摩耶山の麓から

Mt.Maya Without a Map

十勝岳(2077m)・・・・・・2015年9月22日

美瑛岳の山頂には、8分間しかいなかった。少しだけの行動食を

口にして先に進む。緩やかな岩尾根を10分も下れば縦走路分岐。

ここから十勝岳までのコースタイムは、白銀荘で見た地図によると、

2時間40分だ。この区間が大変なので、宿の人は美瑛岳ピストンを

勧めると言われたが、まだ午前10時なので、たぶん行けるだろう。

縦走路を進むと右側は断崖絶壁で、西風が猛烈に吹き付けてくる。

こんな強風の中、十勝岳方面から歩いてくる人も、少なからずいる。

温度計を見ると7度くらいだが、指先が凍えて痛い。体感温度は、

もっと低いのだろう。北海道に来てから概ね20度前後だったので、

急に13度も、低い所に来たので、寒く感じるという事もあるだろう。

尾根の細い所で、吹き飛ばされそうになる。耐風姿勢なんて言葉を

思い出したくらいだ。思わず道を外し、少し東側の斜面に下って歩く。

東側はガスが晴れている。湿気を含む強い西風が十勝連峰に当たり

雲が沸き上がっているんだろう。地上では晴れているのかもしれない。

東側の斜面に入り込めば、風当たりも弱くなり、楽に歩いて行ける。

行程の距離表示のないシンプルな標識。今どこら辺りにいるのか。

来た道を振り返る。ここまでは下り主体の、緩やかな道だった。

火山灰の土壌が作る特異な風景。アイスランドには行ったことも、

風景写真を見たこともないが、こんな景色じゃないかと思ったり。

前方のガスが晴れると、家族が立ち止まって、何かしているみたい。

強烈な西風に、もたれかかっているそうだ。結構余裕があるらしい。

だが十勝岳への登り返しが始まると、二人とも途端に足が遅くなる。

東側に青空が見えた。このまま晴れてくれ、という願いも虚しく、

数秒後には、またガスに覆われてしまう。一体どんな天気なんだ。

段々、周囲の植物が疎らになってきた。此の先は砂だけの世界。

毎年、雪が溶けると此の砂の道は、無くなっているに違いない。

十勝岳から次々に登山者が下って来る。総じて軽装な人が多い。

家族がガスに向かって、多分「晴れろ!」と言っているんだろう。

その願いは一瞬だけ聞き入れられ、前方の視界がクリアになる。

それも束の間の事、数秒後には、またガスが視界を覆い尽くす。

尾根が広くなり、やがて広大な平頂部を行く。木の杭が目印に

立てられていているが、次の杭がどうにか見えるくらいだ。これ

以上ガスが濃くなれば、道を失う可能性も十分あるに違いない。

地面が白くなってきた。噴煙とは言えなくても、火山性物質が

浸み出ているんだろう、目が痛くポロポロ涙が出てたまらない。

大きな岩が積み重なる尾根に来た。視界も無いまま登って行く。

これが十勝岳山頂直下であった。思ったよりあっけない幕切れ。

山頂到着は正午ちょうど、美瑛岳分岐より2時間で到着出来た。

山頂には、登山者が10名以上いた。また次々と登ってこられる。

道標にトムラウシ山の名がある。1995年にポンクヮンナイ川を

遡行して登った懐かしい山だ。気温9度、行動食を食べ小休止。

一瞬だけ、ガスが薄くなり、望岳台方面の景色が僅かに見えた。

その以降は再びガスに覆われて、視界が広がることは無かった。

山頂には20分ほども居たろうか、一向にガスが晴れる様子も

ないので、少々心残りではあったが、もう下山することにしよう。

山頂では大丈夫だったが、下り始めると、硫黄のせいか目が痛い。

涙は出るし、眼鏡は曇るしで前が見えない。眼鏡を外して歩いてく。

十勝岳には、1995年5月(阪神大震災の年)に、望岳台にあった

スキー場から山スキーで登った。標高の割には、楽に登れた記憶

があるが、滑降自体は緩斜面が延々と続き、全くつまらなかった。

今日歩いても、山頂からの出だしを除くと。単調な緩斜面ばかりだ。

標高が下がり、ガスの底を抜けだして、麓まで見通せるようになる。

登山道は、擂鉢(すりばち)火口縁を通る。前回も通ったはずだが

全く記憶にない。スキーなので夏道を通ってはいなかったのだろう。

強い西風が十勝連峰に突き当たり、ガスを作っている正にその現場。

スキーでつまらい傾斜は、歩きはもっと退屈。走って下る人が多い。

だが我々には、そんな元気もバランスも無く、ただ追抜かれるだけ。

十勝岳避難小屋まで下ってきた、この小屋は火山災害の為の小屋で、

普通の避難小屋とは様子が違う。噴火時の避難場所という位置づけ。

避難小屋から下は、ジープなら何とか通れそうな車道を下って行く。

車道は望岳台に直進する道と、白銀荘分岐に回り込む道に別れる。

避難小屋から、20分程で分岐に着く。テントまでは更に一時間掛る。

吹上温泉までは、十勝岳の裾野をトラバースして行く。今朝一度

通ったはずなのに、急いでいたからか、この溶岩帯を覚えてない。

三段山が夕日に映える。時間に余裕があるので、景色も楽しめる。

西日に照らされた、針葉樹の森を抜ければ、吹上温泉キャンプ場。

午後2時50分。予定より2時間早く戻って来た。天気が良ければ、

もっと時間が掛っていただろう。下山するバスまで3時間近く有る。

テントを乾かしたり、軽い食事を摂ったりするが、時間が余りそう。

寒くなってきたので、十勝岳温泉へ行く上りのバスに乗せてもらう。

再び吹上温泉に戻ってくるのだが、市街地200円・全線500円の

一律料金だから良いのかな。下りの発車までは20分の待ち時間。

観光客で賑う、十勝岳温泉・稜雲閣の展望台から、対岸の紅葉。

十勝岳温泉という名だが、富良野岳・上ホロカメットク山・三段山

に囲まれ十勝岳は見えない。白銀荘と白金温泉もあって難しい。

沈む夕日を眺めていたら、下りのバスに乗り遅れそうになった。

このバスは再び、吹上温泉・白銀荘を経由して上富良野に戻る。