礼文島2日目、当初の計画では礼文岳に登り、その足で利尻島に戻る
つもりだったが、朝になっても小雨が降り続いているので計画を変更
する。島北端に設定された岬巡りコースを可能な範囲で歩いてみよう。
キャンプ場から道道40号線に出た所。6時42分にスコトン行きの
バスが来た。自由乗降区間なので手を挙げれば停車する。逆に停留所
にいても意思表示した方が良い。離島では2度ほど苦い思い出がある。
礼文高校で3名の生徒が下車すると、乗客は我々だけになる。浜中の
バス停には7時18分着。運賃は890円。帰りバスは11時57分。
船泊まで歩けば16時のバスもあるが、それでは温泉に行けなくなる。
浜中バス停に岬めぐりコースの道標とトイレが設置されている。その
道標が指すのは舗装された車道だった。観光パンフレットではトレイ
ルが地道か舗装路かは読み取れない。少々がっかりしつつ歩き始める。
宇遠内経由で香深井までの8時間コースの入口。このコース名は昔の
名残りで、かなり短くなって実質5時間程度だろう。1993年6月
末、小樽から稚内までサイクリングしてきた我々は、礼文島に渡った。
フェリーを降りてまず目に入ったのが、4時間と8時間コースの看板。
当時は脚力にも自信があったので、観光客の歩く道なら楽勝だと思い、
次の日、香深から桃岩を越え、猫岩~元地~地蔵岩~宇遠内と進んだ。
1時間で西上泊の集落が見えてきた。地蔵岩までは海岸沿いだったと
思うが、宇遠内へは断崖を何度も上下する難路ですっかり疲弊してし
まう。スコトン岬までも遠かった。どうにか最終バスに間に合ったが、
我々の経験の中でも、有数の過酷なハイクだったと記憶している。次に
渡った利尻島の記憶が欠落しているのも、礼文島での強烈な印象のせい
かも知れない。澄海岬の入り口には駐車場・トイレ・売店が一軒あった。
澄海岬の湾は、晴天なら透き通ったコバルトブルーだろう。この岬は
8時間コースから外れた所なので来たのは初めて。従前のコースから
ゴロタ岬とスコトン岬を分離して、岬めぐりコースとして整備された。
現在は地蔵岩~宇遠内間のトレイルが廃止され、昔の8時間コースを
歩く事はできない。にも関わらずその名前が残されているのは、19
60年代から70年代の旅行ブームの、名残かロマンという所だろう。
岬入口の売店で家族が、タコの一本焼きというのを買った。生タコの
足をその場で炭焼きしてくれる。味付けは塩と胡椒だけだが旨かった。
500円だが高く感じない。島に来てから冷凍の魚介しか見ていない。
浜中からの車道を少し戻ると神社がある。ここが鉄府を経てスコトン
岬への分岐だが、道標が車道沿いになく分り難い所。ペンキ塗り作業
が行われている神社を抜けて、東側の斜面へ心細い小道が続いている。
本当に此処で良いのかなと思うほどの道だ。此処まで歩いてきたのが
車道だったのでギャップが大きすぎる。我々が登っていくのを見てか、
単独の男性ハイカーも追って来られるが、間違いないのかと気になる。
道が細い分、山野草も身近に見れる。タカネナデシコだろう。この花
は群生はしないが、礼文島の各所で見られた。標高100m近くまで
上るとガスが巻いてきた。視界は数十メートルほどになってしまった。
何方に向かっているかも分からないが、尾根を乗り越しても細い道が
続いているので、鉄府まで続くと確信し得るようになった。花の名前
はウェブ上で見る似た花を選んでいるので、多分間違いもあるだろう。
昨日歩いた桃岩展望台コースでは枯れた花がほとんどだったが、此処
では今は盛りと咲いている花が多い。ガスって展望こそないが、段々
歩くのが楽しくなってきた。白い花はエゾノコギリソウというのかな。
覗き込んだり写真を撮ったりし乍ら進む。礼文島で花を見るなら桃岩
周辺は外せない所だが、此処は季節外れでも楽しめちょっとした穴場
じゃないだろうか。沈殿せずに小雨降る中を出てきて良かったと思う。
枯れたものも混じるがお花畑と言える斜面もあったりする。おそらく
希少種は少なくて注目されることもないのだろう。そもそも山野草に
興味のない我々にとっては、どちらにしても花は花で違いは分らない。
ガスっているので気づかなかったけど、険しい断崖の上を歩いている。
風が強くて波の音も聞こえていなかった。西上泊から鉄府まで距離は
僅か1.5kmなのに、コースタイムは60分。その理由が分かった。
道が緩やかに下り始めると、かっこよい岩峰の裾を進むようになった。
時刻は9時過ぎだが、この先ゴロタ岬まで進むと11時台のバスには
乗れそうもない。ガスも濃くなるばかり、鉄府で折り返そうと決める。
眼下に鉄府の港湾施設が見えて、道は九十九に斜面を下るようになる。
下り着いた所には、澄海岬を指す道標があった。我々はかつて8時間
コースを北上したが、スコトン方面から南下する人の方が多いのかも。
此処からはまた舗装路を歩いで浜中に戻る。この道を浜沿いに直進し
ていけばゴロタ浜や岬を経て、スコトン岬に至る。浜中への分岐には
トイレが設置してある。後ろから男性ハイカーが追い着いて来られた。
スコトン岬への道を尋ねらるが、宿で配られた簡単な略図しか持って
おられないので、方向が解りにくかったみたいだ。「それにしても花
がキレイでしたね。」と、いたく感激されている様子。我々も同感だ。
浜中からの車道に戻ってきた。少し先のレブンアツモリソウ群生地の
駐車場で、自動車に乗った地元の方に話しかけられる。しばらく天候
の話をしていたら、「乗んな」って言って頂く。渡りに船とはこの事。
山野草の話を伺い、朝はアザラシがいたという浜も見せて貰ったりし
て、久種湖畔のキャンプ場まで乗せて頂いた。利尻山とは違って礼文
島では人とよく話をする。湖畔を一周する約4kmのコースを歩こう。
草地の歩道は歩きやすかったが、湖との間には樹木や草が繁っていて
見晴らしは決して良くない。やっと湖面が見えるようになっても、こ
の天気では冴えない。植生にも見るべきものが無くて、やや退屈する。
木道が現れたので期待するが、湖水からは離れてしまった。この先で
駐車場に合流し、道道40号線に出てしまう。以降は車道脇の歩道を
歩く事になる。観光パンフでは読めなかった点で、少々がっかりする。
湖と名の付く中では日本の最北端らしい。一周するつもりだったけど、
車道を歩くのは嫌なので、途中で船泊の市街に逃げてしまう。利尻島
とは違って、昭和31年に香深村と船泊村が合併して以来、一島一町。
かつては村役場があったぐらいだから船泊は人家も多い。スコトン岬
カタカナ表記される事が多いのだが、道路標識は漢字表記されていた。
此処では漁協のストアーに寄ってみると、野菜や果物が結構な品揃え。
魚介はやはり冷凍物が中心だが、少しだけ鮮魚もある。猿払産ホタテ
と桃とブドウを購入。なぜか「ペヤング ソース焼きそば 超超超大盛 」
を、家族が食べてみたいと言い出す。夕食用に買ったが後で反省する。
買物を終えた後は居場所もないので、次のバス停までブラブラ歩いた。
自由乗降区間ではバス停の間隔がけっこう遠い。20分ほど歩いた後、
港でしばらくボーっとしていたらバスが来た。まだ時刻は12時7分。
バスが金田ノ岬を回り込んだ所で、前の座席のオバさん達が騒がしい。
海岸にアザラシが沢山いたからだ。カメラを取り出すのが遅れたけど、
数十頭はいたろう。海に浮かんでいる様に見えて岩礁に寝ているだけ。
緑ヶ丘キャンプ場に戻り延泊を申出ると、「それでは昼食を済ませて
から、自転車を貸しますので温泉に行って下さい。」とあっと言う間
に、午後の予定が決まった。猿払産のホタテを刺身にして昼食を摂る。
日によっては送迎バスがキャンプ場まで来るらしい。今日はその日で
ないので自転車を貸していただいたよう。香深まで20分との事だっ
たが、我々の足では30分掛った。立派な施設でゆっくり入浴できる。
昨日、桃岩のトレイルで話した地元の方と出会う。「今日も歩いてま
したね。」と言われる。どうも浜中辺りで車中から見掛けられたよう。
夕食は「ペヤング ソース焼きそば 超超超大盛」 その量には苦悶した。