前回の京都一泊山行が存外に楽しかった。何しろ毎日35度を超える
気温では、摩耶山や六甲山に入る気にならない。目先を変えて何処か
初めて歩く山に行こう。予約サイトで検索すると奈良の宿が安かった。
阪神と近鉄の相互乗り入れ以来、若草山を歩きたいと思ってはいたが、
運賃との兼ね合いから未だ行かず。でも一泊するなら採算が合うかも。
それだけでは時間が余るので、石切駅で途中下車して生駒山も歩こう。
今日も朝早く出て石切駅に着いたのは6時40分。素朴な駅から南側
の住宅街に出ると、なぜかスパイスの香りがする。朝日を浴びながら
辻子谷沿いの急な坂道を歩いていくと、復刻された大きな水車がある。
この辻子谷(ずしたに)はかつて44両もの水車があり、和漢薬種の
加工が行われていたという。現在も漢方の製薬工場が朝早くから稼働
していた。山の中腹にあり乍ら事業所が多いのはそんな訳だったのか。
住宅街を抜けても舗装された道が続く。濃密な薮の繁る植生で、真夏
に歩きたい所ではない。予想では摩耶山の上野道みいたいかなと思っ
ていたが全く雰囲気は違う。朝から暑さが厳しく何度も休み水を飲む。
谷の奥で舗装路が終わり、興法寺の参道となる。何やら立派なお寺の
ようだが、関心はないので門前を行き過ぎる。既に標高は400mを
越えているというのに、未だに土を踏んでいないのが気になっている。
舗装された生駒縦走コースを越えて、やっと地道に入る所で通行止め。
一旦南側の舗装路に入ったが、山上の遊園地へはかなり遠回りになり
そうなので、もう一度戻ってきた。大きな声で言えないがワープする。
8時35分。信貴生駒スカイライン沿いに遊園地の駐車場に到着する。
一時期存続が危ぶまれたが、幼児から低学年向けにリニューアルして
人気が復活したという遊園地。家族は子供のころに遠足で来たという。
入場無料の遊園地とはいえ、営業時間前には入れないだろうと思って
いたが、駐車場の西側にある階段を上がるとすんなり入場してしまう。
見れば我々と同じようなハイカーや毎朝登山らしき人がチラホラいる。
空は晴れているが湿気が多いせいか靄っている。ハルカスや六甲山も
見えるはずなのに同定できない。途中で朝食用のオニギリ弁当を済ま
せているが、園内にベンチが多数あるので、ここまで来ればよかった。
さて遊園地内にあるという頂上を探そう。高みに歩いていけば、ミニ
蒸気機関車の線路内に一等三角点があった。もちろん柵が有って中に
は入れない。ところで此の場所自体は奈良県生駒市に位置するらしい。
大阪府の山と思っていたが違うらしい。これがどんな意味を持つかと
いうと。国土地理院は山名(かな)を三角点のある自治体に聞き取っ
って決めるらしい。これについては言いたい事があるけど又にしよう。
営業中なら戦前から有るという飛行塔(500円)に乗ってもよいか
なと思っていたが、サイクルモノレール(400円)の方が景色を楽
しめそうだ。だが営業開始までには1時間もあるので諦めて下山する。
遊園地からは生駒ケーブルの線路に沿って宝山寺に下る。この道も又
やはり全面舗装されており、結局生駒山では一度も土の上を歩くこと
はなかった。底の柔らかいスニーカーを履いてきたのは良い選択かも。
宝山寺は名前さえ知らなかった寺院だが、立派さに少なからず驚いた。
その独特の屋根の形は、ネパールのバクタブルで見た古寺を思い出す。
因みに石柱や刻まれた奉納金額が。今まで見た事が無い位の高額揃い。
何故これほどの名刹を知らなかったんだろうか。大阪生まれの家族も
初めてと言う。参道を下っていくと昭和の雰囲気が色濃く残る旅館街。
町名もそのまま門前町という。石段に沿って料亭や旅館が並んでいる。
車も自由に入れぬ所で、ほとんどの店が営業されているのが不思議だ。
平日午前10時前で歩いている人もいない。宝山寺の標高は350m、
そこから標高180mまで石段の道が続く。生駒駅は更に40m下る。
下っていけば住宅街になるが、道には落ち葉一つない。歩いている内
に何だか張り詰めた緊張感を感じるようになった。実際は分からぬが、
他所から越して来たら住みにくそう。とか要らぬ事を考えてしまった。
10時15分、近鉄生駒駅に到着。初めて来る町は新鮮で、なんだか
外国の町のような気さえする。今日は次の予定があるのでそそくさと
駅に向かう。方向感覚を失って、奈良行き電車の進行方向が解らない。