摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

第5回 杣谷源流遡行

7月2日の土曜日は、夜中に目が覚めて、ふと大昔の山行計画書や

写真を見始めたら眠られなくなった。結局、朝食後にもう一度眠るが、

起きたのは、正午近くになっていた。こんな時間から何処に行こうか。

意外にも青空が見えている。午後2時発のロープウェイで掬星台へ。

上空は風が強いらしく雲の動きが速い。久しぶりに杣谷源流辺りを

歩いてみようかと思う。日の長い此の季節なら何とか行けるだろう。

ドライブウェイを杣谷峠に向かう。自然園のアジサイが咲き揃った。

杣谷峠から木ノ袋谷出合まで下って入渓する。水量はそこそこ多い。

入ってすぐの鋼製取水口跡。水量があれば、ちょっとした小滝に

思えなくはない。水心はフリクションがよく効き、楽しく越えられる。

谷が屈曲する所の小滝。いつもは右岸から取り付くが、今日は左

岸寄りを登ってみよう。まあホールド豊富なので、何処でも登れる。

次のチェックストン滝。家族はすんなり上って行ったが、ハムは

うまく登れない。背中と腕で突っ張って抜けるのだが、大き目の

ザックで背中が入らない。家族にザックを先に引き上げてもらう。

チェックストンの所で手間取っていたら、腰から下がずぶ濡れ。

水量は常の3割増し位。滑の斜爆を越えると杣谷道が交差する。

続いてゴーロが積み重なる所。いつもは水流は見えていないが、

今日は表面を流れている。この上で再び杣谷道が渡渉している。

間の悪い事に、上から降りて来られた数名のハイカーと鉢合せ。

行き過ぎて貰ってから、幅の広い滑を歩くていく。好きな所だが、

やや暗くて冴えない。青空も見えていたのに、曇ってきたのかな。

一般道で摩耶第四砂防ダムを越え、落石注意の看板のある所で、

堰堤上の堆積地へ下る。花崗岩が風化した真砂が大量に溜まる。

堆砂地を過ぎると勧進滝下の大岩群が現れる。左岸の壁が立ち

迫力のある所。通過は何も難しくないが、圧迫感があり緊張する。

いつもより勧進滝の水量も多い。ハングしているので、シャワーと

なって滝下に落ちている。飛沫を浴び乍ら、滝下を通過し更に進む。

続いて滑状の斜瀑。ここが面白い地形で、上から一直線に流れて

いるように見えるが、実は中段で横から、本流が流れ込んでくる。

此方が本流。溝状の沢がしばらく続く。杣谷の上流は、すぐ隣に

一般道があるので、昔から遡行の対象とは、されていなかったが、

歩いてみれば変化に富んでいて、存外に楽しい沢歩きが楽しめる。

溝状を抜けると、斜度の緩い5mの滝。上部でスタンスはあるが、

確実なホールドが無い。立木にシュリンゲを投げゴボウで抜ける。

これは我々のレベルの話で、普通の人ならすんなりと登れるかも。

すぐ左に杣谷道を見て進むと、幅の広い滑床が続く。出口には

3m程の小滝。水流の右にガバがあるので、容易に直登できる。

小滝を越えると杣谷道が交差する。この先は険悪な渓相なので

杣谷道で巻いてしまう。滝に崩れた大岩が詰まり通過は難しそう。

パックマン岩の所で、再び沢に下る。此処には、二つの流れが

合流している。右俣が本流で過去に歩いたことがある。今日は

左の細い流れを詰めてみようと思っって来たのだが。甘かった。

岩床の露出した急峻な沢で、最初から取り付く気も起きない。

写真で見るよりも、実際は斜度がある。家族が登ろうとしたら、

ホールドが抜け落ちた。靴のフリクションにも自信が持てない。

装備がシュリンゲ3本なのと、薄暗くなってきたことを理由に、

巻き上がることにした。二俣の中間尾根を登っていくのだが、

ここも岩交じりの急峻な尾根で、沢に戻りたいが降りられない。

結局、斜度が落ちる所まで巻き上がると、谷は土砂で埋まって

伏流していた。恐る々下を覗き込むと岩床と水流が見えている。

相当長い距離、岩床が露出しているようだ。登れず少々悔しい。

上流は両岸が広がる大きな谷。出合の細い流れからは想像

もつかない。良い雰囲気だなと見上げていたら、ブヨに数箇所

刺されていて、後で大きく腫れ上り、とてもかゆい思いをする。

倒木の多い谷を詰めていくと、隈笹の茂る支尾根に出る。薄い

踏跡を左側へ数十メートルも登ると、見覚えのある場所に出た。

木の袋尾根の円頂だ。花期にはミツバツツジが綺麗な所だが、

今は暑苦しく休憩する気にもなれない。北へ進みアゴニー坂へ。

いつもより笹藪が濃いし、背丈も伸びている。笹も夏には繁る

と当たり前なことに気付く。どうも天気は悪くなってきたみたい。

食事を摂りに天国ベンチへ来たが、ガスに包まれ展望はない。

夕日と夜景を見てから下ろうという計画だったが、脆くも崩れた。


今日のBGM