3月5日は火曜日。今日まで摩耶ケーブル・ロープウェイは年次点検で
運休中。でも快晴の予報は見逃せない。気温も15度まで上がるという。
こういう時こそ、ロープウェイを利用しないコースを選び歩いてみよう。
六甲道から長峰墓地まで歩いてきた。桜の木が多い所だがもちろんまだ
咲いていない。只一本の紅梅が満開となっていた。背後の長峰山が低く
見える。この辺りは概ね標高200m。長い舗装路歩きがもう少し続く。
ハチノス谷東尾根道に取りつく。下りに利用する事の多い道だ。上り
は久しぶりで、見覚えのない風景が続く。いきなりツツジの藪が現れ
る。この尾根は南向きなので、摩耶山系では例年一番早く開花する所。
六甲線一一鉄塔を過ぎ、次のコブまで進む。標高520m付近だろうか。
樹幹越しに何とか天狗梁が望める。ここから日柳川まで急峻な支尾根を
下降し、天狗梁に登り返そうという計画。2014年4月に歩いている。
天狗梁をスッキリ望める所を探すのが目的だったが、見つからずに終わ
った。廃道を下ったように記憶していたが、そんなものは全く見つから
ず、急峻な岩尾根や沢筋を、立木を頼りにズルズル下って行くばかりだ。
前回は日柳川本流に下りついたが、今回は北側の天狗梁を意識しながら
下った為か、右岸から流れ込む支沢に降り立った。右下には本流の河床
がキラキラ輝いて見える。ガレの詰まった沢で、落石の不安が常にある。
こんな場所は早く通過したいし、本流まで下降する理由もない。対岸の
尾根を辿れば、天狗梁に着くだろう。取りつきやすい所から尾根に乗る。
昨日は雨が降った。乾燥した落葉と土砂は滑りやすい。ちょうど良いぐ
らいの湿り気になると思ったがどうだろう。最初から立木頼りの急斜面。
スリップしても重大事には至らないだろうが、それなりの緊張感を持つ。
この尾根は木々も岩も安定している。他所に比べて木もしっかり生えて
いるし岩も固い。それはもちろん比較的という事で朽ちた木も浮いた岩
もある。そういった事にお互い声を掛け合いながら、慎重に登って行く。
尾根の中段までは割と広く、ルートは自由に選べる。過去2度登ってい
るが、毎回違う所を通っている。右手に天狗梁の基部と思われる岩場が
あるが今まで気づいていなかった。もっと左寄りを辿っていたのだろう。
右手に見える岩場は巨大だが、頂部までは続いていないように思われる。
これから辿るルートは、その隙間を縫うような形になる。左へ斜上する。
中段の岩場。かつて六甲学院山岳部の生徒はゲレンデとして親しんでい
たと思われる。家族は南西のリッジが登れるのではと提案するが、敢え
て難路を選ぶ必要もないだろう。向うに見えるのが先ほど下った支尾根。
松葉の積もった急斜面。写真では手前の藪に焦点が合ってしまい、分り
難いが、前方に陽光を浴びて白く輝く天狗梁の頂部が見えた。それはま
るで人工的に造られた柱の様。天狗梁と名付けられた由縁かも知れない。
落葉の急斜面からのルートは限定的になり、毎回同じところを登ってい
る。この手前で家族がズルっと滑る。平たい岩に薄く土砂が乗っていた。
ここまでは湿った土砂は登り易かったが、状況によって危険因子となる。
天狗梁の頂部を望む所まで来るとホッとする。これから先はほぼ岩の
上を歩く。気は抜けないが足元の不安定さからは解放される。右手の
斜面は切れ落ちている。立木がなければ日柳川の河床まで墜落しそう。
とか思っていたのだが少々大げさで、自分の記憶の頼りなさに落胆する。
樹木が込んでいて河床は見えない。岩場を登っているようにも見えるが
実際のところ両手両足で岩を攀じるのは、上の写真の1m程の段差だけ。
天狗岩の頂部。大昔のグレードでいうと3級+ぐらいだろうか。しかし
我々には取りつくすべもない。手前の岩との間にあるバンドを左に入る。
初めて来た時は西側へ回り込めることを分からずに、強引に登った凹角。
その時に手掛かりにした枯れかけた松の木。意外に健在でぶら下がって
みたが、何とか持ちそう。とはいえグラグラしてるので信用はできない。
今更無理をする必要もないので岩の間のバンドを下り、西側に回り込む。
一段下れば急斜面だが、イノシシの作る獣道が縦横にあり天狗梁の頂部
に容易に巻き上れる。それはそれで安易に帰した敗北感は味わっている。
天狗梁の頂部に立つ。一段上には平たい岩があって、一組限定で良き
休憩場所となる。かつては混雑する天狗塚を避けて、ここまで下って
昼食を摂りに来たこともあった。この景色を見るのは3年ぶりのこと。
昼食は今日も家族の作った稲荷寿司。大葉を入れて変化をつけてある。
スーパーで買ったモンブランのケースが弁当箱代わり。テルモスも持
ってきたが、自然に常温のお茶に手が伸びる気温。すっかり春の陽気。
天狗梁からハチノス谷東尾根に登り、再び標高520m付近まで下って
来た。スマホのアプリで標高が確かめていると、暇を持て余した家族が
枯れた松の木に登っている。天狗梁を見ようとしたらしいが無理だった。
標高520mのコブから少し下った所で、道を外し南西に斜面を下る。
3月3日に長峰大好きさんが歩かれたルートを、トレースしようと思
ったからだ。しかし明瞭な尾根に乗れないままに谷に降りてしまった。
これを飛行機谷の源流と間違える。迷いながらも目的の場所にいると
希望的観測を持ちたがるのが習い性。対岸の尾根を下ればハチノス谷
の中流にある15m斜瀑に行き着くと、この時点では思い込んでいた。
ところが此の尾根は暫く下ると切れ落ちて進めない。左手の僅かな水量
の谷へ下る。ハチノス谷にこんな支流が有ったろうか。家族が落ち口を
確かめに行くが先は見えない。この時点で訳が分からなくなってしまう。
谷の右岸斜面にはロープの残骸はあるし、踏み固められた踏跡もあった。
目標のハチノス滝の巻き道に出会ったとも考えらる。だが周囲を何度も
探るがそれらしくはない。とすれば踏跡を下って確かめるしかなかろう。
下った所は中流にあるハチノス滝(15m斜爆)ではなくて、一般には
ハチノス大滝と呼ばれている泥棒滝だった。全く誤って歩いていた訳だ。
それにしても何故こんな名前で、六甲学院山岳部は呼んでいたのだろう。
もはや計画のコースに戻り直す気力も体力も残っていない。泥棒滝の
巻道を登り返し、ハチノス谷の源流から西尾根に出て巡視路を下ろう。
先ほど見た小滝に出合う。何の事はないグルっと回って来てしまった。
ハチノス谷は何度も遡行しているのにもかかわらず、源流部の様子を
覚えていなかった。あれだけ大きな滝の落口が、あんなに細い流れだ
ったのか。それでも遡行していくと谷幅も広がり、様子も思い出した。
右岸の傾斜が緩くなったところで、遡行を止めて斜面に取りついた。
そして辿り着いたのは、ハチノス谷中腹の凹地。つまり泥棒滝は意
外に標高の低い所にある。遡行した経験で此処より上と思っていた。
地図も見ていないが、地形を全く分かってない。この付近は落葉が
積もって少々迷い易い所だったが、現在は明瞭な踏跡がついている。
伯母野山からの道が閉鎖され、此方を歩く人が増えたかも知れない。
西尾根を下って振り返る。黄色いラインぐらいが3月3日に、長峰大
好きさんが辿られたルートかな。正確な地図はインスタに掲載されて
いる。赤いラインが我々が彷徨った所。又機会があれば歩いてみよう。
谷や滝の呼称は、六甲学院山学部誌「たきび」に従っています。部内
だけの呼び名もあり、一般的ではないでしょう。ただ往時この山域で
濃密な時間を過ごされた方々に敬意を払って、使用させて頂いてます。
今日のBGM