椀100円。
家族も買って与えてみたが、観光客が少ないせいか、がっついていた。
稚内の水族館から夏の間だけレンタルされているらしいが、本来は2
頭いるのだそう。1頭だけでは可哀そうな気がする。昭和な観光地だ。
仙法志の市街で郵便局を見つけ、家族がATMで千円おろしに行った。
ちょっと単調なサイクリングに飽きてきたのかもしれない。レンタル
の自転車では、慣れていないし走ること自体を楽しむまでもいかない。
仙法志から先は海岸沿いも平坦となり、風の助けもあってスピードが
上がる。山側は背の低い段丘で、北海道の海岸沿いなら何処にでもあ
りそうな風景。3年前の道南旅行を思い出したりしながら走って行く。
道路脇に湧水が汲める所があった。飲んでみると冷たくて利尻富士町
の甘露泉水に負けず劣らずの味。この施設も利尻町の対抗意識から作
られたように思う。人口6000人の島に二つの自治体は必要なのか。
利尻富士町にはフェリーターミナルと、利尻空港がある。どうみても
利尻町に分が悪いが、この先で人口2000人弱の町にしては、立派
な体育館と運動公園があったので、財政的にはかなり裕福と思われる。
利尻町の中心地、沓形の市街から突き出た沓形御崎公園に入ってきた。
ここにもキャンプ場があり、実は遠い昔に1泊しているのだが、全く
覚えていなかった。高台のベンチに座って非常食のオレオを食べきる。
利尻富士町に入る手前にはサッポロドラッグの店舗があった。内地の
ドラッグストア以上に豊富な品揃え。隣接する「えびす」という店は、
精肉や生魚がそれなりに有って利用価値大。道産豚肉を500g買う。
サツドラでは安い豚丼のタレがあって夕食メニュー決定。しかしまだ
利尻町内なので冒頭の商品券は使えない。周囲に何もない原野にある
のでセイコマより客が少ないのが気になる。少し走れば利尻富士町内。
やや交通量も増えて、車道を走るのにも飽きてきたころ、自転車道が
海側に伸びているので、これ幸いと入って行く。北海道らしい原野の
中で、のんびり気持ち良く走っていける。只それほど長くは続かない。
二度ばかり車道に戻って、又自転車道で海側に入ったりする。前方に
見える低い山がポン山(444m)。明日晴れていれば登ってみたい。
空港の近くでは、轟音と共に丘珠空港行きの日航機が飛ぶのが見えた。
富士野園地まで来ると、観光客が自転車で散策するのに出会う。宿泊
施設の大半で自転車の貸し出しを行っている。海側手前に見えるのが
夕日ヶ丘展望台、その向こうにペシ岬が見えている。終点に近づいた。
夕日ヶ丘展望台に寄ってみる。近くにユースホステル等の宿泊施設が
あって、散歩に来ている方が数組いる。ペシ岬と違って歩道が舗装さ
れているので歩きやすい。此処も数種類の山野草が花を咲かせていた。
今回の旅行で初めて見る花があった。エゾノヨモギギク(蝦夷の蓬菊)
というらしい。利尻・礼文の花の季節は6月7月だというが、8月も
終りに近いが意外に多くの花が見れて、悪天候の無聊を慰めてくれた。
時刻は15時50分。自転車の返却は17時までだが、間に合うはず。
標高56mだが360度の展望が得られて、その名の通り夕日の名所。
少し青空も見えてきて期待させられる。眼下に鴛泊市街を一望にする。
此処でこの日の写真は終わっている。16時18分にフェリーターミ
ナル前のレンタル店に自転車を返して利尻島一周完了。キャンプ場に
戻り温泉に入った後、残り少ないガスを気にし乍ら豚丼の夕食を作る。
冒頭でも書いたが、利尻島をサイクリングした記憶を二人とも完全に
失っていた。帰宅してから古い写真を見つけたが、それでも思い出し
たのは沓形でキャンプした時の事ぐらい。家族は昆布干しの様子だけ。
1993年7月1日2日。写真を見ると快晴のもと走っているのだが、
サイクリングした記憶は残っていない。北海道にしては短いコースで、
やや単調だったからかもしれない。或いは二人ともボケてきたのかな。