まだ暗い5時半に瓦町の宿を出て、JR高松駅に向う。6時12分発
琴平行きに乗車して多度津で、伊予西条行きに乗り換える。朝食には
うどんを食べたいと思うが、予定していたコース上の店は開店が遅い。
観音寺駅からスタートのつもりだったけど、逆のコースに変更しよう。
急遽一つ手前の本山駅で下車する。無人駅だが大正2年の開業である。
山陽本線の摂津本山駅は昭和9年の開業なので、本山駅としては本家。
この駅舎にも以前は、うどん屋さんがあったらしい。その後パン屋が
営業していたようだが、今はテナント募集の貼紙がある。食料を全く
持っていないが買うお店も無い。標高400mだし大丈夫と歩き出す。
不動滝の道標に従って、瓦屋根が立派な豊中町の住宅街を抜けて行く。
八幡神社経由なら1.5km。車道なら900mという不可解な道標。
それでも神社に寄ってみたい。タマネギの種子会社が4億円寄付して
改築されたという鳩八幡神社。新しくとても立派だが境内を抜けると
いう不動滝の道は不案内。相当遠回りになりそうなので先の車道まで
戻る事にした。不動滝一帯はパットゴルフ場もある公園となっている。
落差50mというフレコミの不動滝だが、渇水期で岩肌を濡らす程度。
高さも30m位にしか見えない。遊歩道で右岸を巻き上ると、上方に
車道が見えた。ガイド本に寄れば、稲積山頂上まで通じているらしい。
遊歩道と車道との合流点にベンチがあった。霞の掛った三豊市の沃野。
野焼きの煙も幾つか見える。右手の山はロープウェイのある雲辺寺山
(927m)。ということは山の向うはもう阿波池田という事になる。
道標によると、鳩八幡神社からの道は此処まで直接上がってくるよう。
進む方向は七宝山となっているが、山域全体の呼称で何処が頂上かは
判然としない。しばらくで稜線を辿る山道もあるが展望は車道が勝る。
そのまま舗装路を歩いていると、商用車が停まり乗って行かないかと、
言って頂く。謝辞するが最近の日本では稀なこと。お遍路さんを接待
する文化のある香川県ならではかも。上るにつれ東側の視界が広がる。
香川県らしく農業用のため池が沢山ある。立派な瓦屋根の家屋ばかり。
山歩きをしていると、結果的に日本のいろんな田舎を見て廻るのだが、
此方は特に豊かな印象を受けた。中学校の社会科の授業では習わない。
さらに進むと北東の眺めが良い。右端に屹立しているのが、どうやら
昨日歩いた我拝師山のよう。左側に見えているのが塩飽諸島だろうか。
此処からは主稜線もほど近い。このところ車道歩きばかりしているな。
高屋神社手前の三差路で、車道を離れて山道に入る。といっても既に
頂上の一角のような緩やかな道。さて目的の稲積山は左手下方にある。
ただ頂上一帯は神社の境内なので、少しは山歩きらしい所に寄りたい。
すぐに四ツ尾という地点に着いた。北側が抜けており荘内半島沿いの
島嶼が見える。一番高いのが紫雲出山だろうか。標高は352mだが
頂上一帯が桜の名所だと云うので、花期に訪れてみたいと思っている。
壊れかけたベンチに腰掛けて、テルモスの温かいお茶で小休止しよう。
空腹だが食料はない。こんなことなら少し遅くなっても、高松駅前で
うどんを食べて来るんだった。七宝山を指す道標に従って北側へ進む。
すぐに上之山という標識のあるピークに着く。ガイド本では高野山と
紹介されている。此処には一等三角点がある。標高は444mあって
今日の最高所。因みに点名が高野山だが、山名と一致しない事が多い。
頂上にある貯水槽は山火事対策だろうか。先の四ツ尾に戻って稲積山
を指す標識に従って下って行く。ごく狭い範囲に名前の付いたピーク
が幾つもあって混乱する。それに何れもドングリの背比べなのである。
たぶん西の観音寺市内からは稲積山しか見えず、東の三豊市内からは
上之山を含む七宝山系しか見えないのだろう。背の低い照葉樹の森に
一直線の道が付いている。緩やかに下って行くと、高屋神社の駐車場。
駐車場奥の車止めから舗装路を登る。車も数台停まっていて三々五々
参詣を終えた人が下って来る。舗装路は本殿の一段下に着くが、数組
の方がカメラを構えていらした。皆さんのお目当てはこの鳥居の景色。
2017年にインスタ等で「天空の鳥居」ハッシュタグによる投稿が
相次いで突如名所になったという。ハムもその尻馬に乗って来た訳だ。
雲が流れ陽が差したり陰ったり。皆さん光線待ちをしておられるよう。
鳥居は見ても参拝しない人が多いのか、こんな看板が立てられている。
金運パワースポットというのは魅力的。我々も本殿を参拝して行こう。
山頂標識は見当たらないが、地形図では本殿前に標高点が打ってある。
天空というのは大袈裟かとも思うが、空と海が一体となる景色は広い。
2009年車道が開通したのに伴い、再建された鳥居は比較的新しい。
四組の寄進者の名が刻まれている。名所になって御利益も有ったろう。
我々が来た時にいた人達はまだ居られる。確かに見飽きない景色だが、
思ったような光線が得られないんだろう。北はスッキリ晴れているが、
南から雲が流れて太陽は隠れている。我々はもうそろそろお暇しよう。
鳥居から急な石段が下っている。まるで麓まで続くかのように見える。
一瞬オアフ島のレールロード・トレイルを思い出す急傾斜。この石段
も天空のと呼ばれている。麓まで続いてれば世界的な名所になりそう。
ところで此の石段ややズレて来ており、危険という程ではないものの
グラグラしている。麓から上ってきた女性が、登りは良いけど下りが
怖いと心配されている。結界まで下り振り返ると座り込んでおられた。
登って来られたのだから全然大丈夫だと思うが。此処で石段は終わる。
どれほど昔に造られたものなのか。当時の観音寺の経済力を示す物に
他ならない。想像する以上に瀬戸内の海運は富をもたらしたのだろう。
石段が終わると北東へ緩やかな樹林の道が続く。一直線に駆け降りる
のか思っていたが違うらしい。それでも暫らくすると展望が広くなり、
急斜面を九十九に下って行く。三角錐の江甫草山が常に印象的である。
山頂から30分程で、高屋神社下宮の裏まで下って来た。見えている
のは前衛峰に過ぎないが岩壁の柱状節理が際立っている。稲積という
名前はそんな処から付いたのかも知れない。下宮の境内を抜けて行く。
テレビアニメの舞台になったらしく、派手な外観の自動販売機がある。
他には特に目を引くものも無い高屋神社下宮だったが、鳥居を抜けて
振り返ると真後ろに、上宮の鳥居が見えていた。見事な直線の構図だ。
次の目標は琴弾公園なのだが、まず昼食にうどんを食べたい。時刻は
12時を過ぎており大分お腹も減った。高屋神社下宮から3km程も
歩くと八幡町にあるお店に着く。外観以上に店内は時代を感じさせる。
昔の看板が店内に飾ってあるが、電話番号が2番というのだから相当
歴史のある店。こちらはセルフ店ではなく一般店。ハムはざるうどん。
家族は釜揚げうどんを注文する。次の予定もあり何れも小にしておく。
ざるうどんはすぐ出てきたが、それを食べ終わる頃になっても釜揚げ
が出てこない。という事は釜揚げに関しては注文を受けてから茹でて
おられるんだろう。つまり一押しメニュー。確かに麺はざるより旨い。
とりあえずお腹が落ち着いた所で、更に1kmばかり歩いて琴弾公園。
標高58mの琴弾山にある銭形展望台を目指す。もう記憶は曖昧だが
大川橋蔵主演「銭形平次」のタイトルバックで、毎回見ていたと思う。
展望台からちょうど円形に見えるよう、縦長の楕円形に作られている。
周長345mという。ずっと見てみたいと思ってたけど、いざ実物を
前にしても感慨はなかった。昨日重機を入れて整えましたって感じだ。
むしろ背後の琴弾八幡宮に「史跡・弓張月」という石碑が有るのに興味
を引かれた。滝沢馬琴のフィクション椿説弓張月の舞台となっただけで
史跡なんかではないが、現代におけるアニメの聖地巡りと同じような趣。
八幡宮からは381段の立派な石段を下って、財田川に架かる橋を渡る。
さっきの一食でさほど空腹ではないが、もう一軒寄って行こう。此方も
一般店。裏に大きな製麺工場があり、通信販売にも力を入れておられる。
讃岐うどんにしては細く柔らかい。観光客としてはやや期待外れな食感。
だが次々と地元客の来店が有るので、繁盛店なのは間違いない。一口に
讃岐うどんと云っても、色んな種類があり好まれているのだと理解する。
JR観音寺駅では、うどんのスナック菓子を買って普通列車に乗車する。
チューハイを飲んだら食欲が復活してきたので、坂出駅で途中下車する。
観光案内所で地図を貰ったら、今の時間で開いてるのは一軒だけとの事。
教えられたのが駅から徒歩10分ほどのセルフ店。広くて席数は多いが、
16時なので閑散としていた。平日14時から17時までは、かけ小が
150円。天ぷら全品100円というので、ハムはそれを頂く事にした。
出汁を自分で入れるんだが少なすぎた。後で追加しに行く。反対にネギ
や天かすを入れ過ぎてしまう。本当にうどん好きな人には非難されよう。
二日間で5軒回ったが、どのお店の麺もそれぞれ違いがあって楽しめた。
坂出駅16時54分発マリンライナー岡山行きに乗車する。瀬戸大橋の
上から沈む夕日を見れた。自宅に着いたのは21時と早く疲れも少ない。
低山しかない香川県だが、交通費が何とかなれば又行ってみたいと思う。
今日の食費
かじまやうどん
釜揚げうどん小350円、ざるうどん小350円
柳川製麺所
ざるうどん小390円、ゆだめうどん中370円
いきいきうどん
かけうどん小150円、エビのかき揚げ100円
冷しうどん小350円、、ゲソてん100円