ずいぶん以前だが図書館で、「六甲岩めぐりハイキング」という本を
見かけて借りた。その中で一箇所だけ知らない岩場が紹介されていた。
紅葉も期待できる季節となったので、晴天の日を選んで行ってみよう。
朝方に西宮での用事を済ませ家を出たのは10時過ぎ。夙川から阪急
電車(190円)で仁川駅下車。時刻はすでに11時。車掌のアナウ
ンスで気づいたんだけど、仁川の発音はニカワではなくニガワだった。
駅からは仁川左岸道を歩いて行く。とすると40年以上間違えた発音
をしていた事になるが、一度も誰かに指摘される事はなかった。家族
もニカワと思っていたそうだ。因みに人名の場合はほぼニカワだそう。
瀟洒な住宅街が続くが歩道はない。住みたくない街。さて今日の目的、
ロックヒルへは北山貯水池からのコースが紹介されている。だが北山
辺りは何度も歩いているので、仁川渓谷から行ってみようと計画した。
百合野橋で右岸に渡って、護岸の上を上流に進む。仁川渓谷には岩を
始めた頃に二度来ている。しかしゲレンデとしては規模が小さく、又
各岩壁が離れているので、グループでの岩トレには向いていなかった。
百合野橋付近の護岸は全てコンクリの疑似岩で出来ている。ガイド本
のコピーは持って来たが、ロクに読んでいない。添付のかわいいイラ
ストマップを見て、歩き易い道があるのではと勝手に思い込んでいる。
40年前に来た時の事は余り覚えていない。ただゲレンデ間の移動で
苦労した記憶もない。ところが道らしい道はない。いきなり靴を濡ら
すような展開になると思ってなかった。コピーを読み直すべきだった。
飛び石伝いに左岸に渡る。仁川の河原の石は、頭が丸くて滑りやすい。
ムーンライトと呼ばれる岩の裾を回って上流へ進む。ガイド本は岩を
見る事を目的にしているのだが、その点には余り興味を持っていない。
コースから外れ岩場を見に行く案内もあるが、それらは全てパスして
先へ進もう。既に正午を過ぎているので、寄り道している余裕もない。
再び右岸へ渡渉し、へつって行くと傾斜の緩い岩場が張り出している。
大きな淵があった。奥に石積みの小堰堤が見える。水質はかなり悪い
ようで泡だってる。それでも夏には遊びに来る人が多いのか、無数の
ゴミが散乱している。此処で飛び込んだり、泳いだりするのだろうか。
傾斜の緩いバンドに沿って踏跡が有るので巻き上って行く。この付近
の酷い様子は、ハイカーが好んで訪れる場所でない事を物語っている。
踏跡は思ったより高い所まで上がった後、上流へトラバースして行く。
イラストマップに鎖場と記されていた場所。通過する岩場が外傾して
いるが、フリクションは効く。擦り切れたトラロープ。古びた支点等、
いつまで持つかは分からない。左足に問題のある家族は苦労していた。
家族は、こんな怖い所に連れてきやがってと怒っている。思い込みの
強いハムは鎖場という言葉から、勝手に整備された道を想像していた。
対岸の岩場を望むが、その頂上には昭和な雰囲気の住宅が見えている。
更に進むと大岩が点在する展望の良い場所に出た。六甲山の山並みも
遠望できる。深い渓谷と対岸の平坦さが不思議なコントラストだ。こ
んな所が身近にあるのかというのが正直な感想。紅茶を飲んで小休止。
後でガイド本の記事を読むと、先ほどの展望所辺りが河原への下降点
だった。それを見過ごして上流へ向かう踏跡を追って行く。ところが
この道も行き止まり。少し戻って適当な所から、河原下る踏跡に入る。
下るにつれ踏跡は怪しくなるが下方に何か見えた。それが大井滝堰堤
と思いきや水道管。右岸は断崖になっていて河原に下る事は出来ない。
対岸に柵があるが強引に渡ってしまう。良い人は真似しないで下さい。
渡った左岸には、手すり付きの階段道があり、上がった所がどうやら
バットレスと呼ばれる岩場の頂部。新しいハンガーボルトがベタ打ち
されているので、この岩場はゲレンデとして今も利用されているよう。
幅の広い歩道が上流に向かう。甲山が意外にも秀麗な姿を見せていた。
此の後は難しい所はないはずだ。時刻は13時。百合野橋から渓谷の
通過に一時間も掛っている。ごく短い区間だが密度の濃い歩行だった。
笹薮を抜けると広く平坦な場所に出る。その名の通り広河原。今まで
狭い渓谷の中にいたので、この開放感とのギャップが大きく、別世界
に飛び出たようにも思える。整備されたら面白いコースになるだろう。
そう云えば此処で行われた納山祭に参加した事がある。その時も岩ト
レ後の流れでの参加だったから、同じ道を歩いてきたはず。おぼろげ
な記憶では入口近くに東屋があったが、その東屋は今も現存していた。
ちょうど時刻も良いので昼食休憩にしよう。昼ご飯は巷の噂で評判の
パクチーラーメン。一袋を二人で分け合う。乾燥パクチーが沢山入っ
ているが、スープにも香りがついている。まずまずおいしく食べれた。
昼食後は車道を歩き甲山橋へ。後で地理院地図を見ると此処から左岸
沿いに破線路が記されてあった。そのことは知らずに甲山北側の裾を
北山貯水池まで続く歩道に入ろうとする。渡った所に営業中の喫茶店。
甲山橋バス停手前で西側に入る近道があった。上がってみると広い歩
道に出る。西宮市立甲山自然の家の敷地内を通って行くよう。大きな
常設テントが並んでいる。教育キャンプ場というお固い雰囲気の施設。
歩いていると右に低いピークが見えてくる。きっとあの辺りだろうと
思われる。仁川河原という曖昧な公設道標があった。試しに河原まで
降りてみるが小堰堤があり、対岸に渡るのは容易そうでなく引き返す。
北山貯水池への道をさらに進むと、また仁川河原という標識があった。
そこを入ってみると梯子型の中途半端な橋があり、対岸にも道が見え
たので此処で渡ることにする。岩が丸いので滑って靴の中まで濡らす。
よく踏まれた道が下流へ続いている。上流側にも続くが少々藪っぽい。
下流へ歩いて行くと、山側に分岐が幾つかあったが、確信が持てず相
当先まで進む。行き過ぎたと思えたので、戻って一番太い分岐を辿る。
しっかりした道が続く。西側から道が合流する所で南側が抜けている。
甲山が大きく見える。ガイド本によると此の付近は仁川ピクニックセ
ンターがあった頃のハイキングコースだったそうで、縦横に道がある。
良く踏まれているだけではなくて、最近に丁寧な草刈りもされている。
フェンスの際を歩くようになるが。これは北側のゴルフ場と境界かも
知れない。稜線上を緩やかなアップダウンが続く。だがピークはない。
風化した砂礫地まで来た。ピークではないが宝塚や大阪平野、それに
六甲山系も望める。この先は下り一方の様。周囲を見回すと南西方向
に高い所がある。元の道を戻ると明確な分岐がそちらに向かっていた。
稜線の道を進むと巨岩が積み重なる所に突き当たった。恐らくこれが
ロックヒルと呼ばれるピークの一端だろう。行き着けないかもと思っ
ていたのでホッとする。岩の間を縫うように歩いて行くと空が抜けた。
展望が大きく広がる。左側手前が小天狗山。右側には社家郷山の山塊。
両者の奥には太平山の電波塔。足元の平地は西宮カントリー倶楽部の
ゴルフコースのはずだが、樹林が多くて芝地が見えないのが好ましい。
南側には甲山。でも此処よりも高い岩が見える。あそこにも行きたい。
岩の狭い隙間を通る為にザックを降ろし、直線的に行こうとして深い
シダ藪で藻掻いていると、家族がザック二つ持って頭上を歩いている。
何のことはない。東寄りに草刈りされた良い道があり、付近の最高所
と思しき巨岩の下に至る。やはり積み重なる巨岩の隙間を縫うように
登って行くと容易に頂部に立てた。風化して丸いがフリクション良好。
東南に大阪平野が広い。肉眼では茨木や梅田の高層ビル。それに天王
寺のハルカスも良く見ている。足元に見えるのが、五ヶ池(ごかいけ)
と阪急仁川テニスクラブ。その右手が仁川渓谷はずだが判然としない。
北東には行者山。その左奥に譲葉山。逆瀬川沿いのマンションが異様
なほどの長大さ。右手には宝塚市街。ところでガイド本には三つの巨
岩と記されているが、実際は巨岩群という感じ。此処は中央の巨岩群。
大昔には一つの岩だったものが、風化して幾つにも割れている感じだ。
展望を満喫した後は一旦岩場を下って、南側への道を進む。もう一つ
巨岩群があり南西の眺めが良い。ただ平たいのでインパクトに欠ける。
後は道なりに進んで行くよりない。よく草刈りされた道が続いている。
網の目というのは過言ではなく幾つも分岐がある。上って来た道より
東側を下っていると思うが、確証はない。ただ歩き易い道を選ぶだけ。
最終的には甲山北麓の道に戻る訳で、甲山自体が大きな目印となって
くれる。道なりに下って行くと仁川左岸の道に出た。上流に向かって
進んで行くとと、見覚えのある分岐に至る。元の徒渉点に戻ってきた。
スマホの地図アプリでログを取っておけば、歩いた軌跡が分かるはず
だが、どうも面倒くさくてやる気がしない。此の徒渉点はなぜ水量の
増える出合の下流に設けてあるんだろう。上流側ならもっと渡り易い。
甲山北麓の道に戻ってきた。途中もう一つ仁川河原と記された道標を
見る。都合三つあって真ん中の道標から、徒渉点に向かった事になる。
一度歩いただけで確実性のない情報。甲山山頂を示す分岐も三つ見る。
15時45分。甲山西麓の園地に出てきた。秋の日の入りは早く既に
夕暮れを感じさせる。時刻が早ければ自宅まで歩いて帰るが、今から
だと2時間半は掛り途中で暗くなってしまう。バスが有ったら乗ろう。
阪急バスは休日に一日一本だが、阪神バスが本数多く20分後に来る。
バスに乗り込むと賢そうな西宮甲山高校の生徒で満員。終点の阪神西
宮駅まで乗車する。運賃220円。初めて乗ったが山行に便利な路線。