急に何処かに行きたくなった。ガイドブックのコピーの束を手繰ると、
高島トレイルの記事が出てきた。何年か前に図書館で借りた本をコピ
ーしたもの。通して歩くことに魅力は感じないが、歩きたい山はある。
計画は2泊3日で作ったものの、実際に行くかは前日まで迷っていた。
それだけの荷物を背負って歩ける自信がなかったから。早朝に阪急夙
川駅から烏丸駅へ。JR京都駅まで歩き近江今津駅。JRバスで保坂。
事前に検討していたら、もっと良い選択が有ったろうが、とりあえず
思いついた最安の行程だ。JRバスが20分の乗車で610円と高い。
保坂から車道を20分歩いて水坂峠へ。高島トレイルの登山口がある。
新しい登山届箱が設置されていたが、ペンも用紙も無くて届けられず。
というかペンも持参していない自分が悪い。山に何を持っていくかも
忘れている。入り口付近は倒木の多い湿地帯で、何処が道か分らない。
杉林の中を標識に従って歩いて行くが、複雑な地形で細かいアップダ
ウンが続く。杉の木には鹿除けにポリテープが巻かれている。実際に
多くて、この日8匹の鹿を見た。30年位前は少なかったように思う。
落葉樹が現れてホッとするが、少し歩けば杉の人工林となる。この
辺りでは車の走行音や、工場の稼働音が聞こえて、深山の趣はない。
その昔に山スキーで登りたいと思ったことがある。もう少し北側の
三十三間山は行ったが、アプローチの悪さと主稜線のなだらかさで、
あまり山スキーには向いていなかった。武奈ヶ嶽も検討していたが
行かずじまい。そんな事もあって歩いてみたいとずっと思っていた。
コアジサイの群落が道を覆っている。その密生度は摩耶山の比では
ない。昨日の雨で濡れているので、腿から下がびしょ濡れになった。
今回全行程でコアジサイの群落が随所にみられた。6月らしい風景。
平成の大合併で出来た高島市。それを機に設置された高島トレイル。
もう15年近くなる。韓国人登山客の誘致も目論んだことがあるの
か、ハングルの道標もある。ただ数は少なくて実効性はないだろう。
10時24分、水坂峠から2時間10分。足の遅いハムとしては及
第点。疲労も少ない。計画したものの歩けるか心配していたが、何
とかなりそうだ。それより心配なのは天候。小雨がパラついている。
今日も明日も晴れ時々曇りの予報だったが、西高東低の気圧配置の
ようで、吹き抜ける北風が冷たい。武奈ヶ嶽の北尾根は晴れていれ
ば稜線漫歩が楽しめそうだが、残念ながらガスってなにも見えない。
高島トレイル公式サイトでは、愛発越をスタートとしてる。水坂峠
が最低地点で逆コースは厳しいというのが理由だそう。今回は自分
にとって最も魅力的な部分だけ選んだので、逆行することになった。
13時ちょうど、開けた所があったので昼食にする。次第にガスが
晴れて、トレイル最高峰の三重嶽(さんじょうだけ)が見えてきた。
この時は読み方も知らずに、なんで三重って言うのかと思っていた。
魚眼レンズで取ったみたいだが、実際に湾曲している大杉。積雪に
耐えてこうなったんだろう。30年前に山スキーをしてた頃。当時
も温暖化は警鐘されていたが、近くの乗鞍岳では4米の積雪が普通。
高圧線が雪に埋もれそうになるので、除雪の為に関電の小屋があり
職員が常駐していた。振り返ると武奈ヶ嶽が見えた。水坂峠から頂
上までは、植林帯が多く魅力的でないが、北尾根はまずまずだった。
武奈ヶ嶽から三重嶽かけて、ヤマボウシが群落を作っている。樹高が
低いので、実がなる頃には果樹園のようになるのではと思う。赤みを
帯びた花が特徴的。摩耶山にも多いが、高木なので実の採取は難しい。
尾根上に小池があった。モリアオガエルの卵が沢山ぶら下がっている。
トレイルの標識は環境を考えてか、耐候性の低いテープで作られてい
て、風の強い所では途切れている所もある。この付近では少々迷った。
背の低い草原に人ひとり歩ける細い道が続いている。下生えらしい木
がなく草が生えているのは独特。こんな植生が山頂一帯まで続く。気
持ち良い所だと思ったが、帰ってから調べると鹿の食害によるという。
クネクネと蛇のように曲がったブナの木が多い。それほど風が強くて
積雪が多い時に育ったのだろう。一応は地理院地図を印刷して持って
来たが、地図に記載のない三叉路があって、頂上だと勘違いしていた。
南側に抜けた所があり、比良山系が望めた。山頂標識を探して西側に
進む踏跡を辿ってみるが違うよう。後で解ったのだが三重嶽の頂上一
帯は、東西に長い三つの盛り上がりがあり、此処は一番南側のピーク。
再びトレイルの標識を探して、北側に進むと東西に長い中央のピーク
に至る。西側に200mばかり進んだ所に三角点がある。とても平坦
な所で何処でも幕営できそうだ。だが今日中に大御影山まで行きたい。
15時13分、三重嶽(973m)の頂上に到着。武奈ヶ嶽から2時
間。コースタイムとは付合するが相当疲れてきた。久しく幕営山行を
していないので、必要な食糧や水の量が分からずに多めに持って来た。
家族には一日1合で十分と言われたが、米を一日2合。計4合持って
来ている。頂上からの眺望は良くない。かろうじて南東に伊吹山、琵
琶湖に浮かぶ竹生島が見えていた。湿気が多くて、ぼんやりしている。
トレイルに戻り北に進むと三番目のピークが見えてきた。やはり東西
に長い。先の二つと違って草原状のピークだが、これも鹿の食害によ
るものらしい。トレイル上に爪跡があり、鳴き声は間断なく聞こえる。
ただ展望はすこぶる良い。北側に美浜沖の日本海が、やや西寄りには
三方五湖が見えている。谷を挟んで隣に旧知の三十三間山が見えてい
るはずだが、その平凡な山容ゆえにか同定できない。野坂岳は雲の中。
西側に長大な稜線の大御影山(950米)が見えている。今日の目的
地だが、間にある河内谷の源頭まで大きく迂回して行かねばならない。
コースタイムは2時間20分だが、とてもそれ位では行けそうにない。
枝についている葉は緑だが、幹から生えてる葉が紅葉している。実は
大御影山には一度登ろうとしている。箱館山スキー場を越えて処女湖
沿いに向かったのだが、余りの林道の長さに、時間が足らず敗退した。
一見すると草原のように見えるが草ではないよう。苔や地衣類という
のかな。寒冷で雲に覆われることが多いので、このような植物が生き
残るのだろう。この先は展望も無く、単調で退屈な尾根歩きが続いた。
16時30分、ようやく河内谷源頭の転換点に到着。大分歩みも遅く
なってきたが、少なくとも後2時間は行動できるだろう。姿は見えぬ
が鹿が走り去る音、警戒してキーンと高い鳴き声が始終聞こえている。
大御影山への上りは近江坂という古道となる。南北朝以前より人馬が
行き交って道跡が掘れている。緩やかに細かく九十九に登って行くさ
まは、いかにも古道で雰囲気が良い。トレイルは時折端折ったりする。
17時35分、大御影山の頂上に到着。まだ夕暮れまでは時間がある。
抜土に向けて下っても良いが、山頂の反射板の脇に平坦な芝地がある
ので幕営することに。根子岳で地面の冷たさを思い知ったせいもある。
押入れの奥から持ち出してきたモンベルのツェルト。いつ買ったもの
か思い出せない。初代なら40年前だが。今売られている物に比べる
と随分重い。風も弱いので何とか張れた。一晩過ごすには十分だろう。
19時過ぎに若狭湾に夕日が落ちる。スマホの電源を入れてラインを
立ち上げるとなんと繋がった。とりあえず家族に無事を知らせておく。
今朝4時起きだったので、明るい内に食事を済ませ早々に寝てしまう。
今日のBGM Heaven- Avicii (1989- 2018)
Avicii - Heaven (Lyrics) ft. Chris Martin
And I think I just died
僕はきっと死んだんだ
I think I just died
僕は死んだんだと思う
Yeah, I think I just died
ああ, 死んだんだと思う
I think I just died
And went to heaven
死んで天国へ行ったんだ