摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

熊石峰(1099m)・・・・・・慶尚南道・山清郡・・・2016年5月6日

当初の計画では、咸陽で連泊して二三の山に登ろうと思っていたが、

国立公園である南徳裕山以外は、5月15日まで山火事防止のため

入山禁止だと知り、急遽、咸陽の南側、山清郡の熊石峰に変更した。

昨夜から雨が降り始め、今朝も小雨が降っていたが、午前7時頃には

止んだ。午後からは晴れるという天気予報を信じ、午前8時に宿を出る。

バスがないので、山清市外バスターミナルからタクシーに乗り7000W。

駐車場には、トイレと東屋だけがある。韓国にしては簡素な登山口。

しばらく舗装された林道を歩く。雨は降っていないが、山はガスの中。

15分ほどで、仙女潭という所に着く。この潭とは少し先の川の二俣

を指すのか、右俣にかかる滝の滝壺を指すのか、どうも分からない。

ただ此処から舗装路を離れて、右俣に沿って登山道が伸びている。

少し登ると、河原に向け道があり、入ってみると立派な滝がある。

地図によると「降神ドゥン瀑布」という重厚な名前がついているが、

肝心の現地には案内板の一つ無く、その名の由来も分からない。

滝の上は斜度のきつい滑となっている。とても登れそうにもない。

しばらくすると、登山道は沢筋を離れて斜上して行く。樹林越しに

垣間見る様子では、滑は上流の滝まで2kmは続いているだろう。

なぜ登山道が沢筋から離れて行くかというと、両岸がスラブで

形成されているから。ゴルジェとも違う急峻なV字型の谷となる。

登山道は、左岸スラブの上端を縫っていく。沢側の展望はない。

写真では、全く表現できないが、すごいスラブの上を歩いている。

支沢が流れる此の場所の下は、数十メートルのスラブ滝なんだが、

覗くことも出来ない。だが、その迫力にすっかり魅了されてしまった。

登山道は整備されていて、危険を感じることはない。そもそも、

この山は、咸陽郡の山々の代替案として、韓国600名山という

地図本から見つけただけで、予備知識も、期待も全くなかった。

奥の滝。立派だが樹幹越し僅かに、その姿を確認できるだけ。

今まで数多く登った韓国の山には、もっと大きな岩場や谷は

あったが、この山は他にはない、独特の雰囲気を持っている。

奥の滝の上に橋があり、登山道は対岸に渡る。長く続いた滑は

此処で終わり、これより上の沢筋は、ゴーロの積み重なり伏流。

登山道は右岸に渡り、やや単調な樹林の登りとなる。日本なら

キンバイ(金梅)と呼ばれるだろう、黄色い花が沢山咲いている。

右岸沿いに登って行くとまた橋があった。取りつきの道標等は、

古びていたが、こういった安全に関わる部分は、しっかりしてる。

韓国にありがちな過度な設備はない。単調ではあるが、落葉樹の

緑に包まれて、韓国の山の良さを満喫している。ただし蒸し暑い。

標高が上るとガスが出てきた。午後から、晴れの予報だったが、

思ったよりも回復が遅いようだ。登山道は段々と急になってくる。

前方が明るくなってきた。どうやら主稜線の峠に到着したようだ。

谷水がきれてから此処までは、昨日の南徳裕山の疲れもあって、

とてもきつかった。もちろん蒸し暑さも、疲労度を倍増している。

到着した大峠は、反対側から涼しい風が吹き抜けて気持ちよい。

たっぷり水分補給し、ゆっくり休憩する。頂上までは、まだ2km。

峠から歩きだすと、クロフネツツジが姿を現した。花は最盛期だ。

それが次々に続く。花に関しても一切予備知識はなく、もちろん

期待もしていなかった。なので有頂天になってシャッターを切る。

フワフワしたピンクの花弁が、霧に浮いているように見える。

このクロフネツツジ韓国では何と呼ぶのか。web上の記事も

一定しておらず、韓国人に聞いても判然としなかったのだが、

チョルチュク(철쭉)というのが、経験から出した結論である。

紫色の花を咲かせた低木のツツジが現れた。カラムラサキツツジ

韓国ではチンダルレ(진달래)と呼ぶ。両者は通常花期が異なって、

一緒に見れたのは初めて。この二つが混同されることが多々ある。

峠からの道は、緩やかな樹林帯を行くものだが、数メートルも

左には断崖絶壁が続いている。樹林が抜けた所で小休止する。

ガスが晴れないかと、しばらく待っていたが、どうも無理なよう。

左にチンダルレの薮、右にチョルチュクの林が続く。稜線上の

道は何処までも緩やか。花が咲いてなければ退屈かもしれない。

だが今日は連綿と続くツツジの花が、単調な道も飽きさせない。

ガスが立ち込め、花が浮き上がったように見えるのも好ましい。

後ろの大木と一体化したような構図。ツツジの木は腕程の太さ。

それにしても長い。穏やかな起伏が続くばかり、時に少し下った

りするので、もしか山頂を通り過ぎたのではと思ってしまうほど。

峠の道標から1時間で、やっと次の道標が現れた。此処で道が

北東側に屈曲して山頂に向かう。地図上の1075高地だろう。

標高点があるにしても実際には平坦な所。写真は暗いけど、

伸び々と枝を伸ばしてるツツジの木があって、気持ち良い所。

1075高地から一旦ヘリポートに下り、また緩やかに登る。

チンダルレ咲く坂道を登って行くと、監視小屋が見えてきた。

今は無人だが山火事対策用の物。もうほんの少しで山頂だ。

ガスの中、熊石峰頂上に到着した。山名碑は公設の物ではなく

地元の山学会が立てたものだ。カワウソのような熊のイラストが

描かれている。此処で昼食にしよう。ガスも晴れるかもしれない。

というのも北側のガスが薄くなり、山清邑の方向が晴れて来た。

西側は強い風にガスが舞い上り。見えたと思ったら次の瞬間

ガスに覆われるという繰返し。歩いてきた稜線は全く見えない。

午後1時近くなったので昼食する。今日はキムパブ屋さんの

キムパブ。格別に美味しくはないけど、コンビニのよりはまし。

ふと見上げると黒い山影が現れた。智異山・天皇峰(1915m)

に違いない。思ったより高い。それもそのはず900mの標高差。

しばらく待っていたら歩いてきた稜線のガスが晴れた。だが、

智異山のガスはこれ以上晴れそうにない。そろそろ下ろうか。

山頂には1時間半も滞留していた。下山は東に直線的に下る。

北の山に掛るガスはいつまでも晴れない。急峻な尾根が続く。

この尾根にもカラムラサキツツジが咲いているが、淡い色で

余り目立たない。ガスっているぐらいの方がキレイなのかも。

尾根道が北に転じると、露岩の細尾根となる。楽しい変化だ。

振り返れば雄々しい姿の熊石峰が見える。本当に良い山だった。

更に下ると伐採地があり北東の展望がある。山清市街は山陰

で見えない。此処から以降は、やや人工的な林が麓まで続いた。

まだ中腹だが、林道の終点に出た。今朝タクシーで登ってきた

車道が、此処まで続いているようだ。西側へ林道を下って行く。

仙女潭2kmが今朝の登山口だが、250mの所に下山路がある。

此処が下山路の入口。林道を外れて、単調な杉林を下って行く。

午後3時半に、内里(ネリ)の貯水池まで下ってきた。ここから

山清市街までも歩かねばならない。どのくらいかかるだろうか。

内里にはバスは一日2本しかない。タクシーも通らないし言葉が

出来ない。電話も持っていないので、暑さに耐えて歩くしかない。

だが、全く期待していない山だっただけに、充実感に溢れている。