千刈貯水池の奥に展望の良い小山があるのは、以前から知っていたが、
それだけで遠出したいとは思わなかった。それが暇にまかせネットで
検索すると、武田尾まで継続する記事が、沢山あって少々興味を持つ。
ただし全般に道標が有るような所ではない様で、ネット記事だけでは
上手く歩き通せるかは分らない。実際に行ってみるしかないと快晴の
日を選んで、阪急夙川から宝塚へ。JRに乗り換えて道場駅まで来た。
不動までは40年近く前に毎週通った道。今日もJRの車窓から勇壮
な姿を見る事が出来た。駅の様子はすっかり変わったが、駅前の商店
にある縁台ベンチは当時と同じものかも。よく帰りにビールを飲んだ。
不動から先は初めて歩く道だ。浄水場を右に進んで行くと貯水池前の
駐車場に着く。正門は閉じられている。てっきり場内を抜けるのだと
思っていたが、外側に歩道がある。羽束川の堤防沿いに歩いて行ける。
大正8年に建設されたという千刈堰堤は威風堂々と一見の価値はある。
但し流れ出る水は泡立ち、とても水道専用の貯水池とは思えない汚さ。
橋を渡り左岸を下流方向に、100mほど進んだ所に登山口があった。
小さな沢を石垣で覆った取水施設らしき所から、フェンス沿いに登る。
道ではないので本当に此処で良いのかって思うが、とりあえず入って
みよう。地理院地図は印刷してきたが、確かめる気にはならなかった。
他には高い山はないので、高みに向かって歩けば大岩岳に着くはずだ。
ネット記事も深読みはしていない。他の人の足跡をトレースするので
は面白くない。道は沢沿いを進むと、やがて尾根に向かうようになる。
尾根に乗ると千刈貯水池が見えた。不動も見えないかと背伸びしてみ
るが、それは無理なよう。此処だけ見るとそれほど大きな貯水池には
思えないが、布引貯水池に比べ、水の色にボリューム感が感じられる。
地理院地図には直に大岩岳に向う破線と、しばらく貯水池沿いに進み、
西寄りから頂上に向う破線が記してあったと思う。どうやら気づかな
い内に後者の道に入ったよう。道は上下しつつ小さな谷を二つ横切る。
トラバースしてきた道がやっと高みに向うようになる。背の低い落葉
樹と松が混じる灌木帯となり、光が溢れてすこぶる明るい。体感温度
もぐっと上がり汗も出る。摩耶山とは全く違う雰囲気は好ましく思う。
分岐があった。古い私製道標が有り「大岩岳は右」と薄っすら読める。
左も良い道が続いている。地理院地図に記されている池畔へ下る道で
はなかろうか。振り返ると貯水池が見えていた。左側に展望を求める。
それほどスッキリ見える所はなさそう。ダム湖というと険しい山に囲
まれている印象だが、千刈貯水池の周囲は平たい段丘で水面との比高
は数十メートル。いったん大雨が降れば溢れてしまう様な気さえする。
先程の分岐に戻って一登りすると、大岩岳らしきピークが見えてきた。
何しろ道場駅で既に標高は146mある。頂上まで僅か220mしか
比高差はない。もう着く頃だと思いつつ息が切れているのは運動不足。
摩耶山系ほど密生していないが、コバノミツバツツジも自生している。
開花状況は2割程度か。一週間後に来れば桜とツツジ両方楽しめそう。
此の山域の特徴は色目の違うツツジが、そこここに咲いている事かな。
遠くに東西に長い六甲山を望む展望地まで来た。こんな角度で眺める
のは初めてかも。湖らしきが見えるのは川下川ダムだろうか。新名神
高速道路の橋梁も見えている。この後に歩くはずだけど確かではない。
息を切らせてピークに着いたら何の標識もない。どうも前衛峰らしく
東側に僅かに高いピークが見える。あちらが大岩岳だろうか。家族は
「残念でした」とか「まだですよ」て標識があっても良いと言ってる。
まあ救いは両ピークの鞍部が浅い事。ジリジリ炙られるような日差し
で、夏には歩きたくないと思う。秋にはマツタケ山の制限、冬は狩猟
解禁となるので、此の山域を自由に歩けるのは春先だけかもしれない。
鞍部からの登り返しは照葉樹林帯。日差しが遮られて、ひんやりする。
道沿いの表土が削られ岩盤が露出しかけている。この山に大きな木が
生えていないのは、山全体が岩で土砂の層が、とても薄いからだろう。
道場駅から2時間も掛かって大岩岳の頂上到着。開放的で明るい山頂。
私製の標識が三つ有るが、大岩ガ岳・大岩ヶ岳・大岩岳と表記が違う。
地理院地図は大岩岳。まあ何れも「オオイワガタケ」と読むのだろう。
北側の展望が素晴らしい。細長い千刈貯水池が大河のようにも見える。
羽束山の裾野に田畑や集落が点在し、絵の様な牧歌的な風景が広がる。
朝食も摂らずに出てきたので、ここで一回目の食事(オニギリ)休憩。
さて頂上から東側と南側に道が下っていた。地図を確かめる事もせず、
よく踏まれているという理由だけで、南側へ向かう道に入って行った。
先ほど川下川ダムが南側に見えたからだろうか、その辺りはごく適当。
谷間まで下ると公設道標が有った。丸山湿原との表記もあるが千刈へ
戻るような気がする。谷の上流方向に大岩ヶ岳と指してあるのも合点
がいかない。此処で初めて地理院地図を確かめ、間違った事に気づく。
軌道修正する為に明るい谷を上流方向に進む。千刈ダムから此処まで
公設道標なんて一つもなかったのに、突然現れたのはどうしてだろう。
つまり道標の起点は何処なのか。地理院地図を眺めても全く判らない。
5分も歩けば峠状の所に行き着いた。この道が頂上から東側へ下る道
だったんだろう。右へ行けば丸山湿原となっているのでたぶん大丈夫。
進んでいくとまた分岐があった。丸山湿原へ下る道と東大岩岳への道。
東大岩岳は飛ばしても良いかなって思ってたが、それほどの登りでも
なさそうなので寄ってみる事にする。僅かな登りで巨岩に突き当たる。
家族が左へ回り込むが道は無さそう。右の道を回り込めば東大岩頂上。
狭い頂上からの景色は悪くはないんだが、大岩岳に比べるとやや劣る。
羽束山の姿さえ大岩岳からの方が良かった。眼下に馬の背と呼ばれる
露岩帯があるが、丸山湿原とは別方向なので、立ち寄る気は起らない。
西側に大岩岳を望む。彼我の標高差は20m程。もちろん主峰はあち
らだが、大岩岳という名前の由来は、もしかすると此方かも知れない。
大岩があるという点は東大岩岳に軍配が上がる。寄ってみて良かった。
東大岩岳からは尾根伝いに丸山湿原に下れるらしい。地理院地図には
記されていないが、よく踏まれた道が東側に続いている。少し進むと
大きな岩の上に出て、丸山から川下川ダム方面の眺めが一気に広がる。
やはり松と落葉樹の灌木帯が続く。家族がふと「この山には植林帯と
高圧鉄塔が無い。」と呟く。そう言えばそう。水源地として保全され
てるのかも知れないし、岩がちな地層が植林に向かないだけなのかも。
尾根を下った所に車道が入って来ていた。終点は駐車場となっていて
立派な看板まである。丸山湿原は今回初めて知ったが、兵庫県一の湧
水湿原とあるので有名なのかな。剣谷湿原みたいに秘密ではないよう。
道標に従って分水嶺越しに向かう。なるほど大岩岳で見た公設道標は
駐車場を起点とした散策コースに設けられていたよう。ネット情報で
は、丸山湿原を抜けて行けば、川下川ダムに出ることが出来るらしい。
分水嶺を越えると木道があり湿原らしくなる。まだ冬枯れの様子で見
るべきものは無さそうだ。夏季にはサギ草などが花を咲かせるらしい。
野草に興味はないが、山中にポッカリ空いた空間はそれなりに印象的。
丸山湿原の周回路には西回りと東回りのコースがある。少し迷ったが
直線的で短いように思われた東回りコースに入る。中央に観察用のデ
ッキが設けられている。写真は振り返ったもので、右側を歩いて来た。
湿原の末端に到着。期待通りに川下川ダムを示す道標が有った。岩場
あり通行注意というのが少し気になるが、進むべき道は間違ってない。
立派な散策路は、岩がちな斜面の細い道となり、岩場の細尾根となる。
細尾根の先端に立つ。この先は切れ落ちている。斜面にコブシかタム
シバの花がポツポツと白く見えている。少し戻り急傾斜の岩場を下る。
階段状だが左足のバランスに問題がある家族は、時間が掛かっている。
河原に下り着く。上流に向かって関電の巡視路があるが、どう考えて
も下流に向かうべきだろう。ところが道は踏跡というほど細くなって
心細いかぎりだ。それでも何となく続いているので左岸を歩いて行く。
一瞬どうなるのかって思ったけど、意外に短い距離で車道に飛び出た。
此の道を下って行けば川下川ダムに出るのだろう。土地勘が全くない
ので、大雑把にも自分が、何処ら辺りにいるのか分らずに歩いている。
というのも丸山湿原から川下川ダムが見えてくるまで、スマホ電波を
受信出来なかった。あらかじめ地理院地図をダウンロードしておけば
GPSで現在位置を知る事が出来るのだが、毎回忘れてしまっている。
ダム湖周囲の道って、グネグネと曲がって必要以上に歩くことが多い。
だが、此処では割とスッキリしていた。存外に短い時間でダムに着く。
そのまま下って行けば、新名神高速道路の高架橋をくぐるようになる。
これが迫力の土木工事で圧倒される。右の橋脚は崩れ易そうな岩山に
立っている。左の橋脚はロックフィル式の川下川ダムが決壊すれば直
撃を受ける。それぞれ特殊な工法が用いられているんだろうかと思う。
更に進むと車道は武庫川本流に突き当たり、左に曲がって行く。その
まま歩いて行けば道場に戻る。ガードレールを越えて右下に下る踏跡
があった。JR福知山線の線路を間近に見つつ、土手を下って行ける。
記事が長くなったので、此処までの地図を張り付けておこう。緩やか
な丘陵なので、地形図で見るより時間も掛かっていないし、疲れても
いない。道場駅7時40分、大岩岳9時40分、武庫川12時30分。
福知山線の高架をくぐり武庫川の河原に出る。此処から武田尾までが
ネットで調べても、様子が特に分かり難かった箇所。水量によって難
易度やコースが変わるようだし、河原から道に出るまでの距離が不明。
とにかく水量は少なそうだから難しくはないだろう。家族はネット記事
を読んで、相当長い距離をへつるように思ったらしく、沈した時の為に
ズボンを含めた着替え一式を持ってきたという。しばらくは河原の歩き。
どうやら道に出るまで二箇所の難所があるらしい。最初の岩壁は水量が
少ないので飛び石伝いに容易にクリアできた。水量が多いと左岸をへつ
って回り込まねばならないのかな。とすれば難易度はかなり上がりそう。
すぐ二つ目の難所が見えてきた。川に突き出たピナクル。観察すると
三つのコースがあるようだ。山腹との際の鞍状の部分にロープが多数
設置されている。水量が多い場合は此方を利用することになりそうだ。
だが今日は水量が少ないので、ピナクルの裾を容易にへつる。残置ロ
ープがぶら下がっているが、これは一段上のバンドを通る為のものか。
やけに長いと思ったら、下流側が垂壁で完全にぶら下がることになる。
ピナクルを越えるとすぐに上方へ向かう踏跡がある。上がってみると
廃道化した林道に出た。実際に河原を歩いた距離は200m程だろう
か。少々あっけない結末だが、予定通りに歩き通せるならそれは良い。
武庫川の瀬音が大きく聞こえる。道は細くなったり、崩れている所も
あるが通行には問題ない。残置ロープや補修された所もある。こんな
ルートが有るとは全く知らなかったが、相当の人が歩いているようだ。
やがて前方にはガードレールが見え、それを越すと広い林道となった。
此処も旧福知山線の廃線跡かと思ったりするが違うみたい。何の為の
道なのか分からずじまい。道場まで通じていれば、有用であろうけど。
福知山線のトンネルが途切れる所へ来た。この付近で対岸に細尾根が
せり出し武庫川は大きく蛇行する。高知県の仁淀川みたいな雰囲気だ。
近場にこんな所が有ると思わず。地味な林道歩きだけど結構楽しめる。
瀟洒な宿泊施設を左上に見て進むと駐車場。一角には足湯施設がある。
昭和40年製のマツダ・キャロルに乗って来られた方がいて、足湯に
浸かりながら色々お話を伺った。子供の頃よく見かけた車で懐かしい。
対岸の元湯へ渡る歩道橋の手前。この日の武庫川沿いではこの一本が
一番早く咲いていた。左岸のトンネルを一つ抜けて、しばらくでJR
武田尾駅が見えてきた。駅から下流方向は人の姿がやけに多く見える。
駅の規模からすると、今日は週末だったかと思うほどの人出。皆さん
桜がお目当てのよう。武田尾には過去一度来たことがある。とはいえ
それは32年前なので記憶は朧げだが、駅周囲の様子は激変している。
駅から下流側には民家が並んでいたと思うが、現在は大規模な駐車場
となっている。もっぱら月極だが一時利用もできるよう。廃線跡入り
口前には、小ぎれいな飲食店があって、けっこう賑わっていたりする。
時刻は14時。巨大な護岸堤防の階段に腰かけて、本日2度目の食事
休憩にする。メニューは打出「レミュー」のブールに、家族の作った
ポークビーンズ。本当はバゲットを買いたかったけど売り切れていた。
人間の記憶ってあてにならないものだ。この時は二人とも32年前も
廃線跡を普通に歩いたと思っていた。しかし家に帰って写真を探すと、
西宮の自宅から自転車に乗ってきて、廃線跡もずっと押し歩いている。
当時乗っていた自転車は9kg程度だったから、枕木の道もさほどに
苦労しなかったのだろう。武田尾から周回して宝塚高原ゴルフ場横の
桜が素晴らしく綺麗だったことだけ覚えている。今回来る当たっては、
改めて調べるということはしなかった。ハムはトンネルは短く薄暗い
程度だと記憶していたが、家族が真っ暗で怖かったと言うのでヘッド
ランプを持ってきた。最初の内は確かに出口が見えて普通に歩けたが、
桜の園の入り口を過ぎると、トンネルが長くなり、かつカーブしてる
ので真っ暗になった。危険な所は無いがライトはあったほうが良いな。
宝塚側から歩いてくる人もまだまだ多い。春休みで学生グループとか
子供連れ、外国人も数組。幼稚園児が10人ほど母親に引率され元気
に歩いて行く。左岸を歩き始めたのが、知らぬ間に右岸を歩いている。
この辺りから対岸の山腹には岩場が現れてきて、なか々に険しくなる。
さして面白かったという記憶はなかったが、改めて歩いてみると見所
も多く、季節を選べば楽しめよう。また来ても良いと思った。武田尾
から約1時間、木之元地区で河川敷を離れて、国道176号線に出る。
木之元のバス停からバスに乗る選択もあったが、何となく歩き続ける。
有馬への分岐から先は、蓬莱峡の帰りに何度も歩いている。当時から
狭く交通量が多かった嫌な道。現在176号線は大規模な拡張工事中。
16時30分宝塚駅到着。40年程前のこと、JR駅の近くに珉珉が
あり、蓬莱峡で岩トレ後は必ず立ち寄った。当時は所属も違った家族
も同じ記憶がある。その店が有ればと思ったがすっかり変わっていた。
紅葉館の足湯に到着したのが13時15分なので、川下川ダムからは
約1時間。昼食休憩して14時22分に廃線跡入り口をスタートして、
木之元には15時40分着。阪急宝塚駅へは16時30分に到着した。
交通費は阪急夙川駅から宝塚駅が230円。JR宝塚駅から道場駅は
240円。摩耶山方面に行って市バス(220円)に乗車することを
思えば意外に安く近かった。本日の歩数は、52914歩とまずまず。