摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

三国山(876m)・・・・・・滋賀県・高島市・・・2017年3月17日

もう人生の終わりを迎えようとしているせいか、昔行った所に、

もう一度訪れたいと思うようになった。ここもそんな場所の一つ。

広島行きの為に買った青春18きっぷが、まだ一回分余ってる。

芦屋駅5時57分の普通列車に乗車し、3回の乗替えで湖西線

マキノ駅8時21分着。マキノ高原行きタウンバスで白谷で下車。

敦賀の天気予報は、晴れ時々曇りだったが、小雨が降っている。

8時45分、黒河林道に向かって、県道533号線を歩きだす。

中央のガレが、明王の禿なら、左の緩やかなピークが赤坂山。

中央奥が三国山だろうか。手前の建物は白谷温泉八王子荘。

9時10分、黒河峠への分岐に到着。県道から20メートル程

除雪してあるが、その先は残雪に埋まっている。これは意外、

先日の岩籠山の状況から、林道に雪は少ないと思っていた。

山スキーの滑走痕と獣の足跡が残るのみ。トレースはない。

それはそうだろう。赤坂山や三国山に登るなら、マキノ高原

から登る方が一般的だ。冗長な黒河林道を歩く人はいない。

岩籠山ではそれほどに思わなかったが、今年は雪が多い。

雪は締っておらず、兼用靴を履いてもくるぶしの上まで沈む。

一歩一歩が重たく、はたして何処まで行けるやら不安になる。

たまに日も差すが、また雨が降ったり、典型的な時雨れ模様。

歩幅の短い自分のトレースを振り返る。歩いていると色んな

ことを思いだす。遠い昔に、山スキーのクラブに入っていた。

早朝の国鉄バスへの乗継のため、当時の今津駅には一晩中

暖房と照明のある待合所があった。週末の夜には我々を含め

二・三のパーティが、次の日の山スキーのために宿泊していた。

峠が近づくとまた雨が降り始めた。そうだったあの頃でさえ、

6時台の始発バスに乗って行動を開始してたのに、今日は

2時間ほどスタートが遅い。そもそも計画に無理があったか。

11時45分、黒河峠のトイレに到着。峠よりやや滋賀県側に

立っている。高島トレイル整備に合わせて立てられたもので

見るのは初めてだ。この付近から上は1メートル以上の残雪。

トイレの軒下で、惣菜パンの昼食。小雨が降り続いている。

家族には、三国山から赤坂山を経て、余裕があれば寒風も

越えマキノスキー場に下ると、言って来たが、もう到底無理。

12時00分、それでも行ける所まで行って下ろうと出発する。

膝上まで沈むが、林道を歩くよりは、斜面を登っている方が

楽しい。少し登れば乗鞍山の鉄塔が見えてきた。雨も止む。

1984年、今から33年前の3月24日、国境スキー場から

単独で乗鞍岳に入山した。雪が締っていて滑走を楽しんだと

記録しているが、午後になって吹雪となり視界が無くなった。

黒河峠への下りが分らず、やみくもに滑降して福井県側の

谷に入ったりした。やがて薄暗くなってきたので、稜線まで

出て、高圧鉄塔の下にツェルトを張った。すぐに暗くなった。

風雪が強いのに稜線に出たのは、とにかく現在地を明らか

にしておきたかったから。寒くて中々に眠れなかったことを

覚えている。おまけに食料を、ほとんど持っていなかった。

そう言えば今日は、食料こそ多少持っているが、ツェルトは

持ってない。ちっとも反省していないな。風に煽られるツェルト

を抑え乍らも、少し眠ったようだ。起きると朝日が差していた。

昨夜とは打って変わって快晴の朝だった。黒河峠を挟んで

三国山が立派に見えた。こんな日はめったにない。食料は

無いが、三国山を越えて、マキノスキー場に下ろうと思った。

黒河峠まで快適に滑降し、峠からはシールを張り三国山

登った。無風快晴、いわゆるドピカンだった。山頂に着いて

暖かい日差しを浴びていると、いつの間にか眠ってしまった。

すると雪原の向こうから、山スキーで登って来る人がいる。

その人影はみるみる近づいて来た。同じクラブのYさんだ。

そして、「はい。」と言って、大きなオニギリを渡してくれた。

そこで目が覚めた。33年前は空腹で赤坂山を越えマキノに

下ることを断念したが、今日は別の理由で止めることにした。

時間が無いのも理由の一つだが、三国山から望んだ稜線は、

緩やかなアップダウンを繰り返している。シールを付けた

山スキーなら、快適に登り滑降して行けるが、ビッグフット

では何度も着脱をせねばならず、体力を消耗するだけだ。

そんなことも考えずに計画していた。山頂に立って初めて

気づくなんて、どうにかしている。黒河峠に戻ろう。林道の

下りは苦労するだろうが、峠までの滑降は楽しめるはず。

今日は13時30分頂上到着。14時00分に滑降開始する。

山スキーの板は捨ててしまった。今さら重いスキーを担いで

山に向かう元気はない。軽くて短いビッグフットだけが頼り。

山頂から南の湿原に向かって滑降する。見た目より斜度

は緩いし、湿った新雪が積もっていて、思うように滑れない。

この季節、ビッグフットが得意なのは、よく締ったザラメ雪。

余り下り過ぎると、東の尾根に登り返すのに苦労する。

この辺りで斜行しよう。今日の雪の状態では、頂上に

登り返して、もう一度滑ろうという気は、起きなかった。

東の尾根に出た所で、名残を惜しみ振り返る。どうやら

天候は安定しつつある。計画通りには行かなかったが、

まあ三国山には登れたので良しとしようか。さようなら。

峠まで一直線とはいかないが、疎らなブナ林の中を

滑降して行ける。斜度はキツくもないし、緩くもなくて

ちょうど良い。但し、重い新雪が足かせとなってくる。

10センチぐらいは潜りながら滑っている。長いスキー

だったらどうだろう。板が長ければ浮き易いけれども、

その分、雪の抵抗も沢山受けるので、何とも言えない。

下るにつれて深く潜るようになり、峠の手前ではこんな

感じに。でもビッグフット向きの斜面だったとは言えよう。

14時40分、黒河峠まで戻って来た。此処からが大変。

33年前のあの日も、気温が上がり雪が腐って、スキー

が、ほとんど滑らず苦労したことを、僅かに覚えている。

この林道の傾斜は緩い。少し滑っては止まり、ビッグ

フットを履いたまま歩いては、また少しの間滑ったり。

とにかくビッグフットを脱いで、歩くよりはましなはず。

16時00分、結局一度もビッグフットを脱がずに、林道

の入口まで戻って来た。再び県道を歩いて白谷へ戻る。

県道を歩いてると、「定時乗合タクシー」という札を掲げた

タクシーが追抜いて行った。後で調べると在原までの便が

有り、手を揚げれば300円でマキノ駅へ乗車出来たらしい。

もっとよく調べておけばよかったと悔やむ。白谷のバス停

でタウンバスを30分待つ。山では再び雨が降っているよう。

マキノ駅に着くと、京都方面へは一時間近く待つ。スマホ

調べると、10分後の近江塩津行きに乗車すれば、米原回り

の新快速に連絡する。列車の乗り方さえ、昔とは違っていた。




今日のBGM